130話 進軍13
暫くは両サイドを切り立った崖に囲まれた土地を歩く。
崖には大小さまざまな洞窟があり、それらから蛇型の魔獣や毒蛇なんかが出てきて行く手を阻んだ。
とは言え、ラミアやエキドナのような人型の蛇はもう出てこなかった為、帝国軍兵士達とも協力しながら蛇狩りに勤しんだ。
帝国軍兵士達にとっては貴重なタンパク源だ。狩った蛇は全て帝国軍兵士達の腹に収まった。
そんなこんなで2日が過ぎ、今俺達の前には古びた、されど立派の城と、そこに続く50m程度の吊り橋があった。
城は堀に囲まれており、そのまま落下すれば海の中に入ってしまう作りになっていた。
しかも遠目から見ても城の周りに魔物がいる事がわかる。
距離とサイズ感から言って焼く6、7mはありそうな、もはやドラゴン並な巨大が、3頭見える。いずれも四足歩行している。
見える範囲にいるのが3頭なだけで、城の後ろ側にもまだいるかもしれない。
しかも城に続く道は横に3人も並べばいっぱいいっぱいの道幅しかない吊り橋ときた。
吊り橋と言う事は強度がどんなもんかわからない為、帝国軍兵士達少数ずつ渡るしがない。
必然、俺達が先頭を行き、あの巨大な犬と戦う事になる。
ひとまずは進むしかない。
吊り橋も真新しいものではなく、年期が入っていそうな、言ってしまえば古ぼけた感じである。
同時に何人渡れるかわかったものではない。
吊り橋間近になると、橋を渡った先にいる魔物がはっきりと認識できた。
双頭の犬である。
「あるはオルトロスですね。ケルベロスより頭が1つ少ない分、体が大きくて吐くブレスも強力です。」
白狐が言う。ホントに物知りだな。逆に知らない魔物がいるのか気になった。
「吊り橋もボロいからな。1人ずつ渡るのが安全か?」
金獅子が言うが、紫鬼が吊り橋に乗ってみせる。
「うむ。それなりに頑丈そうだぞ。2人ずつくらいなら問題ないだろう。」
紫鬼は高いところが大丈夫な人らしい。
それに引き換え銀狼は高いところが苦手らしい。
「こんな下が丸見えの橋を渡るなんて、落ちたら死んじまうじゃないか。」
「大丈夫じゃて。落ちはせんよ。1番の重いワシが乗っても大丈夫なんじゃから。」
「1番重いのは大剣持ってる金獅子の兄貴だろ。」
「む?俺様か?どれ。」
金獅子は事もなげに吊り橋に乗ってみせる。
「紫鬼と俺様が乗っても平気なようだな。あと1人くらいいけるんじゃないか?」
「じゃあ、私も乗りましょうか。」
白狐が吊り橋に乗った。途端に吊り橋が軋む音が聞こえる。
「なんか私の体重が重いみたいで嫌な音ですね。」
プンスカしながら橋から降りる白狐。
「2人で渡った方が確実ですかね。」
「うむ。そうだな。まずはワシと金獅子で渡ろう。渡りきったら次の2人が来ると言う事でいいな?」
「まずお2人で魔獣オルトロスを3体相手にされる事になりますけど大丈夫でしょうか?」
緑鳥が心配するが、金獅子が笑って答える。
「大丈夫だろ。50mくらいなら急ぎ渡れば10秒程度だろう?」
「そうですね。急いで渡りましょう。2番手は私と黄豹さんで行きましょう。」
「じゃあ、俺、ってかヨルは銀狼と3番手だな。行けるか?銀狼?」
銀狼はしきりに下を気にしている。
「揺れるのか?その橋は?」
「む?まぁ吊り橋じゃからな。多少は揺れるが?」
「揺れるのか…でも、まぁ、下を見なければ行けるか…な?」
イケメンでも高所恐怖症ってのはいるんだな。なんでも完璧にこなす感じだと思っていた銀狼の意外な弱点だな。
「じゃあ、3番手も決まりだ。4番手は緑鳥と龍王で頼めるか?」
「はい。問題ありません。」
「あぁ。問題ない。」
「では5番手は、我々が参りましょう。」
「はい、オラも大丈夫っす。」
シュウカイワンと桃犬が言う。
「おれは足手まといになるから戦闘終了後に渡りますね。」
ワンリンチャンが言う。
バルバドスが近くにやって来た。
「吊り橋のようだな。」
俺は作戦の説明をする。
「まず先に俺達が吊り橋を渡って、あっちのオルトロスを倒す。帝国軍兵士達はその後、吊り橋を渡ってきて欲しい。あまり大人数が城の周りに集まられても行動に支障が出るだろうからさ。」
「む。わかった。すまんがよろしく頼む。」
バルバドスは戻って行った。
「では行こうか。金獅子よ。」
「おう。」
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となり吊り橋の上を駆け出す。
「王化!獣王!」
続けて金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させる兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となり、駆け出した。
あっという間に吊り橋を渡りきり、左右に分かれて襲い来るオルトロスと対峙する。
「王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させる兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり吊り橋を駆ける。
「王化。不死王。」
続いて黄豹が声を上げると、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせる兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となり吊り橋の上を走る。
これまたあっという間に吊り橋を渡りきり、紫鬼と金獅子にそれぞれ合流する。
俺も王化する。
「任せたぞ。ヨル!」
『おぅ。久々の儂の出番だ。』
「王化!夜王!!」
ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は体の制御権を手放した。
ヨルは影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと左手は逆手、右手は順手でナイフを握る。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象った兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となる。
「ほれ、銀狼。行くぞ。」
「ちょっと待ってくれ。まだこころの準備が。」
「先に行くぞ。」
ヨルは吊り橋の上を駆ける。
あっという間に吊り橋を渡りきり、金獅子と黄豹が対峙しているオルトロス2体に向かう。
反対側では紫鬼と白狐が1体のオルトロスを相手取っている。
ひとまずはこの3体を倒す必要がある。
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「銀狼が行かぬなら我が先に行こう。王化!龍王!」
龍王が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施された兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となり、吊り橋の上を駆ける。
「銀狼様、一緒に参りましょう。王化。聖王!」
聖王が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせる兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となり、ドランを抱えて吊り橋に1歩踏み出す。
「あぁ。わかってる。行く。行くぞ。」
恐る恐る牙王も吊り橋に1歩踏み出す。
「おー、揺れるなぁ。」
「急いで渡ってしまいましょう。」
聖王は牙王の手を取り走り出す。
「うぉ!ちょっ!ちょっと待って!」
「こう言うのは途中で止まったら負けです。、さっさと渡りきりましょう。」
聖王は牙王の手をがっちり握ってはなさない。
見た目よりも力が強い。王化のせいもあるだろうが。
「ひーぃ!」
牙王はもう目を瞑って手を引かれるがままに走る。
「着きましたよ。銀狼様。」
恐る恐る目を開ける牙王。
きちんと吊り橋を渡りきっていた。
「おぉ。乗ってしまえばなんてことないな。」
「ふふっ。そうですね。」
強がる牙王を微笑ましく見守る聖王。
「では申し訳ございませんがわたしとドランの面倒をお願い致します。」
「あぁ。任せろ。」
双剣を両手に持ち構える牙王。
しかし、鬼王と破王が相手にしているオルトロス、獣王と不死王が相手にしているオルトロス、夜王と龍王が相手にしているオルトロス以外に敵はなさそうである。
ひとまず周りの警戒を続ける牙王であった。
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ヨルは後から来た蒼龍と共に3体目のオルトロスを相手にしていた。
近付いてみれば体長は8メール程もあり、頭部の高さは4mくらいはありそうだ。
遠目で見た通り、もはやドラゴン相手にするのと変わらない。
しかも双頭であるが故に2種類の異なるブレス攻撃をしてくる。
一方の頭からは灼熱に燃え盛る火球のブレスが吐き出され、もう一方の頭からは雷を伴った暴風のブレスが吐き出される。
「水撃・龍翔閃!」
龍王の持つ三叉の槍の先端から圧縮された水流が放出され、吐き出された灼熱の火球にぶつかり大爆発を起こす。
「クゥゥゥン。」
片側の頭は爆発に怯んだ様子だがもう片方の頭は怯まず、爪擊を放ってきた。
夜は黒刃・右月で爪擊を受け止めると下方に逸らし、その前脚に黒刃・左月で斬りかかる。
「ギャオォォォオ!」
斬りつけられた前脚を地面に着き、もう片方の前脚で爪擊を放つ。
その爪擊を蒼龍は飛んで躱すと、向かって左側の火炎ブレスを放つ頭部へと三叉の槍で刺突を放つ。
刺突は右目に的中し、大きな眼球から血が流れる。
オルトロスは蒼龍に避けられた前脚を戻し、サイド空中にいる蒼竜を狙って爪擊を繰り出す。
三叉の槍で爪擊を受けるも空中にいた為に吹き飛ばされる蒼龍。
あと1歩で崖下に落ちるところだったが、何とか踏みとどまった。
ヨルのもとには雷を伴った暴風のブレスが押し寄せる。
顔をガードしてなんとか耐えるヨル。そんなヨルにも爪擊が迫り、吹き飛ばされる。
ヨルが吹き飛ばされたのは城の外壁の方だったので落ちる心配はなかった。
ヨルは逆に吹き飛ばされた先の外壁を蹴って片目が潰れた方の頭部に接近、もう片方の眼球に向けて黒刃・右月でと黒刃・左月を振りかざす。
「ギャオォォォオ!」
これで片方の頭の両目を潰した。
まだ片方の頭があるので敵はこちらを見えてはいるはずだが、4つの目で見ていた物が2つの目で見ることになる為、距離感などは多少狂うはずである。
実際その後ヨルに向けて振り上げられた爪擊はヨルの肩口をかすって空中2向けられた。
ここで吹き飛ばされていた蒼龍も戦線に復帰した。跳び上がり目の開いている方の頭部に刺突を繰り出す。
「水撃・龍翔閃!」
槍の先端から圧縮された水流が放出され、鼻の位置にヒットする。
鼻から水流が入り込んだ頭部は大きく咳き込む。
「ガフッゴブッゴフツ」
咳き込んで頭が下がった所に蒼龍の連続突きが炸裂する。
「龍覇連突!」
高速で繰り出される刺突を顔面に受けたオルトロスは鳴き声を上げる。
「キャイィィィン。」
怯んで後ろに下がり始めたオルトロスに向けてヨルが追撃する。
両目の見えない頭部の首筋を狙って黒刃・左月を振るい、黒刃・右月を突き刺す。
「グギャオォォォオ!」
目の見えないオルトロスの頭部は所構わず火炎ブレスを吐き出し始める。
その炎が隣の頭部にも当たり、2つの頭部で争い始めた。
目の見えない頭部の方が劣勢で、目の見える頭部がその首を食い千切った。
来れて、オルトロスは単頭のデカイだけの犬になった。
しかし、暴風のブレスは健在で蒼龍に向けてブレス攻撃を仕掛けてきた。
蒼龍は三叉の槍を地面に突き立て、雷による痺れと吹き飛ばされるのを踏ん張って耐える。
その間にヨルが噛み千切られたほうの頭部の跡に向けて両手のナイフを突き刺した。
「ギャイィィィン!」
首から下の痛覚は共有らしく激しく鳴くオルトロス。
暴風のがやんだ蒼龍は跳び上がって単頭となったオルトロスの頭の上に乗り、頭頂部に向けて三叉の槍を突き刺した。
「キャイィィィン!」
オルトロスは必死に頭部の蒼龍を落とそうと首を捻る。
ヨルは首元が空いたオルトロスに向かって黒刃・左月を一閃。
その首筋を斬り裂いた。
溢れ出す血の雨に濡れるヨルは、そのまま腹部へと移動し、黒刃・右月を突き立てて、尻まで走り抜ける。
切り裂かれた腹部、重力に逆らえず溢れ出す臓物。
「キャイィィィン!」
これまでで1番の鳴き声を上げたオルトロスはその場に蹲り動かなくなったのだった。
「ふぅ。やっと1体だな。」
「うむ。今見える2頭は白狐達が相手をしておる。我らは裏手を回って他に残りがいないか確かめてこよう。」
「よし、行くか。」
ヨルと蒼龍は城の裏手側に回り込み、他の番犬がいないか確認して回る。
結局オルトロスは最初に見た3体だけだったようだ。
ヨルと蒼龍が回り込み城の前面に戻る頃には白狐達によって残りの2頭も倒されたところだった。
他に危険が無い事を確認したヨル達は王化を解き、ワンリンチャン達を呼び込むのだった。
さて、遂に敵の根城に侵入だ。
改めて見ても古いが立派な城である。もとは真っ白だったのだろう外壁は今や所々黒くなり、全体的に煤けた色合いとなっている。
俺達は巨人でも通れそうな巨大な門扉を開いて城の中に突入するのであった。




