133話 決戦1
最上階への階段を登り切ると、そこにはまたしても巨人でも潜れそうな巨大な扉があった。
廊下は左右に伸びるが他に扉らしき物は見当たらない。
つまりここが大魔王のいる場所、差し詰め謁見の間と言うところだろうか。
そこでワンリンチャンとシュウカイワンが言う。
「ここから先は我々は足手まといにしかならないでしょう。ドラン君と一緒に廊下でお待ちしております。」
「もし、挟撃されるような事があれば、我々が命に替えてもここは死守しましょう。」
「お前達。そこまで。いや、ここまで着いてきてくれただけで十分だ。」
金獅子が言う。
「そうだぞ。命に替えてもなんて言うもんじゃない。」
銀狼も続ける。
「ドランは任せた。何かあれば一緒に逃げてやってほしい。」
俺は2人に言った。
「ドランも2人の言う事聞くんだぞ。」
「グギャ!」
ドランも元気よく返事を返してくれる。
「では参ろうか。いざ決戦の地へ」
金獅子が言い、大きな扉を開く。皆それに続く。
皆で扉を潜り抜けた瞬間に扉が勝手に閉まった。
扉の先には広い空間が広がっており、一番奥には数段高くなった位置に玉座が見える。
そこには1人の青年が座っていた。
さらに玉座の後ろには巨大な門があり、門の周りに13個の玉石と、門の中央に1個の玉石がはまっている。
しかし、門の周りの玉石のうち、12個は砕けているようだ。
さらによく見れば広間の床には巨大な魔方陣が描かれており、淡く光を放っていた。
玉座に座る青年が話しかけてくる。
「よく来たね。神徒の諸君。」
その声は何処か透明感のある澄んだ声質をしていた。
「お前が大魔王か?」
代表して、金獅子が問う。
「ぼくは邪神様の加護を受けた王。帝王銅熊と言うんだ。周りからは大魔王ブロンドベアと呼ばれているよ。まぁどちらでも好きに呼んでくれて構わないよ。」
青年はゆっくりと立ち上がる。
「せっかくここまで来たんだ。少し話をしよう。そうだな。まずはぼくが邪神様復活の儀を執り行っている件について。これは君達も知りたいだろ?」
青年は階段を降りながら言う。
「まずは13が不吉な数字と言われてる事は知っているだろ?あれは邪神様を封じた門が13個の鍵を掛けられているからなんだ。」
青年は一段ずつ降りてくる。
「だからぼくはその鍵を壊す魔方陣を作ったんだ。神徒またはそれに準ずる者を生け贄に捧げた際に1つずつ鍵が壊れるようにね。」
青年の顔はまだはっきりとは見えない。
「君達はぼくの予想通り、ぼくが名付けをして魔王候補となった9人の魔将を倒してくれた。それにそちらにも3名の死者を出してくれた。つまり、あの壁の玉石通りに12名がすでに生け贄として捧げられたと言う事さ。」
壁の扉の周りにある玉石は確かに頂上に1個と扉の中央にはまる1個を除き、皆破砕していた。
階段を降りる青年の顔が見えた。その顔はワンリンチャン達と同じく、すこし血色が悪いだけの人族にそっくりな魔人族、つまり無能の街にいた魔人族と変わりなく見えた。
身長は160cm程度と低く、髪の色は銅色、短く刈り込んであるが、襟足だけは腰にかかるほど長い。
独創的な髪型ではあるがその姿形は無能の街の住民そのものだった。
違うのはその額に鈍く輝く銅色の宝玉が埋まっていた事である。
「つまり、後2人。周りの封印を解くのに1人、扉自体を壊すのに1人の生け贄が捧げられれば晴れて邪神様の復活と言う訳さ。」
なんと言う事だ。つまり魔将を倒して回ったのも邪神復活の手助けになっていたと言う事か。
「貴様は部下の魔将ですら生け贄としたのか?」
金獅子が問う。
「ん?そうだよ。その為にぼくが自ら名付けして回ったんだ。知っているかい?魔族は上位者から名を授けられるとその上位者の力を受け継ぐんだ。つまりはぼくの神通力を分け与えていたのさ。」
「つまりは人族領に攻め入ったのは邪神復活とは関係がなかったと?」
銀狼が問う。
「うん?人族領に攻め入らせたのは君達神徒を引っ張り出す為だよ。弱者がどれだけ死のうと生け贄にはならない。無意味だよ。」
「貴様ぁ!そんな事の為にガダンの街を、人をめちゃくちゃにしやがったくせに無意味だと!」
「あれは魔将の1人が描いた計画だよ。ぼくはただそれに許可を出しただけに過ぎない。」
「貴様がやらせたんだろうが!」
銀狼が前に出ようとすると、部屋の四隅にいた魔族が動き出した。
動き出すまでそこにいた事にも気が付かなかった魔人達が次々と前に出てくる。
「下がって貰おう。大魔王に近寄るなら我ら四天王を倒してからにして貰おう。」
そう言うのは右前から近付いてきた4m程の巨人で、巨大な戦斧を持った、頭が牛頭になった魔人だった。足元は蹄にねっている。体は人間のそれなのに頭と足だけが牛なのだ。
「俺は牛頭鬼。」
その後ろ、左前から近寄るのも4m程の巨体に、巨大な金砕棒を持ち、頭部が馬頭になった魔人だ。こちらも足元は蹄となっていた。
「おれは馬頭鬼。」
さらに左から近付いてきたのは兜を小脇に抱えた首のない鎧騎士。兜を抱えていない方の手には騎士剣が持たれている。
「我はデュラハン。」
次に右から現れたのは頭からすっぽりと外套を被った痩せた骸骨のような男。手には長大な杖が握られていた。
「私はリッチー。」
そして4人纏めて言う。
「「「「我ら大魔王様の親衛隊にして、最後の砦、四天王。」」」」
帝王、銅熊の前に整列した4体の魔人達。
それに対して銅熊が言う。
「彼等にはまだ名前を与えていないんだ。名付けする前から一定以上の強さを持っていたからね。彼等には君達のうち誰かを殺せば名付けすると約束しているんだ。」
そう言うと両腕を広げ、目を見開いて言う。
「さぁ、ぼくのもてなしを受けておくれ。」
銅熊が言い終わると魔人達が一斉に襲い掛かってきた。
戦斧を持つ牛頭鬼には紫鬼が対峙した。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象ったフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となる。
金砕棒を持った馬頭鬼には蒼龍が前に出る。
「王化!龍王!」
蒼龍が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施されたフルフェイスの兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となり、三叉の槍を構える。
騎士剣を持ち、兜を小脇に抱えたデュラハンには金獅子が向かい合う。
「王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となり、大剣を肩に預けた独特な構えを見せる。
長大な杖を持つリッチーには白狐が貼り付く。
「王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させるフルフェイスの兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり、抜刀の構えを取る。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象ったフルフェイスの兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となると双剣を強く握り直す。
「王化。不死王。」
黄豹が声を上げると、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせるフルフェイスの兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となり刃付きトンファーを構える。
「王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせるフルフェイスの兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となり、皆から1歩引いた位置に移動する。
最後に俺も王化する。
「任せたぞ。ヨル!」
『おぅ。任せろ。』
「王化!夜王!!」
ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせるフルフェイスの兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は体の制御権を手放した。
ヨルは影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと左手は逆手、右手は順手でナイフを握る。
「じゃあ、ぼくも王化するね。王化。帝王。」
呟いた銅熊の額にはまる銅色の宝玉から銅色の煙が吐き出されて銅熊の体を包み込む。
その煙が体に吸い込まれるように晴れていくと、熊を想起させるフルフェイスの兜を被り、銅色の全身鎧に長剣と丸楯を持った帝王が立っていた。
「さぁあと2人だ。誰が生け贄になってくれるかな?」
銅熊は両手を広げて言う。
こうして最後の決戦は始まった。




