138話 決戦6
黄豹が殺された。
不死身だったはずの黄豹が死んだ。
戦いが終わったら一緒に盗賊稼業をしようと話をしていたのに。
殺し屋から足を洗うと話をしていたのに。殺されてしまった。
魂を破壊する技?
なんだそれは。防ぎようがないじゃないか。技を出される前に銅熊を倒しきるしかない。
俺の中の怒りが伝播したのか、ヨルの攻撃も速度と威力を増した。
黒刃・左月での攻撃を弾こうとする長剣を逆に弾き上げ、銅熊の胸部に黒刃・右月を突き入れる。
銅熊の王鎧についた罅が大きくなる。
こいつは許さない。
ヨルも同じ気持ちのはずだ。
猛攻を仕掛けるヨルの視界の中で、銅熊が押され始めた。
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帝王が放った九魂からの破魂の技は、連続して9回攻撃を入れた相手の魂を掴み破壊する技であり、1日に2回しか使えない大技である。
しかもその代償として片腕の機能を失うと言う諸刃の剣である。
実際、不死王に破魂を仕掛けてから丸楯を持つ左腕はだらんと力が抜けたように垂れ下がっていた。
ここからは右手だけで戦う事になる帝王。だが、それ程に不死身性を恐れたと言う事だ。
片腕となった事で夜王の攻撃を弾ききれずダメージを負う機会も増えた。
王鎧には罅が入り、いつ砕けてもおかしくない。だが、
「さぁ。あと1人。あと1人で邪神様の復活だよ。」
攻めたてられているとは思えない程にテンションが高い。
夜王の振るう黒刃・左月と黒刃・右月を長剣で弾き、夜王の腹部に突きを放つ。
夜王の王鎧にも罅が入りいつ砕けてもおかしくない状況だ。
夜王と帝王の一進一退の攻防はまだまだ続く。
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不死王の異変に四天王と戦う4人も気が付いた。
不死身であるはずの不死王が倒れている。
さらによく見れば門の周りに配置された玉石が全て砕けている。
つまり不死王がころされたのだと悟った。
「くっ。黄豹が…。」
「黄豹さん…。」
「黄豹…。」
「あの黄豹が…。」
四者四様の驚き方ではあるが皆衝撃を受けていた。
牙王が斬り倒されて、聖王に回復させられているのも横目に見ていた。
3対1だったのに、今や1対1にまで持ってこられた。
早く目の前の四天王を倒して夜王に合流しなければ。
焦るあまり、逆に攻撃を受けてしまう。
鬼王対牛頭鬼、龍王対馬頭鬼、獣王対デュラハン、破王対リッチーの攻防も佳境に入った。
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夜王の攻撃が当たり始めた。
帝王の丸楯を持つ片腕は機能を失い、長剣1本で夜王の黒刃・左月と黒刃・右月での連撃を捌く。
パリィが得意と言うだけあって片腕になった今も二振りのナイフを弾いている。
夜王には帝王が丸楯を持つ腕を使わなくなった理由はわからない。分からないながらもチャンスではあると思っていた。
帝王の長剣は夜王のナイフを弾くので精一杯で、反撃の余裕はない。
たが、夜王の攻撃もまた弾かれてダメージを与えられないでいた。
「ハハハッ。楽しいね。ここまでぼくと刃を交えられたのは君が初めてだよ。」
「うるさいわ!貴様は絶対に許さん!」
黒刃・左月で斬りかかる。
長剣で弾かれる。
黒刃・右月を突き出す。
長剣で弾かれる。
長剣での突きが伸びる。
黒刃・左月で弾き上げる。
黒刃・右月で斬りかかる。
引き戻された長剣で弾かれる。
同時に長剣と黒刃・右月を突き出す。
お互いの胸部に当たり、王鎧が砕けていく。
まさに一進一退。
片腕を使えなくなってなお、夜王と互角の帝王。
ここで思い出したかのように夜王が動く。
「影移動。」
夜王の姿が影に沈んむ。
帝王の背後に回った夜王が黒刃・左月を振り抜く。
咄嗟の事に夜王を見失った帝王は背中に斬撃を受けてたたらを踏む。
がすぐさま振り向いて長剣を薙ぐ。
その時には1歩引いて長剣を避ける夜王。
「影移動。」
またしても夜王の姿が影に沈んだ。
また背後に回られると見た帝王は振り返り長剣を振り下ろす。
しかし、夜王は元の場所に現れると背後を向いた帝王の背中に黒刃・右月で斬りかかる。
前のめりになる帝王。
「むー。厄介な技だね。」
そう言う帝王の声音はまだ楽しんでいるそれであった。
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牛頭鬼と戦う鬼王。
パワータイプには速度で勝負として斬鬼形態に移行する。
「王化!鬼王!斬鬼!」
鬼王が声を上げると、左足にしたアンクレットにはまる王玉から青紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に1本の角を持つ鬼を象った兜に青紫色の王鎧を身に着けた斬鬼形態となる。もちろん左腕の鉤爪も健在だ。
牛頭鬼をスピードで翻弄する鬼王。牛頭鬼の周りを回りながら腹部に付けた傷口を開くように鉤爪を振るい、蹴擊を繰り出す。
高速で振り抜かれた蹴擊は斬撃を伴い牛頭鬼の腹部に吸い込まれる。
ついに牛頭鬼の腹部から腸がはみ出してきた。
巨大戦斧を振り回す牛頭鬼。
周りを回る鬼王の移動先を狙った攻撃はさらに速度を増した鬼王の前に空を斬る。
はみ出した腸を切り裂くように鉤爪を振るう。
「ブモォォォォ!」
激痛が牛頭鬼を襲い、思わず雄叫びが上がる。
巨大戦斧を横薙ぎに払う。
鬼王は跳躍してこれを避けるとさらに腹部に攻撃を浴びせていく。
「ブモォ…ブモォォォ!」
牛頭鬼の動きが悪くなってきた。
ダメージが大きいのだ。
戦斧を振るう速度も落ちてきた。
こうなればあとは力押しの方がいい。
「王化!鬼王!剛鬼!」
鬼王が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象ったフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた剛鬼形態へと戻る。
「鬼拳!」
傷口に拳が突きささる。
「ブモォォォォ!」
「双鬼拳!」
両の拳で繰り出された妖気を纏った技は腕の中程まで牛頭鬼の腹部に突きささる。
「ブッ…ブモォォォ…。」
ゆっくりと牛頭鬼が倒れ込む。
こうして鬼王対牛頭鬼の戦いは鬼王の勝利となった。
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馬頭鬼と戦う武王形態の龍王。
燃え盛る紅色の槍と三叉の槍を駆使して、馬頭鬼の腹部に大きな穴を空ける。
「ヒヒィィィィン!」
金砕棒を振り回す馬頭鬼だったが、三叉の槍に弾かれ、紅色の槍で腹部を斬られる。
炎を伴う斬撃は傷口を焼いて出血こそしていないが、確実に馬頭鬼の体力を奪っていった。
横殴りの金砕棒を三叉の槍で受けて、数m吹き飛ばされる龍王。
馬頭鬼はすでに肩で息をしている。
体力の限界も近いはずだ。
「龍覇連突!」
左右の槍での連続突きを腹部に受けた馬頭鬼は後方に倒れ込む。
「ヒ…ヒヒィィィィン!」
倒れ込んだ馬頭鬼顔面に向けて槍を振るう。
ザシュッ。
振るわれた槍は馬頭鬼の眼球を切り裂き、頬に抜ける。
「ヒヒィィィィン!」
鳴き続ける馬頭鬼。
無事な方の眼球に向けて紅色の槍を突き入れる。
「ヒヒィィィィン!」
燃え盛る槍を頭部に差し込まれた馬頭鬼は脳まで焼かれると断末魔をあげてぐったりした。
こうして龍王対馬頭鬼の戦いは龍王の勝利で終わった。
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デュラハンと戦う獣王。
すでに雷撃が有効なのは確認済みである。
その為、先程から雷撃を乗せた一撃を放っていた。
「雷鳴剣!」
騎士剣で受けたデュラハンであるが、騎士剣を通して雷撃がその体に流れ込む。
「ググッ。」
「はぁぁぁあ!」
雷撃で動きを止めたデュラハンに向けて大きく大剣を振り下ろす。
ガギンッ
と硬質な音が響いてデュラハンが吹き飛ぶ。
騎士剣を杖代わりに立ち上がったデュラハンの鎧の胸部が割れていた。
このデュラハン。鎧の中に肉体があるかと思いきや、その中身は空洞であった。
鎧自体に意思が宿りその体となる鎧を動かしていたのだ。
となると、鎧をバラバラにしない限り止まらないのか?
いや、あの小脇に抱える頭部こそ怪しい。
頭部を叩き付けた際にも確実にダメージがあった。
頭部さえ破壊できれば倒しきれるのではないか、獣王はそう読んだ。
となればやる事は1つ。
雷撃で動きを止めたあとは片手で抱えた頭部を狙う。
獣王は吹き飛んだデュラハンに向けて駆け出す。
騎士剣で迎撃するデュラハン。
振り下ろされる騎士剣を目前で止まって避けた獣王は跳躍し、頭部を抱える肩口を狙って斬りつける。
「雷撃断頭斬!」
騎士剣を戻す前に肩口にヒットする大剣。そこから流れ込む電流によって三度デュラハンの動きが止まる。
「おりゃぁぁぁ!」
獣王は大剣で小脇に抱えられた兜に向かって突きを入れる。
突きの衝撃で脇の下から零れる兜。獣王はその兜に向けて大剣を振り下ろす。
ガギンッ
兜が割れて真っ二つになった。
するとデュラハンの肉体の鎧がパーツ毎にバラバラになって崩れていった。
やはり兜が弱点だったらしい。
こうして獣王対デュラハンの勝負は終わった。
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リッチーと対峙する破王。
もう対処法はわかった。
被弾を恐れず突っ込むしかない。
「ファイアボム!」
爆風に負けないように踏ん張って前に出る。
「ファイアボム!」
僅かに横に動き爆発の直撃を避ける。
「ファイアボム!」
爆発を飛び越えるように跳躍する。
するともうリッチーは目の前だ。
「ファイアウォール!」
高くそびえる炎の壁を越えるように1歩踏み出す。
「抜刀術・飛光一閃!」
高速で振り抜かれた刀により放たれた一閃は炎の壁を両断する。
リッチーは後方に逃げる。
そんなリッチーに向けて再度踏み出し抜き身の刀を振るう破王。
「抜刀術・閃光二閃!」
抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げるとリッチーが持つ長大な杖が横3つに切断された。
一瞬で2回刀を振るったのだ。
さらに後退するリッチー。もう魔法を打つ余裕もない。
白狐は1歩進んで跳び上がると刀を振るった。
「抜刀術・発光三閃!」
その剣閃が通った先ではリッチーの胴体が横4つに斬り刻まれていた。
超高速で振るわれた刀は一瞬のうちに3回も敵を斬り刻んでいたのだ。
都合6回の剣技でリッチーは死骸と化したのである。
こうして破王対リッチーの勝負は破王に分配があがったのである。




