124話 夕食
ハーピーとワイルドウルフを全て解体していたら夕方近くなってしまった。
そこで今日はここで1泊するように野営の準備をする。
夕飯にはドラゴン肉を使ったシチューを作ろうと思う。
先日デミグラスソースを作ったので、ビーフシチュー風に仕上げる。
まずはドラゴン肉を程良い一口サイズに切っていく。
緑鳥も手伝ってくれるようなので、タマネギ、ニンジン、ジャガイモを一口サイズに切って貰う。ジャガイモは切った上で水にさらして貰う。
鍋にドラゴン肉を入れて中火で加熱して、表面に焼き色がつくまで焼く。
タマネギ、ニンジンも入れてさっと炒めたら赤ワインを入れて4、5分煮詰める。
鍋に水とローリエを加えて煮込み、灰汁を取りながら弱火で1時間半、ことこと煮込む。
デミグラスソース、ケチャップ、砂糖、ショウユ、ソース、コンソメと、水にさらしていたジャガイモを加えてさらに30分程度、ジャガイモが柔らかくなるまで煮込む。
仕上げにバターを入れて味を整えたら完成だ。
上質なドラゴン肉が程良くホロホロと崩れていき、濃厚なシチューソースに合う絶品料理が出来上がった。
2時間以上かけて作成した夕飯の為、皆の期待値も上がっていたが、これなら期待に応えられるだろう。
ドランの餌には倒したばかりのハーピーの肉を与えてみる。
こちらは白狐が手伝ってくれた。
ただ火で炙ったものと、塩コショウで味付けしたものを用意してみる。
最近やたら食べるので各10体分ずつ用意した。
さて、ドランはどちらを気に入るのか。
まずはドラゴンシチューを皆に配る。
ドランには待てを教えているので、目の前に焼き肉が山盛りになっていてもきちんと待っていられるようになった。
全員に皿を配ったら、いよいよ実食だ。
「頂きます。」
「「「「「いただきます。」」」」」
「ます。」
「グギャ!」
ドランにも食べて良いぞと許可を出して皆で食事を摂る。
ドラゴンシチューを食べた金獅子が驚きの声を上げる。
「これは。焼くだけでも十分美味かったドラゴン肉が長時間煮込んだ事でホロホロと崩れていき、シチューソースに絡まってより複雑な味わいになっておるわい。」
「肉が蕩けるな。そのくせしっかりと肉の食感も残っているのだから不思議な感覚だ。」
「うむ。今までドラゴン肉は焼くだけで、その他の調理方法など考えもしなかったが、これは美味いな。」
銀狼と蒼龍も言う。
「ドラゴン肉だけじゃなくてソースも絶品ですよ。見事にドラゴン肉とマッチしていてソースだけ食べてもどこかドラゴン肉の味わいを感じます。」
「えぇ。今まで食べたビーフシチューより美味しいです。むしろ今まで食べたシチューの中で1番美味しいですわ。」
「んー。お肉柔らかい。美味しい。」
女性陣にも好評だ。
特に黄豹の感想が美味いだけじゃない時点で蚊なりの出来栄えな事がわかる。
「美味いっす。美味いっす。」
「美味しいですねぇ。」
桃犬にシュウカイワン達も舌鼓を打っている。
『やはりドラゴン肉が美味いな。儂にもっと、肉をよそってくれ。』
ヨルが言うのでデカ目の肉をよそってやる。
「ホントにクロは料理上手だな。どこでこんな料理を覚えたんだ?」
紫鬼に聞かれたので答える。
「いや、ワンズの街で食べ歩きするのが唯一の趣味だったからな。暫く親父が出掛けてる時なんか良く街に出て色々食べたんだ。で、美味かった料理はそのまま食材買い込んで家に戻って再現してみたりしてな。」
「食べた料理を再現出来たんですか?それって凄い特技なんじゃ?」
「いや。だいたい食べれば何は言っているとか分かるだろ?それで割合調整して実際に作ってみるだけだって。」
「いやいや。普通食べただけで何使われているか性格に把握なんで出来ませんよ?」
白狐に言われて驚いた。
「そうなのか?普通分かるもんだと思ってた。」
「聖都にも同じ様な料理人がおりました。周りからは“神の舌を持つ料理人“などと呼ばれており、どんな料理でも1度食べれば再現出来たとか。クロさんもその“神の舌“をお持ちなんですね?」
「そんな大層なもんじゃないって。それに1回じゃ再現出来ない事もあったし。そうなったら何度か同じ店に通って軽くレシピを聞いたりもしたんだ。隠し味はなんなのかとかな。まぁ企業秘密だって教えて貰えない事の方が多かったけど。」
「何せよ、クロの料理は一流料理人並みだな。俺様の国に仕えてくれてる料理人達に伝授して欲しいくらいだ。俺様におかわり頼む。」
「いやいや。そもそもが希少な食材のドラゴン肉を使ってるからな。魔物は強いほど美味いってのは常識だろ?専門家ならドラゴン肉使えば同じ様な料理が作れるさ。」
金獅子におかわりをついでやる。
皆、大量に食べるから相当な量を作ったので、足りなくなる心配はないだろう。
「一流の食材使ったからと言って一流の料理が出来るとは限らないぞ?これはやっぱりクロの料理の腕があってこそだ。オレもおかわりいいか?」
「我もおかわりが欲しい。」
「ワシもおかわり頼む。」
銀狼に、蒼龍、紫鬼牙2杯目に突入した。
「これなら沢山食べられちゃいますね。私もおかわりいいですか?あんまり食べると太っちゃうから半分くらいでお願いします。」
「んー美味しいからそれで、いい。僕ももうちょっと食べたい。」
「あ。わたしがよそいますよ。自分の分も追加させて貰っちゃいますね。」
女性陣も珍しくおかわりしていた。
そう言う俺も2杯目に入った。
隣でハーピーの肉を喰っていたドランだが、塩コショウした方が好みらしく、減りが早い。
むしろ味つけしてない方はあまり食べていない。
試しに焼き終わった状態の肉に塩コショウを振ってみたが、味が付いた事で食べやすくなったのか、夢中でバクバク食べ始めた。
「美味いか?」
「グギャ!」
最近気が付いたがこちらの言っている言葉の意味を理解しているようだ。
そのうち言葉を覚えたりするのだろうか?
発声器官が違うから難しいかもな。
それにしても塩コショウを覚えてしまったか。もう野生には戻れないかもしれないな。
まぁ野生に戻す気は今のところないけど。
そんなこんなで結局男性陣は3杯もおかわりしていた。
女性陣も2杯は食べていたので、大盛況だったと言える。
これだけ美味いと食べて貰えれば作った方としても作って良かったと思える。
満腹になった俺達は見張り番の順序を決めて就寝する事にした。
今日は黄豹と組になった。
順番は1番最後の紫鬼と緑鳥ペアの次になった。
「……おい。…おい。クロよ。順番だぞ。起きろ。」
紫鬼に声をかけられて目が覚めた。
黄豹は緑鳥に起こされている。
「あぁ。順番か。分かった。ありがとう。紫鬼達も寝てくれ。」
「うむ。後は頼んだ。」
明け方の見張り番は気が抜けない。
日が昇り始める少し前から活動を開始する魔獣は結構いるからな。
そんな中、俺は前に蒼龍から言われた事を思い出した。
黄豹に殺し屋稼業を辞めさせて普通に生きるように説得してやって欲しいと言われていた。
俺はなんでもない話のように切り出す。
「そういや、今は殺し屋稼業休職中って言ってたけど、この度が終わったら戻るのか?」
「ん?んーわかんない。正直殺し屋やってるのも飽きてきてたから。」
「そっか。飽きてきてたか。なら俺と一緒に盗賊稼業でもやるか?殺し屋のスキルがあれば屋敷に侵入するのも慣れてるだろうし、即戦力だと思うんだよな。」
黄豹は首を傾げながら言う。
「んー盗賊?押し入った家の人達を殺して回るの?」
「いやいや。それじゃ強盗だろ。盗賊ってのは殺しはなし。お宝だけを盗んでさっさと逃げるのさ。」
「お宝…ん。楽しそう。」
「だろ?俺とヨルと、それに白狐も一緒になると思うけど、屋敷に侵入する人員が増えればより早くお宝探せると思うんだ。」
「ん。考えとく。」
「そうだな。まずは大魔王とやらを倒して邪神の復活を阻止しなきゃな。」
「ん。大仕事が残ってる。」
「そうだな。その後の事はその時になってから決めればいいさ。」
「ん。そうする。」
そんな会話をしていると、森の中からジャイアントベアが1体出てきた。
まだ辺りに漂う血の匂いに惹かれてかやってきたのかもしれない。
「1体だけなら皆を起こす必要ないよな?」
「ん。僕だけで大丈夫。」
そう言うと黄豹は両手に刃付きトンファーを構えてジャイアントベアに向かって行く。
ジャイアントベアは立ち上がると3mはあったので、まるで大人と子供くらいの身長差がある。
しかし、そんなジャイアントベアの振り上げて爪擊をトンファーで受けた黄豹はもう片方のトンファーでジャイアントベアの腹部を斬り裂く。
傷を負った事でますます凶暴になったジャイアントベアだったが、繰りだす爪擊は全てトンファーに阻まれて黄豹には届かない。
お返しとばかりに黄豹は刃付きトンファーでジャイアントベアを斬り刻む。
戦闘時間は10分もかからなかっただろう。
やがてジャイアントベアは力尽きてその場に崩れ落ちた。
新鮮な熊肉が手には入った。
朝から熊鍋だな。
俺は解体用ナイフで皮を剥ぎ、内臓を抜いて、血抜きする。
鮮度が高いうちに血抜きする事で肉の臭みが変わってくる。
その後も2体ほどジャイアントベアが襲ってきた為、俺も戦闘に参加する。
大量の熊肉ゲットだ。熊鍋だけじゃなく、ステーキもつけよう。
こりゃ朝から豪勢だな。
その後皆が起きる前に朝食の仕込みをして、皆が起き出した頃には準備も終わり、すぐ朝食の時間となった。
鮮度の高い熊肉は皆にも好評だった。
ドランはハーピーの肉が気に入ったようで、熊肉とハーピー肉のどっちが食べたいか訊ねたらハーピー肉に近付いて行ったので、また塩コショウをまぶした焼き肉を準備してやる。
さて、今日からまた大魔王の城に向かって進む事になる。
次はどんな敵が現れるか。そんな事を考えながら皆との食事を楽しむのであった。




