122話 成長
翌朝目覚めるとドランの大きさが変わっていた。
昨日までは片手で抱き上げる事が出来るくらい、50cm程度だったはずなのに、今は腕の中で寝ているドランは7、80cmある。
腕枕していた左腕が痺れている。
起こすのも可哀想だと思い、暫くそのままでいた。
30分後くらいに皆と共に起き出したドラン。
完全に左腕の感覚が無い。
「あれ?ドランの体が大きくなってませんか?」
白狐が気付いた。
「本当ですね。昨日までは片腕で抱っこ出来たのに、今は両腕じゃないと抱っこできません。」
戦闘中ドランの面倒を見てくれてた緑鳥もその大きさの変化に驚いている。
「一晩でこうも大きくなるのか。」
金獅子も驚いている。
急激に大きくなったのは昨日の食事のせいだろう。
朝だけじゃなく間食を覚えたドランは俺達と一緒に夕飯も食べた。
しかもその夕飯にしたのがあの魔将の死体から採取した肉だったのだ。
ドラゴンは体内に魔力を溜めて大きくなると聞いたことがある。
魔将の肉体に込められた魔力も一緒に取り込んだ為に、急激に大きくなったのだろう。
まぁ大きくなったとは言え、乳幼児から幼児に変わったくらいのもんで、まだまだ甘えたい年頃らしく、朝食の準備をする俺にすり寄ってくる。
「はぁーい。ドランちゃん。パパの邪魔しないのよぉー。」
白狐がドランを抱き上げて離れていく。
今日の朝食もドラゴン肉を薄切りにした焼き肉だ。
醤油でさっぱりとした味付けにしたので朝からでもいける。
ドランにもドラゴニュートの肉を与える。
昨日の戦闘でドラゴニュート達の肉を大量に仕入れたからな。しばらくドランの食事には困らない。
ドランと言えば今までは松明程度の炎だったのがその倍近ち火炎ブレスを吐くようになった。
これは俺が炙って出してやった肉の焼き具合が気に入らなかったようで、自分で火炎ブレスを吐いて焼いていた時に気付いたことだ。
その他にも翼のサイズが20cmくらいから30cmくらいになっており、今までは最高到達点が2m程度だったのが、3m程度にまで上がった。
着実に成長している証拠である。
昨日まではヨルと大差ない大きさだった為、ヨルも戯れられても特に気にする様子はなかったのだが、流石に80cmともなるとヨルの倍近いサイズとなり、戯れられているヨルが助けを求めてきた。
『おい。クロよ。この子竜をどうにかしてくれ。重くて敵わん。』
「なんだよ。昨日までは遊んでやってたじゃないか?」
『流石に甲もデカくなられては儂の体が保たんわ。』
俺は朝食の片付けを中断して、ドランを抱えてヨルから離す。
それにしても大きくなったもんだ。
昨日までとは打って変わってずっしりもした重みを感じる。
そんのこんなで朝食の片付けを終えた俺達は岩山を下山するのであった。
下山途中に子連れのコモドドラゴンに遭遇した。
親のほうは2m超えの体長だが、子供の方は1m程度である。
これも経験と言う事でドランに子供のコモドドラゴンと戦わせてみた。
いつも焼いて食べさせているコモドドラゴンだけに、ドランはすぐさま大口を開けて噛み付こうとした。
だが、子供のコモドドラゴンもそう簡単には喰われない。1歩下がった化と思えば後ろを向き尻尾でドランに攻撃してきた。
産まれて初めて攻撃を食らってしまったドランは、
「キュウゥゥゥ。」
と鳴きながらこちらを見てきた。
心なしか大きな瞳には涙が浮かんでいた。
しかし、ここは心を鬼にして見守る事にした。
こちらを向いても助けて貰えないと悟ったドランは改めて子供のコモドドラゴンに向き直る。
そして火炎ブレスを吐き出した。
これには子供のコモドドラゴンが驚いたように数歩後方に下がる。
まだ子供のコモドドラゴンはブレスが吐けないらしい。
その後もドランがブレス攻撃を仕掛けるが、対抗してブレスを吐いてくる事はなかった。
しかしドランのブレスも炎の勢いは増したものの、数秒間しか保たない。
ドランがブレスを吐いては子供のコモドドラゴンが後退すると言った攻防がしばらく続いた。
火炎ブレスでは仕留められないと思ったのかドランが小さい前脚を使って子供のコモドドラゴンを掴みに行った。
大きく口を開け、これを嫌がるコモドドラゴンに対して、ドランが片腕で口を叩き閉じさせると背中を掴んだ。
そのまま背中に前脚で打撃を与えるドラン。しかしコモドドラゴンも暴れる。
ドランの拘束を解いたコモドドラゴンは近くにあったドランの足に噛み付いた。
「ギャキャッ!」
咄嗟に翼をはためかせて上空に逃げるドランだったが、コモドドラゴンの噛み付きもかなり深く入ったようでなかなか離れない。
噛み付かれた足とは逆の足で必死に足蹴にしてコモドドラゴンをどうにか離すドラン。
ここでドランのやる気に火が付いた。
上空から一気に降下してコモドドラゴンに蹴りを喰らわせるドラン。
次の瞬間にはコモドドラゴンの背後を取り、持ち上げた。
両手両脚をバタつかせて逃げようともがくコモドドラゴン。
その後どうするのかと思って見えいれば、ドランは3m程跳び上がり、一気に急降下。地面に子供のコモドドラゴンを叩き付けた。
誰もこんな技は見せていないので自分で考えての行動なのだろう。
地面に叩き付けられたコモドドラゴンはピクピクと痙攣する。
そ子に渾身の火炎ブレスをお見舞いするドラン。
今までの最長記録6秒間の火炎ブレスにコモドドラゴンはすっかり黒焦げになった。
しかし、表面は焦げたがまだ息が合った。
ドランはもう一度コモドドラゴンを持ち上げて上空に昇ると、空の上でコモドドラゴンを離す。
落下していくコモドドラゴンに向けた自身も急降下して蹴りを放つ。
地面とドランの足に挟まれた子供のコモドドラゴンはここでようやく息を引き取った。
ドランの初戦闘は見事勝利で終わった。
戦闘後のドランと言えば朝食を食べたばかりだというのに仕留めた子供のコモドドラゴンを美味そうに喰っていた。
「ギャギャッ!」
勝利の雄叫びに、勝利の美酒代わりの勝利の肉ってか。
何にせよ、子供相手ならドランも十分戦える事がわかった。
しかも上空から落とすとか戦闘センスも中々のものだ。
鍛えればさぞかし強いドラゴンに成長するだろう。
その後も子連れの魔物が出たら子供相手はドランにやらせるようにした。
上空からの降下攻撃が有効と見るや、次々とその技を使って子供の魔物を仕留めていくドラン。
やはり戦闘センスがいいらしい。
これならいけるかと思い1度大人の2m程のジャイアントリザードと戦わせてみたら、危うく喰われそうになって慌てて間に入るなんて場面もあった。
さすがにまだ大人の魔物相手は早かったらしい。
それでも子供の魔物相手をしているうちに成長を見せた。
最長記録が6秒間だった火炎ブレスも7秒、8秒と長く伸び、今では最長10秒まで吐き続ける事が出来るようになった。
これで子供のコモドドラゴンなら中まで火が通るようになった。
とは言え、まだ一撃で仕留められる程にはなっていないので、これからの成長2期待である。
そんなこんなしながら山を降りた俺達は、左手に岩壁、右手に森と言った場所にまで出てきた。
岩壁は昇って降りてきた岩山に続いているようだが、こちらから昇れる場所は無さそうだった。
まさに岩壁といった断崖絶壁だ。
こう言った場所にはワイバーンなどの飛龍が住まう事が多いよなと思っていたら案の定、ワイバーンが10体ほど襲い掛かってきた。
ドランは緑鳥に任せて俺達は一斉に王化してワイバーンと対峙する。
こいつらも上空から鋭い爪や嘴でのヒットアンドウェイ戦法を繰り返して来たので、白狐や銀狼、蒼龍が飛ぶ斬撃を放ち翼を傷付け飛べなくなった所を金獅子始め紫鬼、黄豹とヨルで潰していった。
ワイバーン肉ゲットである。
この日は日も陰ってきたので、そこで野営の支度をした。
ワイバーンの生息エリアの為、他の魔物が襲って来にくいだろうという思いもあった。
夕食は早速ゲットしたワイバーンの肉を使ってハンバーグを作った。
包丁を両手に肉をミンチにしていた際にはまな板に包丁が当たる音を音楽と間違えたのかドランが踊り出すと言うほんわかエピソード付きだった。
ソースは醤油ベースにダイコンおろしを付けてサッパリとした味付けにした。
完全に俺の好みだ。
だ牙皆にも好評で男性陣は3つもハンバーグを食べていた。
大量にミンチにしておいて良かった。
まだハンバーグ型に形成した肉は余っているので、夕食後は明日の朝のハンバーグに向けてデミグラスソースを作ってみた。
ソースが変われば2食連続ハンバーグでも良いだろう。
さて、大魔王の城まであと2週間程度とのことだが、道中どうなるだろうか?
そんな事を考えながら就寝するのであった。




