135話 決戦3
ヨルと銀狼と黄豹は帝王銅熊へと近付いて行く。
四天王は他の4人が抑えてくれている為、3人はフリーだった。
3人が近付くと銅熊はゆっくりと両手を降ろす。
その手には右手に長剣、左手に丸楯が握られている。
「さぁ君達はどうやってぼくを楽しませてくれるかな?」
3対1にも関わらず余裕の銅熊である。
そんな銅熊であるに銀狼が双剣を構えて突っ込んでいく。
「貴様が!ガダンの!本当の!黒幕か!」
一言ずつに双剣の一撃を乗せて攻撃するも長剣と丸楯によって全て弾かれてしまう。
「ガダンというのが人族領最初の街かい?それは残念な事をしたね。でも実際君達が釣れたんだ。無意味ではなかったよ。」
双剣を防ぎながらも余裕で話す銅熊。
それどころか双剣の攻撃の合間に長剣による突きを放ってきた。
銀狼は辛うじて双剣でこの突きを弾くが、弾かれた長剣はすぐさま振り下ろされ、銀狼を襲う。
ガギンッ!
長剣を双剣をクロスさせて受けた銀狼。
しかし、段々と押し込まれて危うく膝立ちになりそうになる。
が、どうにか持ち直し双剣で長剣を弾き上げる。
そのまま双剣を振るうが銅熊はヒラリと後ろに跳び避ける。
「君、中々楽しめそうだね。」
長剣を振りながら呟く銅熊。
「でも君、片腕は義手だね?打ち込みの強さが違う。やっぱり義手の方が軽いね。」
銅熊は数合の打ち合いで銀狼が義手である事を見抜いた。
「ちっ。義手だからなんだってんだ!」
再び双剣を振りかぶり打ち込むも、やはり長剣と丸楯に阻止されて攻撃が通らない。
「食らえ!氷塊弾!」
振り抜いた双剣から氷塊が飛ぶ。しかし銅熊は丸楯でこの氷塊を背後へと受け流す。
「銀狼。1人で先走るな。儂らもいる。」
「ん。1人じゃない。」
ヨルと黄豹が銀狼の隣に並ぶ。
「あぁ。そうだな。すまん。頭に血が登った。」
「ここからは3人で攻めるぞ。」
「ん。」
「あぁ頼む。」
銀狼を中央に左側にヨル、右側に黄豹が構える。
「おぉ。3人で来るのかい?これはより楽しめそうだね。」
それでもまだ余裕を崩さない銅熊。フルフェイスの兜に隠れてはいるが、きっとその表情には笑みが浮かんでいるのだろう。
心底楽しそうな物言いである。
「行くぞ!」
「おぅ!」
「ん!」
ヨルの掛け声で3人が銅熊に向けて走り出す。
いつも連携して戦う事には慣れていない3人ではあるが、銀狼が双剣を弾かれればすぐさま黄豹が刃付きトンファーを振るい、それも丸楯で受けられるとヨルが黒刃・左月で斬りかかる。
それすら長剣で弾かれるとまた銀狼が双剣で斬り込む。
即席の連携にしてはよく出来ているほうである。
それでも銅熊には攻撃が届かない。
全て長剣と丸楯によって弾かれる。それどころか3人の連携の合間を縫って長剣を振り下ろして銀狼を狙う。
その攻撃はヨルが黒刃・右月で受け止め、代わりに黄豹がトンファーを振るう。
しかし丸楯に弾かれる。
敵ながら長剣と丸楯の扱いに長けているのがよく分かる。防御の合間に攻撃を繰り出してくる余裕すらある。
俺はヨルの視界を通して見ている事しか出来ないがもどかしい気持ちでいっぱいだった。
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牙王は内心焦っていた。
自分の培ってきた双剣の技術が全て通じない相手は初めてである。
双剣と言う両手武器の利点を最大限に活かし、防御と攻撃を交互に繰り出すも全てが長剣と丸楯に阻まれる。
卓越した技術を感じざるを得なかった。
強い。余裕すら見せるだけはあり、単純に強かった。
夜王と不死王が合流してからも攻撃が当たらない。
普段連携して戦う事がなかったとは言え!即席の連携にしてはよく動けていると自分でも思える。
それなのに攻撃が1つも通らないのだ。
夜王も不死王も両手に武器を持っている。つまりはこちらは6本の刃で迫っている。
それなのに相手は1本の長剣と丸楯だけで攻撃を防ぎ、さらには連携の間を縫って反撃までしてくる。
何よりも楽しそうなのが許せない。きっとこいつはガダン陥落の知らせを聞いた時も愉快そうに笑っていたに違いない。
そう思っただけで頭に血が昇りそうになる。
牙王はここで必殺の剣技を放つ。
「双狼刃!」
闘気を乗せて交差させた二振りの剣を左右に振り抜く、自身の1番得意な技だ。
その威力は巨岩すら砕くものであり、如何に長剣と丸楯の扱いが上手かろうと受ければ体勢を崩すくらいは出来るだろう。
そう思っていた。しかし、帝王が丸楯を器用に持ち上げると双剣の斬撃を上に弾かれてしまった。
巨岩を割るほどの威力も空中に霧散する。
「フフフッ。ぼくの得意技はパリィなんだ。どんな攻撃だろうと弾いてみせてあげるよ。」
「それならこれはどうだ!氷結狼々剣!」
左右から切りかかり、ちょうど中央でクロスした斬撃はその名の通り対象を凍り付かせる技である。
如何に丸楯の扱いが上手かろうが氷結の力の前には太刀打ち出来なかろう。
そう思ったのだが、斬撃は長剣によって下に弾かれ、地面を凍らせるに留まった。
相手の長剣は凍りつくどころか斬撃を完全に逸らされてしまった為、斬撃の威力すら与える事も出来なかった。
完敗である。
あとは夜王と不死王のフォローに回るくらいしかない。
そう思った時、帝王の刺突が迫ってきた。
避けることは適わない。ならばと、右腕の義手で受け止めようとする。
しかし、帝王の長剣による刺突は想像以上の威力だった。
再び宙を舞う右腕。ズタズタにされた義手が肩口から外されていた。埋め込んだ魔石を通して激痛が走る。
「ぐぁっ!」
思わず声が漏れる。
「残念だったね。せめて義手がアダマンタイト製だったらこうもいかなかっただろうけど、ミスリル程度じゃぼくの刺突に耐えられないよ。」
こうして銀狼は再び隻腕となってしまったのであった。
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不死王は不思議に思っていた。
今まで対峙した事のない人種と対峙しているとすら思った。
なにせ、どんな攻撃を仕掛けても丸楯か長剣かで弾かれてしまうのだ。
こんな敵は今までいなかった。
攻撃を弾かれた拍子に体勢を崩され、追撃が飛んでくる。
その追撃を受けずに済んでいるのは、すべて夜王か牙王がその攻撃を防いでくれているからだ。
敵は攻撃を避けることはない。全てを弾いてくる。それなら弾かれる前提で攻撃すればいい。弾かれた先から再び帝王目掛けて刃付きトンファーを振るう。
が、これも弾かれる。
不死王には牙王の様な必殺の剣技はない。神から授かった能力も不死性のみで特殊な攻撃手段があるわけでもない。
今までは普通ではお目に掛かれない刃付きトンファーと言う特殊な武器とそれを扱う自分の力のみで戦ってきた。
かくなる上は自身の体を使って相手の刃を受け止め、出来た隙を突くしかない。
そう思ったのだが、
「黄豹よ。まだだ。まだ奥の手は早い。」
夜王には自分の考えていた事がバレていたようだ。
「なになに?奥の手?そんなのあるなら早く見せて欲しいなぁ。」
今も夜王と不死王の高速な攻撃に晒されながらも全てを弾き、余裕で喋ってくる帝王。
正直底が見えない。
そのうち左手に持つトンファーを大きく弾かれた際に、思わず手が離れてしまい、武器を1つ失ってしまった。
しかし、慌てない。
太股にはクロに買って貰った釵がある。
すぐさま釵を引き抜き、攻勢に出た帝王の長剣を釵で挟み取る。
ようやく隙が出来た。
そこに夜王のナイフが迫る。
ガギンッ!
敵も王鎧を纏っている為、刺さりはしなかったが、始めて攻撃が入った瞬間である。
不死王は丸楯側にいる為、攻撃しても丸楯で弾かれるが、夜王側の長剣は今、不死王が抑えている。
つまりは攻撃し放題である。
夜王はここぞとばかりにナイフを振るう。
ガギンッ!
ガキンッ!
ガッ!
ガキンッ!
硬質な物同士が当たる音が響く。
ヨルのナイフをしても、王鎧に傷は付けられても貫通させるのは骨が折れる。
そのうち釵で挟んでいた長剣を外されてしまい、また受け流しが始まった。
片腕を再度失い隻腕となった牙王も戦線に戻ってきた。
片腕ながらも弾かれた剣を必死に引き戻して再度振り下ろす、刺突を放つ、横薙ぎに振るうなど、一辺倒ではない攻撃方法で帝王を狙う。
しかし、そのいずれもが弾かれる。
もう何合剣を合わせたかわからないが、帝王に攻撃が入ったのは不死王が釵で長剣の動きを止めた時だけである。
その後も不死王は釵で長剣を挟み取る事に集中した。
3対1で始まった戦闘も激化するのはまだ先であった。




