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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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125話 進軍10

 暫く進むと鬱蒼とした森の中に道が続いていた。

 相変わらず左手側には岩壁となっており、前方も右手側は森の中である。

 迂回路もなさそうなのでそのまま森の中に入るしかない。

 シュウカイワンによれば森は数日間続くらしい。

 俺達は少数だから問題ないが、帝国軍兵士達は未だに5000名近くは残っている為、進軍速度に影響が出そうだ。

 バルバドスに水晶で連絡を取る。

『我々も最速で進むようにするが、先に進んで貰って構わない。大魔王城とやらに着いたら待っていて貰えると助かる。』

「わかった。じゃあ先に進むぞ。」

 と言う事で俺達は帝国軍兵士達を待たずに先に進むことにした。


 森の中は魔獣の宝庫であり、ジャイアントマウスを始めとしてホーンラビット、ブレードラビット、ジャイアントボア、ニードルラビット、レッドボア、ワイルドウルフ、ジャイアントベア、ジャイアントスネークにレッドベアまで出現してきた。

 この後どんな魔物が襲い掛かってくるか分からないため、王化せずに対処する。

 思いのほか手こずったのはジャイアントスネークだ。それも体長が7m近くあり、頭部は人の半身程度なら飲み込めてしまいそうな程に大きい。

 そんなジャイアントスネークが3体同時に攻めてきた。

 ここでも先陣をきったのは白狐だ。

「行くますよ!」

 鞘に収めた白刃・白百合をジャイアントスネークの頭部目掛けて振り抜く。

 とここで思いのほかジャイアントスネークの動きが素早く、白狐の抜刀術を避けてきた。

「あら?おかしいですね。」

 避けられると思わなかった白狐は若干戸惑いながらも抜き身の白刃・白百合をジャイアントスネークに向けて振り下ろす。

 これは避けきれなかったジャイアントスネークは体をガッツリと斬られるが思ったよりも出血が少ない。範囲は広いが深さはそうでもなかったらしい。

「むむ。なかなか強いですよ。この蛇。」

 そんな白狐の呟きを聞いて金獅子と蒼龍もジャイアントスネークに近付き、大剣と三叉の槍を振るう。

 しかし、やはり最初の一撃は避けられてしまう。

 蛇は他の爬虫類に比べて目が悪いと聞くがどう言う事なのか。

「そいつはピット器官がかなり発達しているんだろう。熱を頼りにしているならオレの氷結剣が効くだろう。」

 ピット器官と言うのは蛇の頭にあるセンサー感知器官で、赤外線・熱を感知して獲物を捕らえると言う。

 このジャイアントスネークは体が大きい分、ピット器官も発達したのだろうと思われる。

 銀狼が金獅子の前に出て片手の剣を振るう。

「氷結剣!」

 見事に1体のジャイアントスネークの尻尾を跳ね飛ばした。が、頭が無事な為、木に登ってしまい、木の上から枝にぶら下がって襲い掛かる。

 金獅子と銀狼が相手をしており、ぶら下がる蛇の頭を狙って剣を振るう。

「氷結狼々剣!」

 最後は銀狼が双剣を振るいその頭を斬り飛ばした。

 と、気が付けば紫鬼が別のジャイアントスネークに巻き付かれて締め付けられていた。

「ぐぬぬっ。」

「困りましたね。あまり斬りすぎたら紫鬼さんも斬ってしまいます。」

 白狐が救出使用と刀を振るうが、締め付けは止まらない。

 俺も紫鬼救出に参加する。

 紫鬼側からナイフを突き入れてジャイアントスネークの肉を斬って行く。

「ぬおぉぉぉお!」

 ある程度斬ったところで紫鬼が怪力で蛇の体を千切るように自力で脱出したので、白狐がその首を刎ねた。

「いやー気が付いたら締め付けられておったわ。油断大敵じゃな。」

 笑いながら紫鬼が言うがジャイアントスネークの締め付ける力は虎すら殺すと言う。一歩間違えていたら危なかった。

 もう1体のジャイアントスネークは黄豹と蒼龍が仕留めたようだ。

「森の中だけ合って魔獣の出現が多いな。」

「あぁジャイアントスネークが群れを成すたど聞いたこともなかったわ。」

 銀狼と金獅子が話している。

「これならも出てくるかもしれませんから気を付けて生きましょう。」

 白狐が皆に注意を促す。


 ところが、その後暫くは魔獣の襲撃がなくなった。

「襲撃が止んだな。」

「まだ森の中なのにおかしいですね。」

 先頭を歩く紫鬼と白狐が話している。

 と、その時横を通り過ぎた木々が動いた気がした。

 俺は立ち止まり木々を見つめる。

「どうかしたか?クロよ。何かいたか?」

 金獅子に聞かれたのでそのままを答える。

「いや。木が動いた気がしてな。」

「木が動いた?風でも吹いたんじゃないか?」

 確かに動いたと思ったが、その後暫く見ていても動かない。気のせいかと思い、俺は前進を続けた。

 とその時、

「うわぁーっ!」

 一番最後を歩いていたはずの桃犬の叫び声がした。

 何事かと思って振り返れば数本の木から伸びる蔦に桃犬が絡め捕られていた。

「たっ助けて下さいっ!」

 くずに俺はナイフで蔦を切ってやる。

「どうしたんだ?いきなり絡まって。」

「いや、いきなり木が襲い掛かってきたんですよっ!」

 桃犬が言い終わるより早く木が動き出し、その枝をこちらに向けて伸ばしてきた。

「危ない!」

 すぐさま銀狼が双剣で木の枝を切り飛ばす。

 よく見れば周りの木々が全て動いて俺達を包囲していた。

「これは、トレントって奴ですね。魔樹とも言われる魔物です。」

 物知りな白狐が言う。

 そのトレントは10体はおり、全て直径1m程度の木々で、枝を伸ばして俺達に襲い掛かってくる。

 中には枝から伸びた蔦で絡め捕ろうとする個体もいる。

 緑鳥達の護衛は紫鬼に任せて、刃を持つ者達で伸びる枝を切りまくる。

 しかし、切っても切っても枝は伸びてきてきりがない。

「相手が木なら火が有効だろう。シュウカイワン。あれを頼む。」

 銀狼が言うと、シュウカイワンは呪文を唱える。

「ファイア!ウィンド!」

「ドランも火炎ブレスだ!」

「ギャオォォォ!」

 シュウカイワンの手から火炎放射が射出され枝を焼き、ドランの火炎ブレスで幹を焼かれたトレントはその場で燃え上がり周りのトレントも道連れにして灰となった。

「やっぱり火だな。続けて頼む。桃犬も燃える石礫を頼む。」

 銀狼の言葉通りシュウカイワンとドランは続けて複合魔法と火炎ブレスを放ち、桃犬も魔術を唱える。

「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。火炎となり給え。ファイア。」

 手のひらの前に10cm程度の炎を灯した桃犬が続けて魔術を発動させる。

「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。岩石の力へとその姿を変えよ。魔素よ固まれ、固まれ魔素よ。我が目前の敵達に数多の石礫となりて打倒し給え!ストーンショット!!」

 燃え盛る石礫がトレント達を襲う。

 最初は僅かな炎が燃え移っただけだが、段々と火の手は大きくなりトレント達を焼いていく。

 桃犬達の働きにより10体のトレント達は全て灰になった。

 しかし、この森の中の木々のうち、どれがトレントでどれが普通の木なのか、動かれない限り見分けがつかない。

 これは森の中にいる限り常に気を張っていないといけない。

 そう言えば俺達が過ぎ去った後から来る帝国軍兵士達は大丈夫だろうか?

「これは帝国軍兵士達にもこの事を伝えておくべきだろうな。」

 金獅子も同じ事を思ったようで、水晶に向かって呼びかける。

『何?木々に擬態した魔物?』

「いや、違う。木の魔物だ。木自体が魔物なんだ。魔樹とも言われるトレントだ。」

『木が魔物なのか。わかった。こちらにも火炎魔術を使える者が多数いるからな。遭遇した際には魔術で退治しよう。』

「森林火災だけは気を付けてくれよな。」

『うむ。わかった。情報ありがとう。』

 ひとまずは帝国軍兵士達にもトレントの存在を知らせたから俺達は先に進む事にした。

 その後も動く木々に囲まれて蔦で雁字搦めにされたシュウカイワンを助けたり、紫鬼が幹を素手でへし折ったり、白狐が数体纏めて一閃したりと、トレントが大量に湧いた。

 どうやらこの辺りはトレントの縄張りらしい。道理で魔獣の出現が減った訳だ。


 その後もシュウカイワンの魔法と桃犬の魔術、ドランの火炎ブレスであらかたトレントは退治出来ていた。

 が、今目の前にいる動くトレントは他のトレントの数倍はデカイ。

「これはエルダートレントって奴ですね。長年生きたトレントが成長して進化したモノだと言われています。」

 白狐が説明してくれてる途中に枝を振り回して攻撃してきた。

 枝とは別に蔦も伸びてきて足を絡め捕ろうとしてくる。

 ここでも桃犬の達の出番だ。

「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。火炎となり給え。ファイア!魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。岩石の力へとその姿を変えよ。魔素よ固まれ、固まれ魔素よ。我が目前の敵達に数多の石礫となりて打倒し給え!ストーンショット!!」

「ファイア!ウィンド!!」

「ギャオォォォ!!」

 燃え盛る石礫に火炎放射、火炎のブレスがエルダートレントを襲うも火がついた箇所を枝でパッパッとされただけで火が消えてしまった。

 それを見たヨルが言う。

『クロよ。儂に代われ。』

「あぁ、わかった。王化!夜王!」

 ヨルが俺の体の中に入り込むと左耳にしたピアスにはまる王玉から真っ黒な靄が噴出すると俺の体を覆い尽くす。

 その靄が体に吸収されるが如く晴れて行くとそこにはいつもの全身黒い王鎧に身を包んだ夜王となる。

 そこで俺は体の制御権を手放してヨルの視界から外の様子を確認する。

 ヨルは左腕を突き出し、右手で左手首を掴み叫ぶ。

「王化、呪王!」

 ヨルが言った途端に橙色の王玉から橙色の煙が立ちのぼりヨルの体を覆い尽くす。

 そしてその煙は体に吸い込まれるように消えていくと、いつもの全身黒い鎧に手首から腕を巡り胸、腹に走り太股を通って足首にまで至る橙色の線が入った夜王・呪王形態になる。

 そしてヨルが火炎魔術を発動させた。

「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え。ファイアボール。」

 ヨルの左手に30cm程度の火球が発生し、エルダートレントへと向かって行く。

 火球はエルダートレントに当たると大きく燃え上がり幹の一部を炭化させた。

 ヨルは影収納から黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと呪文を唱える。

「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。火炎となり給え。ファイア。」

 黒刃・右月と黒刃・左月の刀身が燃え上がる。

「枝を切るならこちらの方が良いな。」

 そういって伸びてくる枝を次々と切り裂き燃え上がらせる。

 エルダートレントも負けじと複数の枝と蔦を伸ばして攻撃してくるが、どれもこれもヨルがナイフを振るう度に燃え上がり近付かせない。

「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え。ファイアボール。」

 またしても火球を生み出しエルダートレントへとぶつける。

 またしても幹の一部を炭化させるが全身を焼くほどではない。

「ちっ。ボールではダメか。それなら。」

 ヨルは黒刃・右月と黒刃・左月を手放し、両手を前に突き出す。

「魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の火球となりて打倒し給え!ファイアショット!!」

 ヨルの手元に浮かんだ魔法陣から直径10cm程度の火球が数十個生み出され、エルダートレントへと向かう。

 全身を火球に晒されたエルダートレントは燃え上がり、必死に火を消そうともがく。

 しかし、消火のスピードよりも燃え上がる速度の方が早い。

 巨大なエルダートレントは炭となってその場に崩れ落ちたのだった。


 エルダートレントを倒した俺達はその場で野営の準備をする事にした。

 エルダートレントの縄張りだった場所だ。他の魔物もあまり寄りつかないだろう。

 今日はドランも随分と頑張ってくれたからな。奮発してドラゴン肉をやろうと思ったのだが、本人(本竜と言うべきか?)はハーピーの肉の方がお好みらしい。ドラゴン肉を見せても首を横に振り、ハーピー肉を見せたら元気よく首を縦に振ってきた。

 すっかり意思疎通も出来るようになった。

 またいつ木々が襲ってくるかわからない緊張感もありながらも夕食を済ませ、見張り番をおいて就寝するのであった。


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