149話 神交
緑鳥の祈りの間での神交は3時間にも及んだ。
それぞれが黒猫との別れを噛み締めている中、やっと祈りの間から出てきた緑鳥は疲労困憊と言った状態で、すぐに神交内容を聞くのは難しかった。
その為、皆はあてがわれた部屋で休む事にした。
フラフラだった緑鳥は側近が手取り足取り聖王の寝室へと連れて行った。
明けて翌日。
どうにか調子を取り戻した緑鳥から神交の内容を聞くのであった。
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祈りの間は以前から神との交信、神交を行う為の祭壇が用意された一室だ。
ここに立ち入る事が出来るのは代々の聖王のみという神聖な場所である。
緑鳥はいつも通り祭壇で聖神への祈りの言葉を捧げる。
すると緑鳥の意識は真っ白な空間へと誘われるのであった。
目の前には光り輝く球体が1つ浮かんでいる。これが聖神が目の前に現れる時の形態である事を緑鳥は知っている。
緑鳥は跪いたまま声をかける。
「聖神様。もう御存知かとは存じますが、大魔王、邪神の神徒である帝王銅熊は討ち倒しましたが、最後に帝王銅熊は自らの命を捧げて邪神を復活させてしまいました。」
『えぇ。下界の様子は常に覗いていました。まさか神徒達を倒すことで邪神復活を目論んでいたとは、我々神々の失態です。』
「いえ。聖神様。あのまま帝王銅熊を野放しにしておけば人族領だけでなく、地上界全土に混乱が招かれていた事でしょう。神様方には落ち度はありません。全ては救えなかったわたしの落ち度です。」
『そう嘆く事はありません。貴女は貴女なりに最善を尽くしたのでしょう。』
「はい。申し訳ございません。」
『まずは邪神の先兵たる甲蟲人への対策ですが、天界からの派兵についてですが、やはり天界の者達が地上界へと降り立つ事は難しいでしょう。』
「そうですか。」
『ですが、さらに6柱の神々が神徒を選出しました。貴女達にはこれらを探し出して甲蟲人と戦って頂きます。』
「6柱の神々ですか。その詳細をお聞きする事は出来ますか?」
『えぇ。守護神、法神、軍神、精霊神、大地母神、それに魔神の6柱です。』
「魔神ですって?」
『えぇ。これは200年前に邪神側についた魔神とは別の魔神です。地上界に仇をなそうという考えは持っていませんのでご安心なさい。』
「そうですか。それなら良かった。」
『そして邪神対策ですが、皆さんの王化の際に手にした武具を神器へと昇華させるまで神通力を与える事になりました。』
「神器ですか?」
『えぇ。神器。それは神すら殺せるこの世で1番優れた武具です。』
「その神器があれば邪神も討てるとおっしゃるのですか?」
『えぇ。見た所あの邪神は甲蟲人を作り出す為に大幅に力を裂いていたようです。感じ取れる神力もさほど大きいものではありませんでした。幸いあの程度の神格であれば神器で討ち倒せるはずです。』
「なんと。そこまでお見通しなのですね。」
『1年後、さらに13ヶ月後と指定してきたのも神力を回復させる為でしょう。』
「つまり200年前に比べて今の邪神は弱っているとおっしゃるのですね。」
『えぇ。それは間違いないでしょう。200年前は巨神を討ち倒し、その神力すらも取り込まれた事で強大な敵となっていましたが、先程言った通り甲蟲人を作り出すのに大幅に神力を削いでいます。今なら神徒達へ神器を手渡すことが出来れば討てると信じています。』
「わかりました。6柱の神の神徒を探し出して、神器を使って甲蟲人、そして邪神を見事討ち果たしてみせましょう。」
『その意気です。期待していますよ。』
「はい。ありがとうございます。」
『それでは次に会う時には良い報告が受けられるよう天界から見守っております。』
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「新たに6名の神徒を探すか。」
「時間もありませんし、各自がそれぞれのエリアを決めて捜索するのが良いでしょうね。」
金獅子の呟きに白狐が答える。
「あ。その前に銀狼様と蒼龍様には新しい義手をご用意出来ればと考えておりました。わたしと同じオリハルコン製の義手を作りましょう。」
「オリハルコン?あのアダマンタイトと同等の硬度を持ちながらも軽量で魔力伝導率が高いと言う希少金属か?」
銀狼が驚く。
それもそのはず、オリハルコンは大陸中の特定地域でしか出土せず、その流通量は微々たるものだ。そんな希少金属で義手を作るなどよほどの財力とコネがなければ出来るものではない。
「はい。聖都はドワーフ王国とも親交がありますし、優先的に素材を回して頂けるよう依頼すれば問題ないかと。ワタシの義手、義足もドワーフ王国で使って頂いたんですよ。」
「うむ。確かに今の義手では耐久性に難がある。オリハルコン製の義手に出来るのであれば願ってもない事だ。」
蒼龍が言う。
「では銀狼と蒼龍はここで義手造りだな。俺様は獣王国で皆に現状を伝えさらに国防に力を入れるよう指示してくる。」
「ワシと白狐は一足先に新しい神徒を探しに行こう。」
「おぉ。そうだ。白狐よ。黒猫から3つ交信用の水晶を預かっただろう?俺様が1つ、緑鳥達に1つ、それてお前達で1つ持てばちょうど良かろう。」
「そうですね。ちょっと待って下さい。」
そう言って白狐は2つの水晶を取り出した。水晶を金獅子と緑鳥に渡す。
「してお前らは先に何処に向かう?」
金獅子の問いに白狐が答える。
「まずはっきりわかるのは精霊神の加護持ちでしょう。精霊と言えばエルフ。聖都から北東の精霊の住まう森に行ってみます。」
「精霊の住まう森か。確かにあり得るな。よし。では俺様は聖都よりも西側を探そう。獣王国の隣の魔術大国マジックヘブン辺りから探しだそう。」
「お。マジックヘブンに着いたらこの通信用の水晶を買い足しておいて下さい。6人分あれば良いでしょうからひとまず3つほど。」
「うむ。分かった。」
と言う事で三組に分かれて行動することになったのだった。




