148話 凱旋5
金獅子達と別れた帝国軍兵士達は元要塞都市ガダンを出てから城塞都市モーリスには立ち寄らず、まっすぐに首都ゼーテを目指した。
30日後にはようやく首都ゼーテへと到着した。大魔王城を出てから実に133日後の事である。
バルバドスは早速城へと戻り、皇帝陛下への謁見を取り付けた。
謁見の間には玉座に座った白髪をオールバックにし、顎髭を蓄えた壮年の男とその取り巻きである大臣などが待っていた。
この白髪オールバックの男こそが帝国の皇帝陛下、デュアロ・クロムウェルその人である。
「皇帝陛下、早速ご報告させて頂きます。」
跪くバルバドスが言うが何故か一緒に謁見の間に入ってきた勇者バッシュ・クロムウェルに遮られた。
「父上、ご機嫌麗しゅう存じます。第3皇子、バッシュ。ただいま戻りましてございます。」
跪くバッシュ。
「うむ。元気そうだな。バッシュよ。して首尾の程はどうだ?」
「は。この僕、勇者の活躍もあり、無事に人族領侵攻を目論む大魔王を討伐して参りました。」
まるで自分が大魔王を討ったかのように報告するバッシュ。
「うむ。そうか。それはご苦労だった。」
皇帝デュアロ・クロムウェルは胸をなで下ろす。
「いえ。陛下。まだご報告は終わりではありません。大魔王は最後に自らの命を捧げて邪神の封印を解いたと言うのです。」
バルバドスは報告を続ける。
「なに?邪神とな?200年前に滅ぼされたはずの邪神が、何故復活する。」
身を乗り出して訊ねるデュアロ。
「はっ。大魔王を討った聖王率いる傭兵団の話では200年前は邪神を倒したのではなく亜空間に封印されていたのだとか。その封印を大魔王が解いたという事です。」
「なに?聖王率いる傭兵団?話が見えん。大魔王を討ったのはバッシュではないのか?」
「はい。大魔王は聖王率いる傭兵団が打ち倒しました。その際に邪神が復活したのだとか。それで邪神は1年後、今からですと7ヶ月目と半月後から自らが造り上げた甲蟲人なる魔人を月に1度地上界に侵攻させると、言って亜空間に戻ったそうです。」
「月に1度?甲蟲人とななんだ?」
「はっ。わたくしも死骸しか見ておりませんが蟲を無理矢理人型にしたような化け物でございました。そんな甲蟲人を月に1度、12カ月間侵攻させ、13ヶ月目には邪神自らが地上界侵攻に動くと申していたとの事です。」
「人型の蟲…。その甲蟲人の戦力は如何ほどだ?」
「はっ。なんでも魔将かそれ以上の力を持っているとか。」
「魔将と言うとガダンを陥落させたという魔人の事か。」
「はっ。その通りでございます。」
「なんと。そのような者が侵攻してくると言うのか。」
「はっ。わたくしめにあてがって頂いた兵士達ももはや5000名をきるほどの被害が出ております。その上魔将と同等かそれ以上の敵が現れたとなれば今の兵力では抵抗が難しいかと。」
「そこまでの相手か?その甲蟲人と言うのは。」
「はっ。実際に魔将とも戦った者達の言質でございます。」
「そうか。して将軍バルバドスよ。帝国軍の総指揮たるお前はこれからをどう考える?」
「はい。まずは軍の強化として徴兵を急ぐと共に、万が一に備えて闘技場の戦士達にも軍部に加わって貰うよう依頼したいと考えておりました。」
「父上。もし甲蟲人なる者達が攻め込んでこようともこの僕、勇者たる僕がいれば帝国は安泰です。」
バッシュがしゃしゃり出る。
「うむ。バッシュよ。お前の働きには期待しよう。それはそれとして、バルバドスよ。お前は徴兵と軍部の強化に努めよ。闘技場の者共に対しては皇帝命令として参戦させよ。」
「はっ。畏まりました。」
「あと7ヶ月か。どこまで準備出来るかだな。」
デュアロは大臣達へも指示を出す。
「戦争準備だ。食料や水などの必需品を集めよ。さらに他の街へも使者を出せ。戦える者はすべてここ、ゼーテへと集めるのだ。」
大臣の1人が言う。
「そうなりますと他の街の防備が不十分になるのでは?」
「構わん。ここゼーテさえ守り切ればわれわれの勝利だ。他の街に被害が出るようならゼーテなら兵を派遣すれば良い。」
「はっ。畏まりました。」
「それとここに第1皇子と第2皇子を呼べ。」
「はっ。」
慌ただしく謁見の間を出ていく大臣達。
「では陛下。わたくしめも軍部の調整に入らせて頂きます。」
「うむ。下がれ。」
「はっ。」
バルバドスも謁見の間を出ていく。
残ったのは勇者にして第3皇子のバッシュのみ。
「それにしても派遣した兵の半分以上が死亡したとなると敵は相当なものだったのだな?」
デュアロがバッシュに問う。
「はい。えぇ。そうですね。一般兵では中々難しかったでしょうね。」
「そうか。よくお前は無事に戻ってきたな。」
「えぇ。僕は勇者ですからね。選ばれし者として、責務を果たしますよ。」
「うむ。励むが良い。」
そうこうしているうちに第1皇子と第2皇子が謁見の間にやってきた。
「父上、お呼びでしょうか?」
「何事ですか父上。」
「うむ。実はな…。」
バルバドスの報告にあった事を2人の皇子にも伝える。
「そんな?!邪神が?」
「その甲蟲人とはそこまでの脅威なのですか?」
「うむ。バルバドスの見立てではガダンを滅ぼした魔将か、それ以上との事だ。」
「ガタンを…」
「それ以上…」
皇子2人とも絶句である。
「でだ。お前達を呼んだのは他でもない。2人とも聖都と魔術大国マジックヘブンにそれぞれ退避しておけ。」
「な?!父上!」
「私達に帝都を見放せと?」
「帝都には私とバッシュが残る。万が一にも帝都が敵の手に落ちた場合に備えてお前達2人は別の土地にいて欲しいのだ。さすれば帝都が落ちようとも皇帝の血は守られる。帝国の復興も成ろう。」
「それは…。」
「確かに万が一を考えれば…。」
「そう言う事だ。2人には側近と護衛の兵士をつけよう。出立の準備を進めてくれ。」
「わかりました。」
「わかりました父上。」
2人の皇子が謁見の間を出ていく。
「父上、万が一にも聖都と魔術大国マジックヘブンが落ちた際には?」
「その時はお前がいる。大丈夫だ。帝国は死なん。」
そうして帝国も戦争準備に入るのだった。




