123話 進軍9
相変わらず左手に岩壁と右手に森と言った場所を進む俺達。
すでに亜竜の生息エリアは出たらしく、襲ってくるのは森から出てくる魔獣系が増えてきた。
ワイルドウルフにジャイアントベア、ジャイアントステークなどが主な出現魔物だった。
ひっきりなしに襲い掛かってきていた魔獣だったが、ここしばらくは見ていない。
なんか嫌な予感がする。
魔獣が出ないエリアは大抵、上位の魔物の生息域で、自身も狩られない為に近寄らないと言ったパターンが多い。
その予想が的中したように遠くの空が騒がしくなってきた。
そこにはハーピーの群れがいたのであった。
ハーピーは半人半鳥の魔物で人間の頭部に胴体を持ちながら腕はなく代わりに大きな翼があり、足元は猛禽類を思わせる鋭い爪が伸びた鳥類の脚を持つ。胴体には鳥の羽がびっしりと生えている。
その多くが雌で構成されており、雄のハーピーは希少だ。
しかも面倒な事に空飛ぶハーピー達は人語でやり取りをしていた。
つまり魔人化している者が多数いるという事だ。
森の中に入って迂回する事も考えたのだが、
「ハーピー程度なら俺様達の敵ではなかろう。」
と金獅子が言うのでそのまま突っ切る事になった。
見えているだけでも30体はいそうだ。
崖の上に巣を作る傾向がある為、上空の崖の上にはまだまだ数がいるのかもしれない。
人型だから食料にはならないが、ドランの餌にはなるだろう。
ハーピーは単体ならBランク、群れならAランクになる魔物だ。
俺達はある程度近付いたタイミングで王化する。
「王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となる。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象ったフルフェイスの兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となる。
「王化!龍王!」
蒼龍が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施されたフルフェイスの兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となる。
「王化。不死王。」
黄豹が声を上げると、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせるフルフェイスの兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となり緑鳥達を守るように後方に下がる。
「王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させるフルフェイスの兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となる。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象ったフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となる。
「王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせるフルフェイスの兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となり、ドランを抱えて後方に下がる。
最後に俺も王化する。
「頼んだぞ。ヨル!」
『おぅ。任せろ。』
「王化!夜王!!」
ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせるフルフェイスの兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は体の制御権を手放した。
ヨルは影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと左手は逆手、右手は順手でナイフを握る。
ハーピー達はとてもじゃないが跳躍した程度では届かないほど上空を飛んでいる。
まずは奴らを降ろさない事には戦闘にならない。
まずは飛ぶ斬撃を放てる銀狼と白狐、それに水擊を飛ばせる蒼龍が跳躍からの攻撃でハーは達に届くか試す。
しかし、飛ぶ斬撃も蒼龍の水擊もあと一歩届かない。
しかしハーピー達の気を引く事は出来たようで次々と鋭い脚の爪を用いた攻撃を繰り出してきた。
「あたし達のテリトリーに人間なんかが何の用だよ!」
「あたい達を倒しに来たのかい?そうはいくか!」
討伐に名乗り出た一団だと思ったらしい。次々と鋭い爪を使って攻撃してくる。
狙うは翼だ。飛べなくしてしまえばあとは煮るなり焼くなり自由に料理出来る。
と思っていたのだが、実際はそんなに甘くなかった。
数体のハーピーが鳴き声で超音波を放ってきて、俺達を襲ったのだ。
「「キェェェェェエ!」」
「「キョェェェェェエ!」」
耳をつんざく質量すら感じる超音波攻撃に皆、耳を塞ぎ耐える。
そんな中で数体のハーピーが金獅子と紫鬼を掴んで上空へと運んだ。
これはこの前ドランがやっていた戦法だ。
上空に運んでから落とすつもりなのだろう。
未だに超音波攻撃を受けて耳を塞いでいる2人に為す術もなく、あっという間に数十m程持ち上げられて、勢いを付けて急激に落下させられた。
その姿が小さく見えるほどの上空からの落下であり、受け止める訳にも行かない為、ヨル達は金獅子と紫鬼を様子を見守る事しか出来ない。
そのまま地面に叩き付けられた金獅子と紫鬼。しかし2人とも両足で立っていた。
足場はクレーターが出来るほどに沈み込んでいるが大事には至っていないようだ。
「ぬぅ。王鎧を着ておいて正解だったな。生身だったら骨折どころの話じゃなかったな。」
金獅子牙言う。
「あぁ。ものすごい衝撃であったわ。ドランが取ってる戦法もこんな感じなんじゃろな。こりゃ効くわ。」
頭を振りながら紫鬼も答える。
超音波攻撃も止まり、ほどほどの距離にまで降りてきた事で白狐や銀狼の飛ぶ斬撃が当たり始めた。
次々と落下してくるハーピー達。
落ちてきたらこっちのものである。
金獅子や蒼龍が突き殺し、紫鬼がぶん殴り仕留めていく。
「「何すんのよ!何すんのよ!!」」
「「何なのよ!何なのよ!!」」
姦しいハーピー達である。
ヨルは上空からの攻撃を一手に引き受け、爪や嘴を黒刃・右月と黒刃・左月で弾きながらも翼に一撃入れては墜落させていく。
近付いては落とされると学習したハーピー達は上空から風切羽を飛ばして攻撃してきた。
風に乗って射出される風切羽は王鎧に刺さるほどの威力だ。
ヨル達は王鎧に守られている為、たいしたダメージにはならないが、後ろにいた帝国軍兵士達には絶大な影響があったようだ。
あちこちで風切羽に刺されて呻く声が聞こえた。
「総員、大楯を掲げて羽を防げ!」
バルバドスの指示する声も聞こえる。
これは早めに落としていった方が被害が少なくて済むとみたヨル達は羽を射出する個体を狙って跳躍し、その翼を斬りつけていく。
当初見えていたのは30体程度であったのに、実際打ち落としたのは倍近かった。
地上に落とされたハーピーも風切羽を射出して接近を拒む。
いくら王鎧を纏っているとは言え、全弾受ける訳には行かない為、大剣を振り回しながら金獅子が近付いて行く。
そこに地に落ちながらも超音波攻撃を仕掛けてくる者がいた。
「「キョェェェェェエ!」」
「「キェェェェェエ!」」
咄嗟に耳をふせぎたくなるものの、どうにか堪えて大剣を降り続ける金獅子。
紫鬼も両手の拳で羽を打ち落としながら羽を射出する個体に向けて突進する。
超音波を吐き続ける個体にはヨルと蒼龍が向かう。
まずは羽を射出してきた個体だが、近寄ってみれば鋭い爪の生えた鳥足で蹴ってくる。
それを大剣で斬りつけていく金獅子と蹴り脚を掴んで投げ飛ばす紫鬼によってその数を減らしていく。
超音波攻撃をしてくる個体についても耳を塞ぎたくなるのを堪えて、実際に質量すら伴う超音波に耐えながらヨルと蒼龍が近付き次々と仕留めていく。
戦闘時間は1時間はかからなかっただろう。
残ったのは70体を超えるハーピー達の死骸だけとなった。
しかし、そこに森の中から様子を伺っていたワイルドウルフの集団が現れた事で戦場は大混乱となった。
ワイルドウルフ達はハーピーの死骸を漁りたかったらしく、動く俺達には目もくれない。
しかしワイルドウルフが近付いてきたことで帝国軍兵士達は応戦体勢になり、次々とワイルドウルフに攻撃を仕掛ける。
流石に攻撃されればワイルドウルフ達も黙ってはおらず、帝国軍兵士達へと襲い掛かる。
そのうちた立ち尽くす俺達の事も敵認定したワイルドウルフが襲ってくるようになった。
そのほとんどが一撃の下に沈んでいくが、1番体格の良い群れのボスらしき個体は慎重だった。
俺達の中で1番弱い者、つまり緑鳥達に狙いをすまして襲い掛かってきたのだ。
護衛に回っていた黄豹が他の個体の相手をしている隙を突いて緑鳥達に迫る。
「ファイア!ウィンド!」
「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。火炎となり給え。ファイア!魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。岩石の力へとその姿を変えよ。魔素よ固まれ、固まれ魔素よ。我が目前の敵達に数多の石礫となりて打倒し給え!ストーンショット!!」
「ギャオォォォ!」
シュウカイワンが火炎放射をワイルドウルフに向けて射出して脚を止めると、桃犬が燃え盛る石礫を全身にぶち当てる。
さらにドランが渾身の火炎ブレスを放ち、ワイルドウルフを火だるまにした。
「キャイィィィン!」
まるで犬のような鳴き声を上げて火を消そうともがくワイルドウルフのボス。
その頃には他の個体を相手取っていた黄豹も手が空き、ワイルドウルフのボスの首を刎ねた。
ハーピーから続けての戦闘となったが、無事にワイルドウルフを撃退する事が出来た。
その頃には金獅子、銀狼、紫鬼の王化が解けていた為、ぎりぎりの戦闘時間だった。
何はともあれ、大量のドランの餌を確保する事が出来た。
長時間の戦闘に疲れた俺達はハーピーとワイルドウルフの肉の解体を兼ねて一時休憩にするのであった。




