147話 凱旋4
ガダンを出立して6日目にして城塞都市モーリスに到着した。
途中にはオークやゴブリンと言った定番の魔物が多数出たが難なく倒した。
ゴブリンキングとオークキングの混成軍が立ちはだかった時は少し手間取ったが、王化する事も無く金獅子、銀狼、蒼龍、紫鬼、白狐で対処出来た。黒猫は緑鳥の護衛だ。
オークキングでもBランク程度、ゴブリンキングに関してはCランク程度なので一向に取っては大した障害にはならなかった。ただ配下のオークジェネラルやゴブリンジェネラル、ハイオークなどの数が多かった為、戦闘は1時間程度続いた。
モーリスに立ち寄ったのは馬を購入する為だ。
これからの移動を考えると早馬を購入しておいた方が都合が良いと考えたのだ。
モーリスに着くなり早速馬屋に向かう一行。
店主は見事に禿げ上がったでっぷりと太った親父だった。
値引き交渉が得意な白狐が商談に入る。
「出来るだけ足の速い馬を7頭、購入したいのですが。」
「7頭ですか。早馬となれば1頭、大金貨2枚と言ったところですね。7頭だと大金貨14枚。」
「7頭一気に購入ですよ?もうちょっとくらいまかりませんか?」
「んー。しかし早馬となると数に限りがございますし、普通の馬よりも相場は上がります。」
「そこを何とか。7頭も購入するんですし、少しくらいは交渉の余地ありだと思ったんですが?」
禿げ親父はお腹の肉をたぷたぷさせながら言う。
「んー。そうですね。確かに大口のお客様だ。わかりました。では1頭当たり大金貨1枚と金貨9枚にまけましょう。7到着で大金貨13枚と金貨3枚でどうでしょう?」
白狐は黒猫の方を見る。
頷く黒猫。財布を握っているのは黒猫だ。
「よし。親父さん、それで購入します。よろしくお願いします。」
「よし、商談成立だ。馬はいつ取りに来ますか?」
「今すぐにでも欲しいです。」
「わかりました。では馬小屋にご案内致しましょう。」
と言う事で馬小屋に移動した。
早馬となるとこちら側の10頭の中から選んで下さい。
言われた金獅子達は馬が繋がれた一角へと足を運ぶ。
それからはそれぞれが自分に相性の良さそうな、懐きそうな馬を探す。
「よし、俺様は決まりだ。1番手前の奴を貰おう。」
金獅子牙1番最初に決めた。
「俺も決まりだ。奥から2番目を貰おう。」
「ワシも決まりじゃ。手前から4頭目を貰おう。」
「我は手前から3頭目にしよう。」
銀狼、紫鬼、蒼龍も決まる。
「私は1番奥のコでお願いします。」
「わたしは奥から4頭目のお馬さんでお願い致します。」
白狐と緑鳥も決まる。
残った馬をじっくりと観察する黒猫。
手前から5番目の馬が黒猫が前に来た時に激しい動きを見せた。
「俺は手前から5番目の馬を貰おう。」
と言う事で全員が馬を手に入れた。
モーリスでは1泊せずにさっさと街を出て聖都に向かう事にした一行。
そして早馬を走らせる事4日。金獅子達は聖都セレスティアに到着したのだった。
街に着くと馬留に馬を預け、早速神殿に向かった。
「おぉ!聖王様ご無事でしたか。」
「聖王様のお帰りだ。皆の者、支度を。さぁ旅の疲れもあるでしょう。すぐに皆さんのお部屋も用意致しましょう。」
「いやー、聖王様がご無事でなにより。」
「皆様に感謝を。聖王様をお守り下さりありがとうございました。」
神殿に着くなり4名の側近がすぐにやって来て口々に聖王の無事を喜んだ。
その側近達へと緑鳥が言う。
「大魔王は倒しましたが邪神が復活してしまいました。大魔王が最後に自らの命を捧げて封印を解いてしまったのです。」
「な?!なんと!」
「邪神復活ですと?!」
「それは一大事!」
「今邪神は何処へ?」
口々に邪神復活を嘆く側近達。
「落ち着いて下さい。邪神は今は亜空間へと戻りました。ですが1年後には甲蟲人なる配下をこの地上界に侵攻させると言っていました。今はあれから約4ヶ月が経過しています。あと8カ月間で甲蟲人の侵攻に備えなければなりません。」
緑鳥は堂々たる姿勢で側近達へと告げる。
「甲蟲人…蟲の魔人でしょうか?」
「あと8カ月ですか…。」
「敵の侵攻…。」
「まずはどうなされるおつもりで?」
側近達はそれぞれが思った事を口にする。
「甲蟲人は蟲の魔人と言う認識で間違いないでしょう。まずは聖神様と通信して神託を得ます。新たな戦力として新規の神徒が生まれているかもしれませんし。」
「あ。ちょっと待ってくれ。緑鳥にも聞いて欲しい。」
早速祈りの間に向かおうとする緑鳥を呼び止める黒猫。
「どうしましたか?黒猫様?」
「実は今後の事を考えていたんだ。ヨルを失って王化出来なくなった俺は皆と肩を並べて戦えなくなってしまった。もう守られる存在になっちまったんだ。そんな奴が一緒にいても足手まといになるだけだろ?だから俺はワンズに戻る事にするよ。」
「なに?傭兵団を離れると言うのか?」
金獅子がすぐさま反応する。
「あぁ。みんなの戦闘についていけない俺は足手まといにしかならない。」
「そんな事無いだろ?黒猫は十分戦えるさ。」
銀狼も言う。
「いや。甲蟲人との対戦では役に立たないさ。王化した皆でやっと倒しただろ?俺なんかいても邪魔になるだけだ。」
「そうな事は。」
「そうじゃぞ。そんな事はない。」
蒼龍と紫鬼も引き留めようとするが、
「いや。もう決めたんだ。ヨルを失って本調子が出ない俺では尚更足手まといになる。」
「クロさん。そうですか。確かに元々がマジックヘブンでヨルさんと分離出来たら旅には同行しないと言うお話でしたしね。ヨルさんがいなくなった今となっては貴方を縛る事は出来ない。」
白狐が言う。
「いやしかし、白狐よ。お前はそれでいいのか?」
紫鬼が慌てて言う。
「離れていても私がクロさんの妻である事には変わりありませんから。」
まっすぐ黒猫を見つめて言う白狐。
「あぁ。そうだな。離れていても白狐は俺の妻だ。すべてが片付いたらワンズに来てくれ。一緒に暮らそう。」
「分かりました。全て牙片付いたらか必ず。」
「うん。ドランの事は皆に任せていいか?こいつも成長すればもっとみんなの役にたつ。」
今じゃ成長して150cmほどの大きさになったドランを撫でながら言う。
「お前も皆の言う事ちゃんと聞くんだぞ?」
「グギャ!」
元気よくドランが返事をする。
「餌は影収納にある大量の肉を置いていく。緑鳥、ここには保冷機構のある倉はあるか?」
「えぇ。食材保存用の倉庫がございます。」
「じゃあそこに入れておくとしよう。蒼龍にはこの紅猿が使ってた棍を預けておくよ。稽古にでも使ってくれ。」
陰から紅猿の棍を取り出して蒼龍に渡す黒猫。
「あと金獅子に言われて持ってきてたゴーレムの残骸も渡しておこう。」
大魔王城で倒した7体のゴーレムの残骸をその場に出す。
「おう。ありがたく受け取ろう。」
「それにこの通信用の水晶も白狐に渡しておくよ。俺が持ってるより皆に使って貰った方がいいだろう。」
白狐は通信用の水晶を3つ受け取った。
「じぁあ呼び止めて悪かったな。緑鳥。早速祈りの間に向かってくれ。側近の1人は俺に食材保存用倉庫を案内してくれ。」
「黒猫様。今まで大変お世話になりました。」
「いや。こちらこそ世話になった。ありがとな。緑鳥。話は以上だ。」
と言う事で一団から黒猫が抜ける事となった。
黒猫は側近の1人に案内された倉庫に大量の肉を入れて行く。
ドランの餌としては十分過ぎる程の肉が高く積まれている。
「さて、これで全てだな。」
食材保存用倉庫から出てきた黒猫に皆が声をかける。
「クロさん、お元気で。」
「クロよ。達者でな。」
「黒猫、元気でやれよ。」
「黒猫、今までありがとう。」
「黒猫よ。ワンズも甲蟲人の侵攻対象になるかもしれん。その時は一緒に戦ってくれるか?」
金獅子が最後に聞いてくる。
「あぁ。そうだな。その時はみんなが来るまでの時間稼ぎくらいはしてみせよう。」
黒猫はそう言うと1人で馬留に向かう。
「クロさん…。」
その背中を最後まで見送った白狐。
こうして黒猫は去って行ったのであった。




