118話 竜魔7
バルバドスと特例兵士の2人は他とは雰囲気の異なる鎧を着込んだドラゴニュートと対峙している。
白色ドラゴンは勇者パーティーが、黒色ドラゴンは帝国軍兵士達が相手取っている為、ひとまずは目の前の敵に集中する。
「グゲゲッ。3人でオラの相手をしようってか。舐められたもんだぜぃ。」
「む。人語を解するのか。魔人だな?」
「グゲゲ。そうさ。オラは竜魔人。ただのドラゴニュートとは格が違うのさ。」
言いつつ手元のハルバードを回し始めるドラゴニュート。
「シャラマン、フェリオサ、油断するなよ。こいつ殻は強者の匂いがする。」
バルバドスは片手斧と丸楯を握り直す。
「あいよ。大将。任せてくんな。」
シャマランの大楯を握る手にも力が入る。
フェリオサはいつも通りシャマランの背後に隠れるように待機している。
と、いきなりドラゴニュートが握るハルバードが伸びてきた。
突きが来たと認識する前に自然と体が動きを丸楯で防いだバルバドス。
ガキンッ!
金属同士が当たる音を聞いて始めたハルバードで突かれた事を悟った。
それ程までに敵の攻撃は早かった。
すぐさまハルバードの斧頭での斬撃が来る。
これはシャマランが大楯で防ぐ。
だが、ドラゴニュートの攻撃は止まらない。突き、斬撃、突き、斬撃と繰り返される攻撃はなんとか楯で防いでいるものの、目で追う事も難しい程のスピードで繰り出される。
「オラオラ!まだまだ行くぜぃ!」
突き、斬撃、斬撃、突き、突きと先程よりもさらにスピードが上がった攻撃を前に反撃に出るタイミングが掴めない。
しかしこのままではらちがあかない。
バルバドスは感覚を頼りに丸楯での受け流しを敢行する。
突きが来た。丸楯に当たる。今だ。
バルバドスは利き手と逆の右手で持った丸楯を右にスライドさせる。
これには思いがけずハルバードを前に引かれる形となったドラゴニュートはたたらを踏む。
その隙にシャマランがドラゴニュートの右肩を狙って手斧を振り下ろし、フェリオサの背後に隠れていたフェリオサが前に出て細剣での突きをドラゴニュートの顔面目掛けて繰り出す。
ガキンッ!
高質な者同士が当たる音が響く。
「グゲゲ!オラの鱗はドラゴン並に高質だで、そんな軽い攻撃は弾いちまうぜぃ。」
ハルバードを引き戻したドラゴニュートはまたしても連撃を繰り出してくる。
槍部分で突かれ、斧頭で斬られ、シャマランの大楯が弾かれる。そこに斧頭での切り上げ牙迫る。
ザシュッ!
シャマランの右頬から額に抜ける傷が付く。眼球の切断は免れたようだが、血が舞う。
「くぅ。」
シャマランは弾かれた大楯を引き戻し追撃はガードする。
息つく暇も無いほどの連撃を前にまたしてもバルバドス達は防戦一方となる。
敵の鱗は硬い。渾身の一撃を入れないとあの鱗は突破できそうにない。
しかしバルバドスは他者との連携が苦手だ。
シャマランに防御を任せて、自身が力を溜めた渾身の一撃を入れるのが最善だろう事はわかるのだが、シャマランが作った隙を上手くつけるかが心配なのだ。
そこにシャマランが言う。
「大将。おれが防御を引き受けます。大将は渾身の一撃を放つ準備をしてください。」
バルバドスが考えていた事と同様の作戦をシャマランも思いついたようだ。
「ワタシは奴の目元を狙います。目には鱗はないでしょうし。」
「よし。ではおれがハルバードを弾いたら決行だ。」
2人の間で話が纏まってしまった。
こうなればやる敷かないとバルバドスも腹を括る。
1歩引いて防御をシャマランに任せる。
突き、斬撃、突き、今だ。
シャマランは大楯を大きく上に突き上げるとドラゴニュートのハルバードも釣られて上に向く。
そこで2歩前に出たバルバドスは両刃の片手斧で渾身の一撃をドラゴニュートの腹部の鎧に繰り出す。
と、同時にフェリオサが前に出てドラゴニュートの右目を狙って細剣を突き出す。
細剣は僅かに瞳を逸れてドラゴニュートの瞼に刺さる。が瞼にも竜鱗が生えたりおらず、ザックリと瞼の上を斬る。
バルバドスの両刃の片手斧はドラゴニュートの鎧を砕き、腹部の竜鱗を傷付け派したが鱗を破砕する事は叶わなかった。
「チッ!なかなかやるじゃねーの。だが楯の前に出たのが失敗だったな。」
ハルバードの突きがフェリオサの腹部にめり込む。
「ぐはっ!」
吹き飛ばされるフェリオサ。
ドラゴニュートは瞼から滴る血を拭いながらハルバードを手元で回す。
「グゲゲ。今のは効いたろう?」
シャマランが再び大楯を持って攻撃を防ぐ。
「大丈夫か?フェリオサ。」
フェリオサは吹き飛ばされた位置で膝立ちになり、自身の腹部の傷を見る。
「穴は開けられたけど内臓にまでは達してない。問題ない。」
そう言うとフェリオサは立ち上がりシャマランの背後に控える。
バルバドスも丸楯を構えて攻撃を防ぐ。
シャマランは斬られた右頬から額にかけた傷により血が右目に入りよく見えない状態になっている。
「大将。俺は右目が見えなくなっちまった。細かい攻撃を箇所の特定は難しい。おれが奴の利き腕を跳ね上げるからその隙に腹部のおんなじ場所狙ってくださいや。」
「うむ。わかった。」
斧頭での斬撃が来る。
シャマランは大楯でその斬撃を受け流すと、ハルバードを掴む腕を手斧で思いっきり跳ね上げた。
「どりゃぁぁぁあ!」
がら空きになる腹部。先程と同じ軌道を描くようにバルバドスの渾身の一撃が腹部に刺さる。
「うぉりゃぁぁあ!」
砕ける竜鱗。飛び散る血痕。
「ガハッ!」
ドラゴニュートは吐血すると腹部を抱えて蹲る。
そこに追撃を入れるフェリオサ。
「せいっ!」
その細剣は見事に片目を突き刺した。
「ギョエェェェ!」
痛みに堪えられず転がるドラゴニュート。
シャマランは追撃しようと1歩前に出た。
そこに伸びてくるハルバード。
誘っていたのだと気付いた時にはシャマランの胸部にハルバードが刺さっていた。
「ぐはっ!」
吐血するシャマラン。
ハルバードの先端の槍は肺にまで達していた。
「グゲゲゲゲッ!引っかかったなぁ!」
「衛生兵!すぐに聖術を!」
フェリオサは叫ぶ。
立ち上がったドラゴニュートがハルバードで突いてくるのをバルバドスが丸楯で防ぐ。
が大楯よりカバー出来る範囲が狭い為、少しずつ肩や腕、足元などに傷を負う。
そこで1人の衛生兵が他のドラゴニュート達との戦闘の隙間を抜けてやってきた。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に癒やしの奇跡を起こし給え。ヒーリング!」
温かな光がシャマランを包み込む。肺にまで達していた傷も右頬から額にかけて付けられた傷後も綺麗さっぱり治ったシャマランを見てドラゴニュートが慌てる。
「なに?!傷が治っただと?!」
聖術の存在を知らなかったようだ。
近付いてきた衛生兵はついでにバルバドスとフェリオサにも聖術をかけて癒していく。
「助かりましたわ。ありがとう。」
フェリオサは礼をいい、衛生兵に後ろに下がるように指示する。
片目を失い腹部からも血を流すドラゴニュートは喚き出す。
「そんな傷が癒せるなんてずりぃぞ!」
「戦闘に狡いもなにもないわ!」
バルバドスとシャマランが同時に斬りかかる。
ドラゴニュートはシャマランの斧をハルバードで受けるもバルバドスの斧を肩口に受ける。
しかし竜鱗が邪魔をしてダメージにはならない。
そこでフェリオサも前に出て細剣で顔面を狙う。
「せいっ!」
1度眼球突かれているドラゴニュートは大げさに首を振って細剣を避ける。
その隙にバルバドスとシャマランが再度斧を振り降ろす。
「はぁぁぁぁあ!」
「うぉりゃぁぁあ!」
ガギンッ!
バルバドスの斧が肩口に当たり竜鱗を砕く。
シャマランの斧が胸部を守る鎧に大きく傷をつける。
ドラゴニュートはハルバードを大きく振るい、バルバドス達を遠ざけて言う。
「グヌヌ。やるじゃねーの。」
腹部を斬られ、片目も失ったはずなのにまだドラゴニュートには余裕があった。
両手でハルバードを振り回し、バルバドス達が近付けないようにしながらも唐突に刺突を放ってくる。
バルバドスが丸楯で受けるがその威力は変わらない。ダメージを負っているとは思えないほど力強い突きだった。
その実、片目は潰れたが腹部の傷は浅く、そのそこまで致命的なダメージではなかったのだ。
今も8の字を描くようにハルバードの先端を動かし牽制しながら唐突に突き、斧頭で斬撃を放ちと最初の攻防に戻ってしまった。
楯を使って受け流そうとしてもすぐさまハルバードを引き戻され、バランスを崩す事が出来ない。
そんな中に飛び込んできたのが不死王だった。
「ん。後は任せて。」
唐突に間に割って入った人物は豹を思わせる兜を被り黄色の全身鎧に身を包んでいた為、バルバドス達にはあの傭兵団の一員だと言う事はわかった。
しかし相手は3人がかりでも崩せなかった猛者である。
「俺達も戦うぞ?」
思わずバルバドスは言うが、
「ん。大丈夫。他の人を助けてあげて。」
と言われてしまい、
「あ、はい。」
と返事をする事しか出来なかった。
バルバドス達が下がった後は不死王の独壇場であった。
左右の刃付きトンファーでハルバードを押さえ込み、負傷していると思われた腹部に刃を突き入れる。
片目から血を流している事を確認するとその見えていない方向からトンファーを振るい顔面を切り刻む。
顔に生えたり竜鱗すらもズタズタに切り裂かれ破砕する。
相手もハルバードでの付きや斧頭での斬り込みを行うも、全てトンファーでかち上げて逆にダメージを与えていく。
最後は腹部から臓物を溢しだしたドラゴニュートがハルバードを杖代わりに立ったまま息を引き取った。
「ん。順調。」
不死王は一言呟くと帝国軍兵士達が相手をしている黒色ドラゴンに向けて走り出した。
鎧を着込んでいないドラゴニュートを相手にしながら遠目に不死王の戦いを目撃していたバルバドスは、
「ありゃ俺達とはモノが違うな。」
と呟いたのだった。




