137話 決戦5
片腕を失ってしまった銀狼。
どうにか戦線には復帰したがやはり義手を失った時の衝撃により、戦い辛そうである。
黄豹が何かしようとらしたのをヨルが止めたのは、きっと不死性を活かして剣を受け止めようとしたのを止めたのだろう。
黄豹の不死性は本当に奥の手だ。
魔将の1人、五身の五木もそれを機に不意を突けて倒すことが出来た。
そのチャンスをいかに有効なタイミングで使えるか、そこが対銅熊戦では重要になりそうだ。
ヨルも果敢に攻め込んでいるが、銅熊のパリィは凄まじい。
長剣と丸楯だけで3人の攻撃を全て弾いてしまう。
凄い技術だと思う。
対人戦闘にはそれなりに自身がある俺だが流石にここまで敵の攻撃を弾き続ける事は出来ない。
ってか、やろうとも思った事もない。1度弾いたらその隙をついてさっさと首筋を一閃させてとどめを刺していた。
多対1での戦闘経験もあるが、ここまで敵の攻撃に晒されながらの攻防はなかった。
さっさと避けて順番に首筋にナイフを突き刺していった。
それで気付いた。この銅熊は戦闘を楽しんでいるのだ。
自身を追い込んで、それを弾く事で自分の存在意義を見つけるかのように。
要するにイカレてやがるんだ。
喋り口調は澄んだ落ち着きのある人物風だったが、その実戦闘狂なのだろう。
今もヨルと黄豹が果敢に攻め込んでいるが、全てを長剣と丸楯で弾いている。
歯がゆい思いをしながらも俺には見守る事しか出来ない。
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基本的に受けの姿勢を見せる帝王に夜王も攻めあぐねていた。
黒刃・左月で斬り込み、弾かれたところを黒刃・右月で突こうとするも、最小の動きで弾いてくる長剣の前に黒刃・右月すら弾かれる。
しかも弾いた隙を突いて長剣が飛んでくるのだ。
いつもなら逆に自分が弾く側だった。
しかし受けの姿勢を崩さない帝王を相手にはこちらこら攻めるしかなく、先程は上手く不死王が釵で長剣を受け止め、絡め捕った事で隙が生まれ、攻撃を入れる事が出来たが、敵も王鎧に守られている為にそこまでダメージは与えられていない。
今も不死王が釵で長剣を絡め捕ろうとするが、1度見せてしまった為に警戒されてなかなか上手くいかない。
牙王も戦線に復帰してこちらは5本の武器で攻めたてているが、相手は2つの武具で全てを弾いてくる。
相当な手練れである事はわかった。
これは神通力を得る前から相当な訓練を積んでいるのだろう。
夜王は何処かのタイミングで影縫いを発動させようと考えていた。
動きを止めてしまえば攻撃を弾くことも出来ない。
そのタイミングを見極める為に今はひとまず黒刃・右月と黒刃・左月を振るい続けるのだった
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不死王は戸惑っていた。
今まで対峙してきた暗殺対象と比べても明らかに目の前の帝王は強かった。
何よりもここまで攻撃を弾き続けられたのは初めての経験だ。
不死王は世にも珍しい刃付きトンファーやあまり使い手のいない釵など、特殊な武器を多用してきた。
その為、相手がそれに対応してくる前には倒しきってきたのだ。
それを目の前の帝王は初見で的確にトンファーの一撃を弾いてきた。
それどころか今はトンファーの代わりに持った釵にも対応し、剣を掴ませないように振るってくる。
帝王の突きを受けて釵も飛ばされた。
まだもう片方の釵がある。
トンファーを持ち替えて太股か釵を抜く。
トンファーで殴るように大振りで横薙ぎを繰り出しつつ、剣で弾かれた際には釵で掴み取れるように構える。
しかしトンファーの刃は丸楯で弾かれてしまった。
外に弾かれた事で体が外側に流れる。
その背に向かって長剣が振り下ろされて背中に大きく斬撃を食らう。
王鎧により守られてはいるが、大きく弾き飛ばされた。
その穴を埋めるように牙王が前に出る。
片腕をながらも必至でしがみついていたが、片腕で持つ剣を弾かれて胸部に大きく斬撃を受けた。
吹っ飛ばされる牙王。
王鎧の胸部に大きく穴が空いてしまっている。
再び攻撃を受ければ被害は甚大なものになる。
そうならない為にも自分がもっと攻めなければと、トンファーを振るい、釵で突きを繰り出す。
吹き飛ばされた牙王も戻って再び3人の攻撃が始まる。
と、ここで夜王が突如として座り込み影収納から何かを取り出している。
これは五身の五木の時にも出していた影縫いを発動させる気だと気付いた不死王は影の位置関係を確認する為に、一瞬下を向いた。
その時
「ぐはぁ!」
「え?」
その一瞬で牙王が袈裟懸けに斬られた。
王鎧が砕けた箇所を的確に狙った攻撃を受けた牙王は鮮血を散らしながら吹き飛ばされる。
「まず1人だね。」
攻防を続けながら帝王が言う。
不死王は後悔した。自分が視線をきらなければと。
しかし黒猫が言っていた後悔役に立たずの言葉を思い出し、気持ち新たに銅熊へと向かって行くのだった。
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聖王は戦場を俯瞰して見てそれぞれの戦いを見守っていた。
自身の出番にはすぐ駆け寄れるように。
その為、牙王が斬られて吹き飛ばされた時も行動は早かった。
すぐさま牙王に近付き怪我の状況を確認する。
「うぅぅぅ…。」
呻き声をあげている。傷が深い。出血も酷い。
そのために傷が治る前に血を止めたい大量出血時に使用される止血の聖術ヘモスタシスを使用する。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者の零れる命の雫を止めて給え。ヘモスタシス!」
聖王の持つ錫杖から温かな光が溢れ、牙王を包み込む。
「出血は…止まりましたね。」
ひとまず戦闘に巻き込まれない場所に牙王を移す。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に最大なる癒やしの奇跡を起こし給え。ハイヒーリング!」
傷ついた箇所の肉が盛り上がり、傷口を塞いでいく。
「呼吸も正常に戻りましたね。」
気を失ってはいるが正常に胸が上下運動を続けている。
ひとまず危険な状態は脱したとみて良いだろう。
こうして聖王の働きにより犠牲者が出ることを防げたのであった。
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夜王と不死王は牙王が抜けてからも帝王への猛攻を続ける。
夜王の黒刃・左月が弾かれたタイミングで先程影収納から取り出したナイフを右手で銅熊の影に向けて投げた。
「…?!」
一瞬動きが止まる帝王。
その胸部へと不死王が連打を浴びせる。
一撃、二擊、三擊。そこで影に刺さったナイフが抜ける。
「ふーん。不思議な技を使ってくるね。君。」
不死王のトンファーを弾き飛ばし、腹部に斬撃を放ちながら銅熊が言う。
不死王もすでに何度も胸腹部に攻撃を受けており、王鎧が砕けつつある。
斬撃を放った瞬間を狙って夜王が再び影に向かってナイフを投げる。
不死王に斬撃を当てた体勢で動きを止めた帝王。
不死王は咄嗟には動けず、夜王のみが黒刃・左月で帝王の胸部へと斬撃を入れる。
そこに追撃として不死王がトンファーで斬りかかる。
が、次の瞬間には影こらナイフが抜け、帝王が動き出す。
ガギンッ
不死王と帝王、お互いがお互いの胸部へと斬撃入れた。
ますます砕ける不死王の王鎧。
しかし、帝王の王鎧にも罅が入り始めた。
「君邪魔だね。」
帝王は夜王に狙いを定めて突きや斬撃を放ってきた。
夜王も応戦するが黒刃・右月での突きを丸楯で弾かれて出来た隙を突いて帝王の斬撃があたり、吹き飛ばされる。
「さて、そろそろさっきの人が死んだかな?」
振り返り巨大な門の周りの玉石を見やる帝王。しかし、玉石は未だに2つ無事である。
訝しんだ帝王は牙王を見る。
「あれは…回復しているのか?」
聖王の行動を目にとめ、その行為を的確に把握する。
「そっかぁ。すぐにとどめを刺さないとあの人が回復させちゃうのか。」
帝王は目の前の不死王に向き直る。
「じゃあ次は確実に心臓を狙ってあげるよ!」
猛烈な突きが不死王の胸部に刺さる。
「ぐっ!」
しかし不死王は倒れない。自身に刺さった長剣を釵で掴み取ると、トンファーを振るう。
「なに?!なぜまだ動けるんだい?」
不死王に胸部を攻撃されながら帝王が不思議がる。
「ん。僕は不死身だから。攻撃は効かないよ。」
これには咄嗟に帝王も長剣を引き抜き後退する。
「不死身?通常攻撃では死なないって事?面倒だな。」
そう言って丸楯を前に、長剣を引いた形の構えに変える。
夜王が戻り、三度2人での攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃は丸楯に弾かれる。
そして帝王が攻めに転じた。
「九魂!」
鋭い突きが不死王の体に突き刺さる。1回、2回、3回。一瞬のうちに三擊。
そしてまた丸楯での防御に徹する。
夜王のナイフと不死王のトンファーを弾いたところでまだ突きを出す。
完全に不死王に狙いを定めたようだ。
4回、5回、6回。
また丸楯での防御に移行する。
不死王が通常攻撃では死なないと聞かされてからの連続攻撃である。なにか狙いがあっての事だろうが、まだわからない。
また不死王を突いてくる。
7回、8回、9回。
「条件は揃った。破魂!」
帝王が宣言した、その瞬間、不死王が倒れ込んだ。
不死身のはずの不死王が倒れ、背後の門の周りに配置された最後の玉石が砕ける。
残るは門の中央の玉石のみとなる。
不死王が纏っていた王鎧も消え去る。
つまり、黄豹が殺されたのだ。
「どうしたんだ?黄豹?おい!黄豹!」
「無駄だよ。破魂は魂を破壊する技。いくら肉体が不死身でも魂を砕けば終わりだからね。」
「そんな。黄豹が死んだ?黄豹!黄豹ぉぉぉ!」
黒刃・右月と黒刃・左月を帝王に叩き付けながら夜王が叫ぶ。
こうした、不死王・黄豹が命を落としたのだった。




