121話 竜魔10
破王が魔将と戦っている頃、帝国兵士達のフォローに回っていたヨルは黒色ドラゴンと対峙していた。
『おい。白狐が単独で魔将に挑んでいるぞ!助けに行かなくていいのか?』
「あやつなら問題内だろうよ。それより今はこのデカ物を退治するのが先決よ。」
黒色ドラゴンは先程から火炎のブレスを吐いては帝国兵士達を焼いていた。
それを見かねたヨルがフォローにやって来たのだった。
今もヨルに向けて火炎のブレスを吐いてきた。
王鎧を纏っていれば短時間火に炙られるくらいなんともない為、ヨルは自ら火炎に突っ込み黒色ドラゴンに接近。
ブレスを吐くため首を低い位置に持ってきていた所に、顎下に向けて黒刃・左月で跳び上がって斬りかかる。
すでにドラゴンと言えば顎下にある逆鱗ご弱点である事は分かっている。
ただし、個体に寄って微妙に位置が異なる為、注意が必要だ。
ヨルハさはしっかりと逆鱗の位置を確認してから跳び上がって攻撃した為、黒刃・左月は見事に逆鱗を破砕する。
「グオォォォォオ!」
弱点である逆鱗を攻撃された事で黒色ドラゴンは狂ったように暴れ回った。
着地したばかりのヨルにも左前脚の爪擊が飛んでくる。
ヨルは冷静に黒刃・右月で左前脚の爪擊を弾くと、再び跳躍して逆鱗に向けて黒刃・左月を突き入れようと試みる。
が、暴れ回る黒色ドラゴンの逆鱗をピンポイントで狙う事は難しく、首元の竜鱗に阻まれて攻撃が入らない。それでも黒刃・右月も振るい首筋に攻撃を入れる。
いくら硬い竜鱗といえども何度も攻撃を入れれば割ることが出来る。
暴れまくる黒色ドラゴンの首元に向かって何度も跳躍して黒刃・左月と黒刃・右月を振るうヨル。
首元の鱗が数枚破砕出来た、そんな時。まだ空中にいるヨルに向けて右前脚の爪擊が迫った。
ヨルは黒刃・左月でガードするも数m吹き飛ばされる。
その後はまた火炎ブレス攻撃が来た。
近寄って来ていた帝国兵士達数名が炎に包まれる。
「ちっ、やはり動きを止めるか。」
しゃがみ込んだヨルは影収納から3本の投擲用のナイフを取り出す。
そのまま黒色ドラゴンへと駆けて行き、再び火炎ブレスに突っ込むと、見えた黒色ドラゴンの影に向かって3本のナイフを投げる。
「影縫い。」
影にナイフが刺さると、暴れていた黒色ドラゴンの動きが止まる。
影縫いはその物体の運動エネルギーによって縫い付けておける時間が変わってくる。
4、5mの巨体のドラゴンともなれば縫い付けておける時間は数秒程度。影も範囲が広いため、今回は3本を刺している。
そんな動きを止めた黒色ドラゴンの首下に潜り込み、逆鱗の位置を確認したヨルは黒刃・左月と黒刃・右月を逆鱗のある場所へと突き入れた。
「これで仕舞いよ。」
突き入れたナイフを左右に引き黒色ドラゴンの首元をザックリと斬る。
溢れ出す竜の血を浴びながら、ヨルは再度切り傷にナイフを差し入れ、さらに首を切断していく。
とここで黒色ドラゴンへの影縫いの効果が切れた。
首を大きく切り裂かれたことでさらに暴れる黒色ドラゴン。その傷跡は首を半分近く切り裂いており、出血も大量だ。
前脚を振り回して暴れる度に大量の血液が飛び散る。
ヨルは冷静に迫り来る爪擊を受け流しながら再び首元に斬りかかる。
竜鱗も砕け、肉が露わになった首筋にナイフを一閃。新しい傷口を作る。
やがて暴れ血を流し過ぎた黒色ドラゴンはその場に倒れたのであった。
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鬼王に護衛された桃犬、シュウカイワン達も鎧を着込んでいないドラゴニュートに対して複合魔法、複合魔術で応戦する。
「ファイア!ウィンド!」
ちょっとした火炎放射が迫るドラゴニュート達を炙る。
「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。火炎となり給え。ファイア!魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。岩石の力へとその姿を変えよ。魔素よ固まれ、固まれ魔素よ。我が目前の敵達に数多の石礫となりて打倒し給え!ストーンショット!!」
燃える石礫が迫るドラゴニュートに降り注ぐ。
「む。これ以上は危険じゃ。後ろに下がれ。」
鬼王に言われて下がる桃犬とシュウカイワン。
逆に前に出た鬼王が迫るドラゴニュート達を殴り飛ばす。
「魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。火炎となり給え。ファイア!魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。岩石の力へとその姿を変えよ。魔素よ固まれ、固まれ魔素よ。我が目前の敵達に数多の石礫となりて打倒し給え!ストーンショット!!」
まだ後方にいるドラゴニュート達に燃え盛る石礫が降り注ぐ。
「アイス!ウィンド!」
風に乗った細かい氷の刃がドラゴニュート達に斬りつける。しかし竜鱗に阻まれて切り刻は与えられない。
「やはり硬い敵は殴るに限る。」
鬼王は迫り来るドラゴニュート達を次々と殴り飛ばす。
いかに頑強な鱗に覆われているとは言え、打撃ダメージを軽減出来るものではない。
「鬼拳!」
妖気を乗せた拳を受けたドラゴニュートの腹部が爆発したように爆ぜる。
いかに竜鱗といえども妖気を浸透させる鬼拳の前には為す術がない。
数台が1度にハルバードによる突きを放ってくるが、鬼王は素手でそれらを掴み取ると、逆に押し込んでドラゴニュート達を後退させる。
あまり緑鳥達と距離を取るわけにも行かない為、深追いはしない。
その後も迫り来るドラゴニュートのハルバードを避けつつ、ぶん殴って吹き飛ばす事を続ける鬼王のもとに武王形態を解除した龍王が合流する。
「鎧を着込んだドラゴニュートは全て倒されたようだな。残りは普通のドラゴニュートだけだ。」
「緑鳥達の護衛を交代して貰えるか?ワシもひとあばれしてこよう。」
「うむ。わかった。」
護衛を交代した鬼王はドラゴニュート達のもとへと突っ込んでいく。
「鬼拳!鬼拳!!」
膨大な妖気に任せて次々と殴り殺していく鬼王。
残りのドラゴニュート達の数も数える程になった時、遠くで破王が魔将を討ち取ったと宣言した。
あとは掃討戦である。
白色ドラゴンも黒色ドラゴンもすでに倒されており、残りはハルバードを持ち構えるドラゴニュート達のみ。
「よし、行くぞ!」
鬼王はさらにドラゴニュート達のが固まる場所へと向かっていくのであった。
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戦闘が終わった。
それぞれが王化を解き、負傷した者は緑鳥に聖術をかけて貰った。
今回はなんとか死傷者を出さずに魔将を打ち倒す事が出来た。
実際に魔将と対峙していた蒼龍、銀狼、金獅子は白狐がどう倒したのか気にしていたが、
「ふふっ。秘密の秘技ですよ。」
と白狐ははぐらかしていた。
どうやら魔将は複数の竜頭からそれぞれ異なる属性のブレスを吐き出して蒼龍達を苦しめたらしい。
何はともあれ俺達の勝利である。
帝国兵士達には火炎ブレスに焼かれ亡くなった者もいたようで、今は死傷者を1箇所に纏めて火葬している。
バルバドスに特例兵士の2人に、勇者パーティーは無事らしい。
さて、戦場には沢山のドラゴニュート達の死骸が積み重なっている。
バルバドスに訊ねたがやはり人型の魔物は食料とはしないらしいので、ドランの食事としてありがたく全てのドラゴニュート達を解体して影収納に収めていく。
「グキャ!」
途中でドランが物欲しそうに鳴いたので、シュウカイワンに一部の肉を焼いて貰い、ドランに与えた。
ドランは大きい瞳をクリクリさせながら無我夢中で肉に食らいついていた。
今までは朝食だけだったのに間食もするようになった。
成長期だろうから欲しがった際には躊躇わず餌を与える事にしている。
騎獣となっていたドラゴンに色黒ドラゴンの肉まで解体していたらすっかり夜になった為、今日はこの場で一晩過ごす事にした。
魔将がいた家は中がとても広く、道場のような場所もあり、帝国兵士達もそこで寝泊まり出来そうだった。
俺達は居間らしき部屋で1泊する。
夕飯は贅沢にドラゴン肉を薄く切って焼いたものを乗せたカレーにした。
やっぱりドラゴン肉は美味い。口の中に入れた瞬間溶け出す脂身と言いしっかりとした歯応えがあり噛めば噛むほど味が出る赤身と言い、カレーに負けない存在感である。
ドランがカレーに興味を持ったようなので、少しだけ与えてみる。
「キャッキャッ!」
辛かったらしい。慌てて水を飲む。
近頃になってコップを掴んで自分で水を飲むことを覚えたドラン。
まだ小さい腕でコップを抱えて飲む姿も可愛らしい。
「まだドランには大人の味は早かったねぇ。」と白狐がドランの頭を撫でながら言う。
「それにしてもドラゴン肉は美味いな。龍の谷ではこんなに美味いものをずっと食べていたのか?」
「いや。普段はワイバーンなどの亜竜の肉を食していたよ。ドラゴン肉何で年に数回あるかと言ったところだった。」
金獅子の質問に蒼龍牙答える。
「こんなに美味いなら前に龍の谷で倒したのドラゴンも食料として持ってくればよかったな。」
「あの肉は龍の谷での食料とさせて貰った。」
「そうだったのか。確かにあの後、何人かで運んでたな。」
銀狼の呟きにも蒼龍が答える。
「それにしても魔将、強かったな。」
「あぁ。俺様の雷撃が効かない時はどうしたものかと思ったが。」
「竜鱗の硬さにも苦労したよな。ドラゴンと同程度の硬さがあったし。」
「我も水擊も武王の炎の槍も効かなかったしな。」
銀狼と金獅子、それに蒼龍が話していると紫鬼が加わった。
「そんなに強かったのか?」
「あぁ。9つの竜頭がそれぞれ異なる属性のブレス攻撃をした来たんだ。みんな弱点属性を当てられて必殺技も効かなかった。」
「ふむ。それではワシの新たな爪王の風の爪も効かなかったか。」
「あぁ恐らくな。」
「ではそんな魔将をどうやって白狐は倒したんだ?」
「私の秘技ですよ。妖術でささっとやっつけました。」
「妖術か。なら弱点属性もないか。」
納得する金獅子。
食事の片付けをしながら皆でこれからの事を話す。
「明日から大魔王の城まで進むでいいんだよな?」
「バルバドスにも聞いてみよう。帝国兵士達の疲弊具合によっては数日ここに滞在する事になるかもしれないし。」
俺はそう言って水晶を通してバルバドスに連絡を取る。
『死傷者は出たが負傷者はすべて聖術で癒した。明日からでも問題ないだろうさ。』
「わかった。じゃあ明日の朝一で山を降りよう。」
と言う事になった。
この辺一帯を統治していた魔将の家だけあって夜間の襲撃者はなく、翌朝を迎える事が出来た。
さて、今日からは大魔王の城を目指す。
朝からドラゴン肉を食べて気合いを入れた俺達は岩山を下山するのであった。




