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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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154話 エルフの里3

 白狐に捕まえられた人攫い達は皆一様にボロボロだった。

 素手でも十分な強さを持っている事を証明した白狐。

 そんな人攫いを捕まえてきた白狐を出迎えた長老、その長老に白狐が尋ねる。

「この里の中に完全な密室はありますか?多少汚してもいい場所がいいんですけど。」

「ある事にはあるが、何をするつもりだ?」

「ちょっと手荒な事をしてこの人達にアジトを聞き出します。」

「ちょっと手荒…拷問でもするのか?」

「拷問ってほどの事じゃないですよ。ちょっと体に聞くだけです。」

「むむ。まぁ、良い。案内しよう。」


 案内されたのは四畳半程度の広さの完全密室。

 なんでも里でルールを破った者が入れられる独房のような場所らしかった。

「ここなら完璧ですね。汚れたら水洗いも出来ますし。」

「白狐よ。ワシは何をしたらいい?」

「尋問は1人ずつ行いますから、紫鬼さんは残りの4人の見張りをお願いします。」

「わかった。」

 そうして一人ずつ独房に入れられていく。

 白狐の手にはいつもの白刃・白百合と脇差が握られている。

 そこで行われた『尋問』は大層な絶叫を齎すものであった。

 1人、また1人と独房に入れられては出されるのだが、出された人攫いは号泣しながら全身から血を流している始末である。

 大の大人がここまで号泣するほどの『尋問』。どんな事が行われているのかは外の者にはわからない。


「ある程度は話が聞き出せましたよ。」

 独房に5人全員を入れ、『尋問』し終わった白狐が紫鬼と長老に言う。

「この方達は隣の国のヌイカルド連邦国の首都ヌヌスからやって来たらしいです。上部組織は旧王国領の第二の都市、セカンダルにあるようですが、人攫い自体は上部組織の指示ではなく、ヌヌスにある組織の単独行動らしいですね。」

「そのヌヌスに捕らわれた女達もいるのか?」

「えぇ。まだセカンダルに搬送するほどの人数が揃っていない為、ヌヌスの組織下で捕らえられているそうです。私達はヌヌスまで行って捕らわれた人達を開放してきましょう。」

「それなら里の者も同行させよう。」

「そうですか。この方達が攫った人を搬送する為の馬車を持っているようなので、攫われた人達を連れ帰る事を考えればあと1人くらいしか同席させられませんけど?」

「それならワタシが一緒に行こう。」

 話の途中で入ってきた女エルフがいた。端正な顔立ちをした160cm程度の小柄な金髪の女性である。細身な体型をした者が多いエルフの中にあって、なかなかに豊満な体付きをしている。

 背には立派な弓矢を背負っており、装備品から言って一流の狩人である事が伺える。

「貴方は?」

「あぁ。申し遅れた。ワタシは紺馬(こんま)。精霊神様の加護を受けた王、精霊王だ。」

「貴方が外に出ていた王でしたか。」

「あぁ。貴方達の事は長老から聞いている。なんでも他の神の神徒だとか。」

「えぇ。私が白狐と言いまして、破壊神の加護を持つ破王。こちらの紫鬼さんは鬼神の加護を持つ鬼王です。」

「破王に鬼王か。覚えておこう。それで、隣国へはワタシも同席させて貰えるか?里の事は里の者が対処するべきだ。」

「えぇ。あと1人くらいなら馬車にも乗れるようですし、問題ありませんよ。」

 という事で、白狐と紫鬼は5人の人攫いと紺馬を連れて、人攫いの持っている馬車を止めた位置まで案内させ、隣国のヌイカルド連邦国の首都ヌヌスへと向かったのである。


 ヌイカルド連邦国は5つの小国がくっついて出来た連邦国である。その為、法律は5つの国それぞれで異なり、犯罪組織に対する対応なども国によって異なる。ただし、連邦国間での問題については連邦国としての法律があり、それを元に事の判断をされる。

 首都ヌヌスはそんな小国の1つであり、1番規模の大きな都市である。

 犯罪組織は多数あるが、必要悪としてみなされているケースが多く、犯罪組織同士の抗争でもない限りは警備の目からは逃れているといった状況である。

 そんな犯罪組織の一つ。パラライアが今回のエルフ誘拐事件を起こした犯罪組織である。

 エルフの里を出て8日目、人攫い5人を引き連れて白狐達3人はヌイカルド連邦国の首都ヌヌスへと入っていた。

 都市に入る際に必要となる身分証明書の類は紺馬も持っており、多少ボロボロになった5人を見て訝しがられたが、入国はすんなり行えた。


 街の中を馬車で走る事30分。御者は白狐が担当している。パラライアの本拠地である一軒家に到着した。

 ここからは時間との勝負である。人攫いの5人は馬車内に繋いでおいて残し、白狐達3人だけで乗り込む。

 紺馬の持つ弓は鳥打が金属の刃で構成されており、狭い室内で矢が射れない場合でも接近戦闘が可能だと行きの馬車内で聞いている。

 その為、3人は迅速に侵入を開始した。

 まずは玄関すぐ横の広間にいた3人を紺馬が一気に3本の矢を射て射殺した。3本ともに眉間に刺さっている。一度に射ったとは思えない精度である。

 そのまま3人は地下室へと続く階段を下りる。

 地下室には5人の男達がいたが、突然の来訪者に臨戦態勢を取る間もなく、矢に射られ、刀で斬られ、拳でぶん殴られて沈んでいった。

 地下には牢屋が作られており、中には4人の女エルフ達が捕らわれていた。

「しまった。殺す前に牢屋の鍵を出させるんでしたね。」

 白狐が慌てて倒れた5人の男のポケットをまさぐり、牢屋の鍵を探す。

 その頃には上階で射殺された3人が発見されて構成員達が地下に攻め込んできた。その数20人。

「ひとまず数を減らしましょうか。」

 白狐が白刃・白百合を抜刀の構えで迎え撃つ。

 紫鬼はいつものファイティングポーズだ。

 紺馬は弓に3本の矢を番えて敵を睨む。

「相手は3人だ。ヤローども、やっちまえ!」

 一番奥の偉そうな鶏冠頭が叫ぶのと同時に20名が襲い掛かってきた。

 そこまで広い地下室ではないため、早速混戦となる。

 まずは紺馬が3本の矢を的確に敵の喉元に突き刺して3名死亡。ナイフ片手に襲い掛かってきた2名を一刀のもとに斬り捨てる白狐。迫る長剣持ちの斬撃を避けながら顔面を強打し、壁にぶつけて頭を破裂させた紫鬼。

 戦力的には3人と言えどもその辺の犯罪組織にいるような輩に負ける事はなく、次々を屠っていく。

 最後に残ったのは一番後方にいた鶏冠ヤローだ。

「ひっ!待て。待ってくれ。何が望みだ?金か?その女エルフか?すぐ開放する。開放するから命だけは助けてくれ。」

 鶏冠頭はすぐに折れた。

 首から下げた鍵で牢屋を空け、4人の女エルフを牢から出す。

 とそこで、最後の1人が牢から出た瞬間に鶏冠頭がその腕を掴むと首筋に長剣を当てた。

「へへへっ。たった3人で俺らパラライアに攻め込むとはいい度胸しているじゃねーか。でもこうなっちまえばお仕舞いよ。人質の命が大切なら獲物を捨てな。そして後ろを向いてひざまづけ!」

 急に強気に出た鶏冠頭だったが、一瞬の隙をついて紺馬が放った矢に眉間を貫かれてあっけなく死亡した。

「これですべてですかね。この鶏冠頭がリーダだとしても他に構成員がいるかもしれません。一晩くらい待ってみますか?」

「いや。女達をすぐにでも里に戻してやりたい。ここまですればエルフに手を出せばどうなるか残りのメンバーも分かるだろう。」

「そうですか。では帰りましょうか。」

「おい。白狐。外で待たせている5人の捕虜はどうするんだ?」

「あぁ。忘れてました。連れてきて貰えます?」

 紺馬が捕らわれていた女エルフ達を馬車に乗り込ませるのと反対に紫鬼が縄で縛られた5人の捕虜を室内へと連れて行く。

「さて、ここまで情報を吐いてくれたおかげですんなり事が済みました。が、このまま貴方達を開放するわけにもいきませんよね。」

「「「「「んー!んー!!」」」」」

 さるぐつわをはめられた5人が一斉にわめき出す。

「そうですね。エルフに手を出した為にパラライアが崩壊したと喧伝出来ますか?もう二度とこの都市の犯罪者達がエルフを攫う事などないように。」

「「「「「んー!んー!!」」」」」

 5人の捕虜は一斉に首を縦に振る。

「よし、いいでしょう。貴方達はここで開放します。縄は自分達でどうにかしてください。いいですか。これを機にやり返そうなどと考えるようであれば次こそ殺しますからね。」

「「「「「んー!んー!!」」」」」

 5人は涙を流しながら首を縦に振る。

「では行きましょうか。」

「いいのか生かしておいて。」

「あれだけの目にあったんです。もう二度とエルフを攫おうなどと考えないはずですよ。」

 紫鬼の心配をよそに白狐は自身あり気だ。『尋問』した本人が言うのだ。信じておこう。


 パラライアのアジト出た白狐と紫鬼は馬車に乗り込む。御者台には紺馬が乗っている。

「では帰りましょうか。」

 白狐の一言で馬車が動き出す。

 一行は一路、精霊の住まう森へと向かったのであった。


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