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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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127話 進軍12

 帝国軍兵士達もアルラウネの誘惑になんとか負けずに火炎魔術を駆使して先を急ぐ。

 殿を努めてくれている勇者パーティーのドリストルが魔術を発動させているのは遠くからでもわかる。

 恐らく後方を狙ってトレントかアルラウネが襲い掛かってきているのだろう。

 先頭集団では帝国軍魔導士オリカルクムが大活躍だ。

「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え!ファイアボール!」

 オリカルクムが呪文を唱え終えると短杖の先に描かれた魔法陣より直径15㎝程度の大きさの火球が生まれ、トレントの群れに直撃する。

「魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の火球となりて打倒し給え!ファイアショット!!」

 オリカルクムが呪文を唱え終えると短杖の先に描かれた魔法陣より直径3㎝程度の小さな火球が沢山発生し、トレント達を燃やし尽くす。周りの木々に燃え移り危うく森林火災に発展しそうになるが水系統魔術を使う者がいた為、火は無事に消火された。


 そんな進軍を続けているうちにジャイアントボアや、ブレードラビットに遭遇するようになった。

 ようやくトレント達、魔樹の森を抜けたのだ。

 ひとまず安心できる土地に入った事を確認すると、バルバドス達は後方の兵士達が合流するのを待つ。

 暫くすると見慣れた4人組が現れた。

「お。なんだ。先頭集団じゃねぇーか。俺達を待ってたのか?」

 勇者パーティーのライオネルが言う。

 しかしそこでバルバドスが気付く。

 合流した兵士達が明らかに減っているのだ。

「勇者パーティーの面々は殿を努めて下さっていたのですよね?」

「あぁ?俺達が最後尾だぜ?どうした?」

「いや。兵士達が500名近く減っているのです。」

「なに?俺達が戦闘中に先を行った奴らがいなくなってるってのか?」

「僕達も戦闘後には直進してきただけだからね。他の兵士達は見ていないね。」

 勇者バッシュも言う。

「どう言う事でしょうね。我々も直進してしてきているので迷う事はないと思うのですが。」

 フェリオサが兜を脱いで長髪の金髪をなびかせながら言う。

「もしや先頭を集団と後方集団の間で何かあってのでは?」

 シャラマンもいなくなった兵士達の身を案じて言う。

「戻って捜索するべきでしょうか?」

「大将。探しましょうや。まだそこまで遠くには行ってないはずですぜ。」

 特例兵士2名は捜索する方向に話を持っていくが、

「何を言ってやがる。ここまで来て戻るだと?そんな馬鹿な話があるかよ。」

 ライオネルが突っぱねる。

「あの傭兵団も先を行ったのでしょう?あまり待たせるのは得策とは言えないだろうね。」

 バッシュも言う。


 そんな会話を繰り広げているうちに後方が騒がしくなる。

「何事だ?何があった?」

 バルバドスが問うと近付いてきた兵士が言う。

「報告します!行方不明になっていた兵士達が頭に花を咲かせて襲ってきました!」

「何だって?!頭に花を咲かせて?」

 バルバドス達は急ぎ後方に走る。

 すると確かに頭に毒々しい色の花を咲かせた兵士達が武器を持って兵士達を襲っていた。

「何事だ?何があった?どうしたんだ?」

 バルバドスが話しかけるも頭に花を咲かせた兵士達は聞く耳を持たない。

「これは魔花の花粉に受肉されたのでは?」

 フェリオサが言う。

「魔花の中には生物に花粉を受肉させ、遠くまで運ばせる性質を持つものがあると聞きます。あの頭の花は受肉された証なのではないでしょうか?」

「なんだと?それは正気に戻す方法はあるのか?」

「すみません。そこまでは。ただあの頭の花さえどうにか出来れば、もしかしたら。」

「よし!皆負傷に気を付けながら操られている兵士達を捕らえろ!捕らえたら頭の花を引っこ抜くんだ!」

「「「おぉぉぉ!」」」

「「「うおぉぉお!!」」」


 その後入り乱れる兵士達。

 頭に花を咲かせた兵士達が長剣を持って斬りかかってくるのを、重装兵は大楯で押さえ込み、歩兵は長剣を合わせてつばぜり合いし、槍兵は長剣を上から押さえつけるなど、それぞれが出来る範囲で頭に花を咲かせた兵士達を押さえ込み、続々とその頭に生えた花を引っこ抜かれていく。

 花を引っこ抜かれた兵士達はその場で崩れ落ちて行く。

 ただ500名もの兵士達が頭に花を咲かせており、これを取るのも相当な時間を要した。

「ぐわっ!」

 頭に花を咲かせた兵士に斬りかかられて負傷する兵士も出てきた。

 咄嗟にやり返そうとする兵士もおり、戦場は大混乱である。

 で肝心の花を引き抜かれた兵士達はと言えば、暫くして正気を取り戻し、特に後遺症も無さそうである。

 念の為、衛生兵に癒やしの聖術をかけて貰った兵士達だが、魔花に寄生されていた時のことは全く記憶になかった。

 先頭集団を追いかけているうちに独特な匂いに釣られて道を外れてからの記憶がないそうだ。

 やっと500名の頭の花を引き抜いた時には随分と時間が経ってしまっていた。

「魔樹がいれば魔花も咲くか。帰り道も気を付けねばならんな。」

 バルバドスは言うと兵士達に向けて声を張り上げる。

「もうすぐ魔樹の森を抜けるぞ。魔獣がいつ襲ってきてもいいように総員注意して進め!」

「「「おー!」」」


 そんなこんなありながらも魔樹の森を抜け、魔獣達が出現する森の中へと入って行く帝国軍兵士達であった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 気が付けば魔樹の森を抜け、魔獣が出没する普通の森に足を踏み入れていた俺達はひとまず日が暮れるまでは森の中を進む事にした。

 まだ後ろから帝国軍兵士達はやって来ない。

 先に行ってある程度のスペースがある場所を確保しておこうと言う話になったのだ。


 そして森を進む事、数十分。

 最初はレッドベアの群れだと思った。

 赤い体毛をした大きな熊が7体。しかし、よく見れば奥にいるそのうち3体の体毛が他と比べて深い色合いの赤をしている事に気が付いた。

「クリムゾンベアが3体います!金獅子そんと銀狼さんは私と一緒に王化して下さい!」

 素早く状況を察知した白狐が言う。

「王化!破王!」

 白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させるフルフェイスの兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となる。

「王化!獣王!」

 続いて金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となる。

「王化!牙王!」

 銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象ったフルフェイスの兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となる。

「金獅子さん、銀狼さん、行きましょう!」

 そう言う白狐に合わせて金獅子と銀狼もクリムゾンベアを相手にするために駆けて行った。


 残った俺達はレッドベア4体の相手をする。

 紫鬼に蒼龍、黄豹に俺でちょうど4人である。

 緑鳥達の護衛をどうするか悩んでいると、桃犬が言ってきた。

「こちらの事はオラ達に任せて下さいっす。流石にレッドベアと戦ってる最中にレッドベア並の魔物は襲ってこないと思うのでオラ達にも対処出来ると思うんす。」

「わかった。任せた。でも何かあればすぐ声を上げてくれよな。緑鳥もドランの事、頼んだ。」

「お任せ下さい。」

「グキャ!」

 俺は桃犬と緑鳥に言うとレッドベアに向かって駆け出した。他の面々もそれぞれが相手にするレッドベアに向かって駆けて行く。


『代わってやろうか?』

 フードの中からヨルが言うが、

「いや。レッドベアなら俺でも対処出来る。ヨルの出番はまだ先にあると思うから待機で頼む。」

『そうか。なら儂は寝る。』

 レッドベアの前に着き、俺は両手にナイフを構えた。左手は逆手、右手は順手といつもの構えだ。

 レッドベアは左腕を振りかぶり爪擊を放ってきた。

 俺は右手のナイフで受けると、上に弾く。そしてがら空きになった右脇腹を狙って右脇腹に抜けるように移動すると右手のナイフを一閃。

「グオォォォ!」

 硬い体毛も何のその。アダマンタイト製のナイフはレッドベアの脇腹を切り裂いた。

 とここでレッドベアが火だるまを発動させて全身に炎を纏って突っ込んできた。

 俺はその突進を跳躍して避けるとレッドベアの背後に立ち、その背に向けて両手のナイフを走らせた。

「グオォォォ!」

 1番肉が厚い箇所だけあってダメージは浅い。

 振り返ったレッドベアは両腕を振るって爪擊を繰りだしてくる。

 俺は両手のナイフでこれを受けると左腕は上に、右腕は下へと弾き飛ばす。

 今度は左脇腹ががら空きになった。

 そのまま左脇腹に抜けるように移動すると左手のナイフを左脇腹に突き入れた。さらに切り裂くように背中側にナイフを振り抜く。

「グオォォォ!」

 未だ燃え盛る両腕を振り上げるレッドベア。

 1歩後方に下がることで爪擊を避けると両腕が下がった所で跳躍して近付き、左手のナイフを一閃。

 レッドベアの首元に斬れ込みをいれる。

 ゴボッゴボッゴボッ。

 首元をナイフで斬った事で声が出せなくなったレッドベア、喋ろうとする度に傷口から空気が漏れてゴボゴボ言う。

 出血も大量だ。

 このまま放っておいても息絶えるだろう深さの傷を首元に与えてやった。

 しかし、それでもレッドベアは諦めずに両腕を振るい爪擊を繰りだす。

 ナイフで受けると両腕を下に弾く。

 前屈みとなったレッドベアの左首元を跳躍しながら左手のナイフでザックリと斬ってやった。

 飛び散る鮮血の中、レッドベアはその場に崩れ落ちたのだった。


 他の面々もレッドベアは倒したようだ。

 クリムゾンベアを相手にしている白狐と金獅子、銀狼に関してはもう少しかかりそうだが、常に優勢な立ち回りをしているので問題なさそうである。

 実際、たった今白狐が首に刀を一閃させてその首を刎ねた。


 辺りも暗くなり始めたので今日はここで野営の準備をする。

 俺は早速手に入れた熊肉を血抜きして、ビーフシチューの牛肉の代わりに熊肉を使った物を作る。

 ビーフシチューは先日もドラゴン肉で作ったが熊肉を使えばまた一味違うだろう。

 俺が熊肉シチューの仕込みをしている間に金獅子と銀狼もクリムゾンベアを打ち倒していた。

 2人にも熊肉の血抜きと解体をお願いして俺は調理に戻る。

 今日も熊肉が大量に手には入ったのでまたあとで熊鍋にしよう。

 そんなこんなで出来上がったシチューは熊肉の野性味溢れるなかなかの出来だった。

 やはりドラゴン肉の方が美味いが、これはこれで好評だった。


 まだ帝国軍兵士達は合流しない。

 どのくらい離れているのか、木々しかない森の中では水晶で通信してもわからないだろう。

 ひとまずは森を抜けるまではこのまま先行して、森を抜けてから合流待ちをしようと言う話になった。

 夜の森は夜行性の獣が出たりと危険が沢山あるだろうってことで3人一組になって見張り番をする事にした。

 俺は白狐と紫鬼との組になった。


 シュウカイワンによれば森は数日間続くという話だったが、さて、明日には森が抜けられるといいんだが。どうなることやら。


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