114話 竜魔3
昼食後に先を進む俺達の前に結構な高さの岩山が見えてきた。
岩山とは言いながらもところどころに木々が生えている。
シュウカイワン曰くあの山が竜魔人の魔将が住む山らしい。
ジャイアントリザードやリザードランナーなどの亜竜を退治しつつ、先に進む。
山の麓に着いた時にはすでに夕方になっていた為、今日は麓で1泊し、明日から山を登る事にした。
明日は魔将戦になると思われるので、今晩はオーク肉を使ってトンカツを揚げてカツカレーにした。
オーク肉は脂身が程良く甘みがあり、カレーにマッチしてなかなか美味かった。
皆の評価も上々だ。
そろそろカレーのストックも無くなってきた為、夕食後にカレーを仕込んでおく。
タマネギのみじん切りとミンチにしたオーク肉を鍋で炒め、タマネギが飴色になったら水を入れてぶつ切りにしたニンジン、ジャガイモ、トマトにさらにタマネギも入れて煮込む。
ジャガイモに火が通ったらお手製スパイスを入れてとろみが出るまでさらに煮込む。
塩で味を整えて完成だ。
これを一晩寝かせてから影収納に仕舞っておけばまたいつでもカレーが食べられる訳だ。
トカゲ系の魔物は夜行性ではない為、夜間の見張り番はそこまで必要ないのだが、念の為2人一組での見張り番を立ててこの日は就寝する事にした。
見張り番の当番は白狐と一緒だ。
無言でいるのもなんだから話しかける。
「いよいよ最後の魔将戦だな。」
「えぇ。竜魔人、どれほどのものか楽しみではありますね。」
「誰も犠牲を出さずにいたいものだな。」
「そうですね。でもクロさんは大丈夫ですよ。ヨルさんもいますし、私もいますから。」
「あぁ頼りにしてるよ。」
『クロは儂がいれば大丈夫だ。』
「もぅ。そんな事言わないで私も混ぜて下さいよぉ。」
そんなのんびりした会話が続くと不意に白狐が言い始めた。
「それにしてもワンズで出会った時はこんな風に一緒に旅をする事になるとは思ってもみなかったですよね。」
「まぁなぁ。」
「私なんて最初は懐かしい妖気に誘われるがままにご飯たかりに行っただけでしたからね。」
「そういや最初にあった時は敵だったんだよな。いきなり首を刈られそうになったっけ。」
「まぁあれはお仕事でしたからね。」
「それが今じゃ旅の仲間か。」
「ただの仲間じゃなくて、妻ですよ?」
「あぁそうだな。」
『まだその設定でいくのか。』
「設定ってなんですか?ちゃんとクロさんが責任とってくれるって言ったんですから。」
「あぁ、忘れてないよ。」
「ですよね?流石は私の旦那様。」
「もうすっかり旦那様呼びにも慣れたよ。」
「そこは慣れて貰わないと困りますよ。だって旦那様なんですから。」
そんな会話を続ける。
「とにかく、これ以上犠牲を出さずに大魔王とやらを倒せたらいいな。」
「そうですね。」
と話していたところで交代の時間になった為、銀狼達に交代して眠りにつくのであった。
夜間の襲撃もなく、無事に翌朝を迎えた。
今日は朝からドラゴン肉のステーキだ。
ドランにも軽く炙ったドラゴン肉を食べさせてやったら10kgくらいペロリと食べてしまった。
ドラゴン肉は貴重だから足りない分は亜竜の肉で我慢して貰う。
トカゲ肉なら沢山あるからな。
そんな朝食を終えたら早速岩山を登り始める。
一応道と呼べるような平らな箇所がある為、俺達だけでなく帝国軍兵士達も難なく付いて来ている。
だが道幅が狭い為、ここで戦闘になったら苦労するだろうと思われた。
そんな事を考えていたせいか、数匹のワイバーンが上空から襲い掛かって来た。
俺達だけでなく帝国軍兵士達にも数匹のワイバーンが迫っている。
「今後どれだけ敵が出てくるかもわからん。俺様と銀狼、蒼龍だけでここは乗り切ろう。王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させる兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となる。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象った兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となる。
「王化!龍王!」
蒼龍が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施された兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となる。
「私達は帝国軍兵士達のフォローに行きましょう。」
「よし、ワシと黄豹も行こう。クロよ。緑鳥達の護衛は任せた。」
「おうよ。任された。」
「ん。行ってくる。」
狭い道での戦闘はなかなかに厳しいものがあったが、銀狼が飛ぶ斬撃を放ち、蒼龍が水擊を放ち、近寄ってきたところを金獅子が跳び上がって大剣で斬りつけると言う戦法で6体のワイバーンを仕留める事に成功した。
帝国軍兵士達に迫っていたワイバーンも白狐達のフォローもあって無事に退治する事が出来たようだ。
そんな戦闘がありつつも俺達は岩山を登り続ける。
その後もワイバーンの襲撃を受けながらも頂上を目指して登る俺達の前に開けた空間と岩山に似つかわしくない屋敷が見えてきた。
遂に頂上に着いたのだ。
屋敷には縁側があり、1体の魔人が座していた。
その魔物は座っていてもなお2m近い巨漢であり、首が9つ、頭も9つあった。
ドラゴニュートには違いなく、9つある顔は全てリザードマンに竜の角が生えたような顔つきをしており、9つの顔に違いは見つからなかった。
同族なら違いに気付けるのかもしれないが、人間の目から見ればどれも同じ顔に見えた。
そんな9つの顔を持つドラゴニュートは屋敷に近付く俺達を見て声を上げた。
「なぜここに人間がいる?人族領に攻め込む話は聞いていたが逆に攻め込まれたか?他の魔将はどうした?まさか負けたのか?」
9つの顔を持つドラゴニュートは傍らの4mもありそうなハルバードを杖代わりにして立ち上がる。
その身長はハルバードと同じくらい、つまり4m近くもあった。
「まぁ良い。人間の侵攻など、このおれ、九大魔将の九頭の九嶋が阻止してやろう。ヤロー共出合え!敵襲だ!」
すると屋敷の扉が開きドラゴニュートがわらわらと出てきた。
その数約50体。なかには他のドラゴニュートとは異なり銀に輝く鎧を着込んだドラゴニュート6体いた。
さらに屋敷の奥から赤色、青色、黄色、緑色のドラゴンが飛んできた。
いずれの背にも銀の鎧を着込んだドラゴニュートが乗っていた。あれが
ドラゴンライダーと言う奴か。
いずれのドラゴンも5、6mの体長があり、二足歩行タイプだ。あれなら前脚での爪擊はあまり心配しなくていいだろう。
大きな翼を持っている為、機動力とブレスは攻撃にだけは気を付けないといけない。
地を歩くドラゴニュートもドラゴンに乗るドラゴニュートも手にはハルバードを持っていた。
なんだ?流行りか?ドラゴニュートは今のところその全てがハルバードを持っている。まぁ異なる武具を持たれるよりはやりやすいだろうが、長柄の武器だけに近付くのが大変そうだ。
さらに4、5m程の白と黒のドラゴン2体も飛んだ来た。こちらには背にドラゴニュートは乗っていない。
「よし!行くぞ!王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させる兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となり駆け出す。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象った兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となり駆け出す。
「王化!龍王!」
蒼龍が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施された兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となり駆け出す
「王化。不死王。」
黄豹が声を上げると、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせる兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となり駆け出す。
「王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させる兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり駆け出す。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となり緑鳥達の護衛につく。
「王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせる兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となる。
最後に俺も王化する。
「任せたぞ。ヨル!」
『おぉ。任せろ!』
「王化!夜王!!」
ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は体の制御権を手放した。
ヨルは影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと皆に合わせて駆け出す。
普通のドラゴニュートと4、5mのドラゴンは帝国軍兵士達に任せてヨル達は鎧を着込んだドラゴニュートを相手にするようだ。
ドラゴンライダーを相手にするのは金獅子、銀狼、白狐にヨルの4人だ。蒼龍と黄豹は徒歩のドラゴニュートを相手に戦いは始まった。
ヨルの相手は緑色のドラゴンに跨がったドラゴニュートだ。
ドラゴンの上からでも攻撃出来るようにか手に持つハルバードは5m近い。
まずは挨拶代わりにドラゴンの突風のブレスが放たれた。
ヨルは避けるでもなく、突風に突っ込む。
まさかブレス攻撃を超えてくるとは思わなかったであろうドラゴニュートは焦ってハルバードを振り上げる。
しかしヨルの方が早い。
ハルバードは右手に握られている弾、左側ご狙い目だ。
跳び上がり緑色のドラゴンの左目に黒刃・左月を突き立て、黒刃・右月で首筋を切り裂く。
残念ながら竜鱗に阻まれて首筋の方にはダメージは通らなかったが、左目は潰す事が出来た。
「グエェェェエ!」
苦悶の声を上げる緑色のドラゴン。
遅れてハルバードが振るわれたがそこにはもうヨルの姿はない。
左目に黒刃・左月を突き刺したまま、左の首筋へと黒刃・右月を何度も突き立てる。
これを嫌がった緑色のドラゴンは首を振りヨルを弾くと大空へと飛び立った。
そのまま滑空して上に乗るドラゴニュートがハルバードを振るってくる。
ヨルはナイフを交差させてその斧頭による斬撃を受けた。
ドラゴンの滑空による威力も乗ったハルバードの一撃はヨルを数m弾き飛ばした。
再度空へ飛び上がる緑色のドラゴン。
やはり空からの攻撃をどうにかしないと難しい相手だ。
しかし、その後も2度、3度と空からの攻撃を受けるヨル。いずれも防御は出来ているが、受ける度に数mずつ後退させられる。
4度目の滑空からのハルバードの振り回しが来る。
ヨルはそれに合わせて跳び上がり、緑色のドラゴンの左側の翼を切り裂く。
切断には至らなかったが、翼膜を大きく傷付ける事には成功。
これにより緑色のドラゴンは数mしか飛べなくなった。
数m対空しながら上に乗るドラゴニュートがハルバードで突いてくる。
ヨルはこれを紙一重で躱し、お返しとばかりに緑色のドラゴンの首筋へと斬撃をお見舞いする。
まずは緑色のドラゴンを倒し、機動力を殺ぐつもりである。
数mしか飛び上がれなくてもドラゴンの動きは機敏だ。
ハルバードの一撃を繰り出したらすぐに上昇し、距離を取られる。
なかなかに攻めづらい。
何度目かのハルバードによる突きを避けながら緑色のドラゴンの首筋への攻撃を繰り出した際に、顎下の逆鱗を突き刺す事に成功したヨル。
逆鱗を攻撃され、暴れる緑色のドラゴン。
その動きに翻弄されて上に乗るドラゴニュートはハルバードを振れない状態になった。
チャンスである。ヨルは跳び上がり緑色のドラゴンの顎下の逆鱗を狙い目黒刃・右月を突き刺す。
「ギョエェェェェエ!」
緑色のドラゴンは断末魔を上げてその場に倒れ込んだ。
残るはドラゴンの機動力を失ったドラゴニュートである。
「貴様、おれの可愛いドラゴンをよくもやってくれたな。」
「なんだ。お前喋れるのか。魔人化しているのだな。しかしその獲物、ドラゴンの上にいることを前提にした長さであろう?ドラゴンを失った今となってはその長さが邪魔になろう?」
「ふっ。日頃からこのハルバードを振り回す稽古をしているからな。ドラゴンに乗らずとも扱えるのさ!」
そう言うと5mものハルバードを頭上で振り回し斧頭で斬撃を放ってくるドラゴニュート。
ヨル達の戦いは今からが本番である。




