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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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120話 竜魔9

「真打ち登場。」

 と呟き刀を一閃した破王を見て九頭の九嶋は驚愕していた。

 己の腹部を切断しそうな程の勢いで刀が振るわれたにも関わらず殺気を一切感じなかったのだ。

 獣王との間に割り込まれたのも、ハルバードが当たって初めて気が付いた。

 相手は自身の想像を超えた速度で行動し、かつ殺気もなく刀を振るえる人物であると言う事に寒気を覚える。

 元来、殺し合いの最中に殺気を放たないなどあり得ないのだ。どんなに押さえても殺気は漏れでて、それを察知する事で体が自然と回避行動を取るのだ。

 しかし相手は殺気を放たない。つまりは見てから避ける、受ける必要がある。

 幸い九頭の九嶋には頭部が9つ、つまり18もの瞳が備わっている。

 敵の動きを見てから行動する事は不可能では無い。

 ただし、それは相手の速度による。

 高速で移動してきた破王に対して九頭の九嶋は最大限の警戒をするのであった。


「金獅子さん、立てますか?」

 獣王の体に付いた粘液を刀で斬りながら破王が声をかける。

 大剣すら包み込んでしまった粘液だが、一種の妖刀と化している白刃・白百合には少しも引っ付かず、粘液を次々と切り分けていく。

「むぅ。すまんな白狐。助かった。」

「ここは渡に任せて下さい。金獅子さんは他のドラゴニュート達の相手をお願いします。」

「うむ。わかった。相手はそれぞれの口から別々の属性のブレスを吐く。十分注意さてくれ。」

「はい。わかりました。」

 戦場を破王に任せ、後方に下がっていく獣王。


 破王は刀を鞘に戻し、両手をだらんと下げた状態で立っている。

 もう少しで獣王に留めを刺せた事に悔しさを噛み締める九頭の九嶋だったが、破王を前にして1歩も動けずにいた。

 ただ立っているだけなのに隙がないのだ。

「来ないんですか?ならこちらから行きますよ?」

 そう言うなり破王が一気に距離を詰めて九頭の九嶋の懐に入り込む。

 ハルバードが追いつかなかった九頭の九嶋は1つの頭から流水を吐き出した。

「水流の息吹!」

「抜刀術・飛光一閃!」

 高速で振り抜かれた刀により放たれた一閃は竜頭が吐き出す水流を二分する。

「雷電の息吹!」

 続いて別の竜頭から吐き出されたのは電撃のブレス。先の水流に乗ってさらに速度を増して破王へと迫る。

 そんな電撃に向けて抜き身の刀を再度振るう白狐。

「抜刀術・閃光二閃!」

 抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げると迫って来ていた電撃が散り散りになる。

「烈火の息吹!」

 続けて次の竜頭から吐き出されたのは火炎のブレス。

「抜刀術・発光三閃!」

 その剣閃が通った先では火炎すらも分断されて鎮火されていく。

「グッ!土砂の息吹!」

 さらに別の竜頭から土砂のブレスが吐き出される。

「抜刀術・残光四閃!」

 迫り来る土砂すらも一気に4度振るわれた刀により散り散りになり、破王には当たらなかった。

 竜頭でブレス攻撃をしながらもハルバードを振り回し斧頭での斬撃を繰り出す九頭の九嶋であったが、その斬撃も白刃・白百合によって弾かれてしまう。

 敵が近い。なんとか距離を取りたい九頭の九嶋は別の2つの竜頭から突風のブレスと氷結のブレスを吐き出した。

「旋風の息吹!氷結の息吹!」

 これはシュウカイワンが使っていたアイスとウィンドの複合魔法と同様の効果をもたらし、複数の斬撃として破王に襲い掛かった。

「抜刀術・無光五閃!」

 次々と襲い来る斬撃を1度に5度振るわれた刀が全て叩き落とした。


 それを見た九頭の九嶋は思いっきり後方に跳び下がった。自身が下がって距離を取る事しか出来なかったのだ。

「水に雷、火に土と来て風と氷ですか。先程金獅子さんに当ててた粘液を足してもまだ7つですね。残りは2つですか?それとも中央の竜頭は喋る代わりにブレスが吐けないですか?」

 そう言いつつ刀を鞘に戻す破王。

 そんな破王に向けて1つの竜頭牙ブレスを放つ。

「猛毒の息吹!」

 紫色の煙が辺り一面に充満する。しかし、

「飛剣・鎌鼬!」

 破王の超高速の抜剣により発生した飛ぶ斬撃が紫色の煙を断ち切り煙を霧散させる。

「なぜさっきから貴様らには毒が効かんのだ?!」

「ふむふむ。最後は毒のブレスですか。私には毒は効きませんよ。むしろ私も毒使いですから。」

 破王が言う。

「最近はめっきり使ってませんでしたが久々に使ってみますか。」

 再び刀を鞘に戻しながらなおも喋り続ける。

「元々私は九尾の妖狐でしてね。尻尾1本1本に毒を仕込んでいたんですよ。それは人化した今でも私の妖術として残ってましてね。この前ヨルさんに妖術の使い方を教えて貰って思い出したんですよね。妖術の使い方を。」

 そう言いながら抜刀の構えを取る破王。

 距離を取った九頭の九嶋もハルバードを構える。

「何を1人でぶつくさと。おれの息吹を防いだとてまだハルバードが残っておるわ!」

 言うなり高速で突きを放ってくる九頭の九嶋。

 その突きを跳躍して避けると真ん中の首に向けて刀を一閃させる破王。

「破滅の刃、一の型:沈黙。」

 咄嗟に首を下げて回避した九頭の九嶋だったが、その刃は薄く首を斬りつけた。

「1人でぶつくさって酷い事いいますよね。」

「…?!……!」

「そんな酷い事言う口は沈黙していて下さいな。」

「……!……!!」

「次行きますね。破滅の刃、二の型:盲目。」

 別の竜頭に向けて刀を一閃。首を半分近く斬る。

「……?!」

 突然1つの竜頭が暗闇に包まれた九頭の九嶋は首が斬られたのかと、別の竜頭で確認するが頭は残っていた。

 安堵しつつハルバードを振りかざす九頭の九嶋。

 そんなハルバードを避けながら破王は言う。

「見えなくなりました?1つの頭だけにしか効果がないですかね。まぁいいか。次は聴覚頂きます。破滅の刃、三の型:難聴。」

 先程斬った竜頭とは別の竜頭を斬る。薄皮を斬っただけだったが効果は発揮された。

 今まで9つの竜頭全てで音を拾っていたのに、唐突に1つの竜頭が耳が聞こえなくなったのだ。

「……!?……!……!!」

「やっぱり1つの頭にしか影響出てなさそうですね。破滅の刃、四の型:幻視。」

 先程斬った竜頭を再度斬る。今度は中程まで切断した。

 と、九頭の九嶋にはそれぞれの竜頭で見たモノそれぞれの脳で処理し、1つのモノを多角的に見ることが出来ていたのに、1つの竜頭が複数人の破王を目撃した。

「……?!……?」

 他の竜頭では1人でいる事は確認出来ている為、不具合はないが、軽く混乱する。

 九頭の九嶋は複数人に相手が見えてしまう竜頭の目を瞑り、ハルバードを振り回す。

「やっぱり多頭の相手にはなかなか厳しいですかね。」

 呟きながらハルバードを回避する破王。

 1つの竜頭は盲目にされ、1つの竜頭は目を瞑っている為、いつもよりも視界が少なく、ハルバードの狙いも定まらない。

「次行きます。破滅の刃、五の型:睡眠。」

 また新しい首を狙って斬りつけると、斬られた竜頭が眠りに付いた。

「…?!」

 これでさらに視界が奪われハルバードの狙いはますます定まらなくなった。

 九頭の九嶋も必死にハルバードを振り回すも破王はヒラリと避けると次の一撃を放ってくる。

「破滅の刃、六の型:麻痺。」

 斬りつけられた首から上が石化したかのように動かなくなった。

「……!!」

「次はどうなりますかね?破滅の刃、七の型:狂化。」

 斬りつけられた竜頭が狂ったように暴れだした。九頭の九嶋自身でも制御が出来ない程に破王目掛けてその首を必死に伸ばし噛み付きを行おうとしてくる。

「……?!…!……!!」

「あんまりな効果でしたね。次。破滅の刃、八の型:錯乱。」

 また別の首を斬りつけると、斬られた竜頭が隣の竜頭の首に噛み付き始めた。噛み付かれた竜頭は狂化を受けた首だった為、2つの竜頭同士で噛み付き合いが始まった。

「ほうほう。多頭の生物だと自傷行為に走りますか。では最後に、破滅の刃、九の型:猛毒。」

 最後の竜頭に向けて剣閃が走り、首筋を斬り裂く。

「……?」

「あら?結構即効性がある毒なはずなんですが、やはり体が大きいから回るのが遅いんですかね?」

 そう言っている間に斬られた竜頭が泡を吹き始め痙攣を始めた。

「……?!……!!」

 九頭の九嶋の頭部は大混乱状態である。

 1つの竜頭は盲目状態で、1つの竜頭は難聴状態、1つの竜頭は幻覚を見るため目を瞑り、1つの竜頭は眠りについており、1つの竜頭は石化したかの如く麻痺状態にあり、1つの竜頭は狂化して、もう1つの錯乱した竜頭との噛み付き合いをしている。そして1つの竜頭に関しては機能を停止した。

 無事な頭部は物言えぬ中央の竜頭だけとなった。

「……!………!!」

 九頭の九嶋はハルバードを振るいなんとか攻撃を当てようとするが、暴れる2つの竜頭のせいで狙いが定まらず、ことごとく破王に避けられる。

 それどころか懐に入り込まれ竜鱗が砕けた腹部に追撃の斬撃を受けてしまう。

 ここで九頭の九嶋は思いきった行動にでた。

 己の胴体の上で噛み付き合いをしている2本の首をハルバードの斧頭で切り落としたのだ。

 さらに活動を停止させた首も切り落とし、首の数は6つとなった。

 さらに麻痺でそっぽを向いた首と幻覚を見る首も切り落とすと、残りは4つ。

 そのうち2本は盲目状態と睡眠状態の為、見えているのは2つの竜頭のみ。

 それでも胴体の上で勝手に暴れる首を落としたことで随分と戦いやすくなった。

「……!!」

 ハルバードで鋭い突きを放ってくる九頭の九嶋。

 これを白刃・白百合でかちあげると再び懐に入り腹部に追撃を行おうとする。

 しかし、これはすぐさまハルバードを引き戻した九頭の九嶋がハルバードの柄の部分でガードする。

 それからしばらくはお互いに武器をぶつけ合い、かちあげ反撃し、受け流し反撃しを繰り返した。

「ふぅ。ここまでやってもまだ倒れませんか。そろそろ猛毒が体中に回ってもおかしくないんですけどね。」

 その言葉を聞いているうちに真ん中の竜頭が泡を吹き始めた。

 周りを見れば残った4つの頭部全てが泡を吹いている。

 猛烈に襲い掛かる悪寒。手足の感覚がなくなっていく。

 九頭の九嶋はハルバードを手放すとその場に膝をついた。

 上半身はフラフラと揺れており、いつ倒れてもおかしくない状態だ。

「最後はきちんと、とどめを刺してあげますね。」

 刀を鞘に戻した破王が抜刀の構えを取る。

 鞘走った白刃・白百合が中央の首を刎ねると同時に九頭の九嶋は倒れて動かなくなった。


 こうして最後の魔将、九頭の九嶋は倒されたのだった。


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