112話 竜魔1
その後もドラゴニュートに遭遇する確率が上がってきた。
どの個体もみな一様にハルバードを装備しており、何者かの意図を感じる。
恐らくだが最後の魔将がドラゴニュート達に武具を与えているのだろう。
魔人化していないにしてもその脅威度は帝国軍兵士達ではなかなか相手にするのは厳しい程度には強い。
竜魔人の支配領域には入っているはずだが、魔人化している者とはまだ出会っていない。
魔将の傍に侍っていると考えるのが妥当か。
ドランが産まれてから丸1日が経過したが、ドランはよく食べよく寝た。
寝ている間は緑鳥やワンリンチャンに世話をして貰い、俺もようやく戦える状態となった。
相変わらずトカゲ系の亜竜が多数出てきていたのだが、ここにきて大物が現れた。ドラゴンだ。
しかも3体纏まっている。赤色に青色、緑色の三色だ。
どの個体も皆体を地に伏せ丸くなって寝ているようだ。
しかし、帝国軍兵士達も引き連れている以上、ゆっくり進もうと目を覚まさせる事は間違いない。
それなら寝てる間に特攻を仕掛けた方がいいだろう。
蒼龍に緑鳥達の護衛を任せて残る6人で一気に叩く事にした。
「王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させる兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となり駆け出す。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象った兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となり駆け出す。
「王化!龍王!」
蒼龍が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施された兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となる。
「王化。不死王。」
黄豹が声を上げると、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせる兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となり駆け出す。
「王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させる兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり駆け出す。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となり駆け出す。
「王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせる兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となる。
最後に俺も王化する。
「任せたぞ。ヨル!」
『おぉ。久々のワシの出番だ。』
「王化!夜王!!」
ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は体の制御権を手放した。
ヨルは影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと皆に合わせて駆け出す。
金獅子と銀狼、白狐と黄豹、紫鬼とヨルの組み合わせでそれぞれドラゴン1体を相手にする。
今回の相手も四足歩行タイプのドラゴンだ。
ドラゴンには四足歩行タイプと二足歩行タイプがいる。四足歩行タイプはどっしりと地に構えるが、二足歩行タイプは翼をはためかせて空からの攻撃を得意とする。
その点、地にいてくれる四足歩行タイプの方がヨル達にとってはやりやすい相手だった。
その他にも二足歩行タイプは属性別のブレスを吐くが、四足歩行タイプはすべて火炎ブレスのみという差もあるらしい。
地を駆けるヨル達の足音に気付いたドラゴン達が体を起こす。
どれも体長は6m程度だ。
早速首を膨らませてブレスを吐く体勢だ。
次の瞬間、3体が一気に炎のブレスを吐き1面が炎に包まれる。
しかし王鎧を纏ったヨル達にとっては大した攻撃ではない。
炎の幕をそのまま突っ切りドラゴンに肉迫するヨル達。
まずはブレスを吐くのに頭を下げていた緑色のドラゴンに向けて紫鬼がアッパーをお見舞いする。
大きくのけ反る緑色のドラゴン。
そのがら空きになった首筋をヨルが黒刃・右月と黒刃・左月で縦横無尽に切り裂く。
「グオォォォオ!」
鱗が硬くて軽く肉を切り裂く程度のダメージしか与えられていない。
そこに左側腕を振り上げた緑色のドラゴンの爪擊が迫る。
紫鬼が掴み取ろうとするもあまりの勢いに負けて2、3m吹っ飛ばされる。
ヨルは跳躍してこの爪擊を避けている。
首元の鱗が硬い事を確認したヨルはより鱗が柔い所を求めて緑色のドラゴンの腹部に潜り込み、黒刃・右月で一気に切り裂こうとする。しかし生物的に1番弱いはずの腹部ですら鱗が硬くてなかなか刃が通らない。
そこでヨルは戦法を変えて地に着く前腕の鱗を滅茶苦茶に切り裂き始めた。
それを嫌がって腕を振り上げた緑色のドラゴン。
そうなれば残ったもう片方の前腕を狙って黒刃・右月、黒刃・左月を振り回す。
紫鬼もそれに乗じて前腕を殴りまくる。
硬い鱗があるとはいえ、集中攻撃を受けた前腕部分の鱗が剥がれ始める。
そこに振り上げた腕を振り抜く緑色のドラゴン。しかし振り抜かれた爪擊は自身の片腕に当たり、紫鬼とヨルには届かなかった。
自身の爪でもって片腕を攻撃する事になった緑色のドラゴン。
その攻撃がさらに鱗を剥ぐ。
やがて鱗が完全に剥げた箇所に向けてヨルが黒刃・左月を突き入れる。
「ギャオォォォオ!」
これは痛かったようで突き刺された片腕を大きく振り上げ再び爪擊を放ってくる緑色のドラゴン。
その攻撃に合わせて紫鬼が拳を振り抜く。
「鬼拳!」
硬い鱗を失い、ナイフを深々と刺された腕はこの拳を受けて折れ曲がる。
片腕を失い爪擊が繰り出せなくなった緑色のドラゴンは体を回して尻尾での薙ぎ払いを繰り出してきた。
これを跳躍して避けるヨルと紫鬼。
なんとヨルは後ろを向いた緑色のドラゴンの背に乗って駆け上がると、その背に付いた翼の根元に黒刃・右月と黒刃・左月を潜り込ませ、片翼を切り取ってしまった。
「ギャオォォォオ!」
これも痛打だったようで身を捩り背に昇るヨルを振り落とそうとする緑色のドラゴン。
頭が下がったタイミングを見計らって拳を繰り出す紫鬼。
「鬼拳!」
殴り飛ばされた頭が90度曲がり、脳を揺らされた事でバランスを崩してその場に倒れ込む緑色のドラゴン。
倒れる直前に背から飛び降りたヨルは顔面へと向かい、その目に黒刃・左月を突き入れた。
「ギャァァァオ!」
デカイ頭部故にナイフの切っ先は脳には達しなかったようで倒れ込んだまま無事な方の腕を振り払う緑色のドラゴン。
しかしそんなアンバランスな体勢で振り上げられた爪擊を受けるヨルや紫鬼ではない。
横倒しになっているのを良いことに顔面への攻撃を続ける。
紫鬼が殴りまくり、ヨルは何度も眼球にナイフを突き刺す。
それでも緑色のドラゴンは力尽きる事無く、再度立ち上がると尻尾での薙ぎ払いを繰り出してくる。
相当な生命力である。
跳躍して避けるヨル。紫鬼はその尻尾を掴み取ると投げの体勢に入る。
「どっせいっ!」
尻尾を持ち上げられ投げ飛ばされる緑色のドラゴン。
地に叩き付けられた衝撃で意識が飛んだらしく呻き声すら上げない。
反対の顔面を晒した緑色のドラゴンに向けてヨルが残った眼球に黒刃・右月と黒刃・左月を突き入れて眼球をほじくり出す。
その痛みで身を覚ました緑色のドラゴンが吠える。
「ギャオォォォオ!」
と、ここでヨルが顎下に逆さに生えた鱗を発見した。
所謂逆鱗と言うやつだ。竜種の弱点ともいわれている。
よるは思いっきりその逆鱗に向けて黒刃・右月を突き刺した。
「ギャァァァオ!」
最後の断末魔を上げて緑色のドラゴンは動かなくなったのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
獣王と牙王は赤色のドラゴンを相手にしていた。
まずはブレスを吐くために頭を下げていた赤色のドラゴンに向けた獣王が跳びかかり大剣をその頭部に当てる。
「断頭斬!」
その技名通りに断頭とはいかなかったが、思いっきり大剣を叩き付けられた頭部は地に強かに顎を打ち付ける事となった。
地に降りてきた顔面に向けて牙王が頭上で交差させた双剣を振り抜く。
「双狼刃!」
顔面にも硬い鱗が生えており、その斬撃は弾かれてしまう。
顎を打ち付けたダメージを散らすように頭を振りながら立ち上がる赤色のドラゴン。再度首を膨らませて至近距離からブレスを吐くつもりらしい。
「いくら王鎧と言えども至近距離で炎のブレスの直撃を受けたら火傷じゃすまないぞ!」
獣王が牙王に向けて声を張り上げる。
「これでも喰ってろ!氷塊弾!」
今にもブレスを吐くために大口を開けた赤色のドラゴンの口の中に30cm程度の氷の弾を射出する牙王。
炎のブレスを氷の弾が防ぎ水蒸気爆発を起こす。
「グキャァァァォア!」
その爆発により下顎を吹っ飛ばされた赤色のドラゴンは首を振りながら我武者羅に腕を振り上げた。
続く爪擊を大剣で受ける獣王。大剣の刃に向けた腕を振り抜いてしまった赤色のドラゴンは自身の力によって腕の鱗を破砕する事となった。
鱗が剥がれた腕を狙って牙王ご双剣を振り抜く。
「氷結狼々剣!」
左右から切りかかり、ちょうど喉元でクロスした斬撃はその名の通り対象を凍り付かせる技である。
その斬撃を受けた赤色のドラゴンの腕は一瞬のうちに凍り付いた。
それでもその凍り付いた腕で爪擊を放ってくる。
それには獣王が大剣を振り下ろし対抗する。
ガギンッと硬質な音が鳴り響くと、凍り付いた腕が大剣によって砕かれるところだった。
片腕を失った赤色のドラゴンは下顎を失った頭を伸ばし牙による噛み付きを決行する。
「どりゃぁぁぁぁあ!雷撃断頭斬!」
自身に迫るドラゴンの顎に向けて雷撃を纏った大剣を叩き付ける獣王。
この攻撃は見事に赤色のドラゴンの頭部の鱗をかち割り、頭蓋に罅を入れた。
再び強かに頭部を地に叩き付けられた赤色のドラゴン。
今度は下顎が無くなっていた為に自慢の牙を打ち付け折ってしまった。
頭を振りながら立ち上がる赤色のドラゴンら三度のブレスの為に首を膨らませる。
その瞬間、牙王は顎下に逆さに生える鱗、逆鱗を発見した。
「うおぉぉぉお!氷結狼々剣!」
跳び上がり逆鱗に向けて双剣を振り抜く牙王。顎下から凍るドラゴンの頭部。しかしブレスの準備は整っており、2度目の水蒸気爆発を起こし頭部が粉々になった赤色のドラゴンはその場に崩れたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
破王と不死王は青色のドラゴンと対峙していた。
破王は跳び上がり青色のドラゴンの顔面に向けてい抜刀する。
「抜刀術・飛光一閃!」
高速で振り抜かれた刀により一閃はドラゴンの左目を斬りつける。
さらに抜き身の刀を再度振るう破王。
「抜刀術・閃光二閃!」
抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げると今度は右目を縦3つに切断する。
「抜刀術・発光三閃!」
その剣閃が通った先では青色のドラゴンの眉間の鱗が破砕された。
これには堪らず頭部を持ち上げ逃げるように後ろを向く青色のドラゴン。
そのまま尻尾での薙ぎ払いを繰り出してくる。
不死王はこれを跳躍して避けると、青色のドラゴンの背に乗り、そのまま当部まで駆け上がり、破王が砕いた眉間に向けてい刃付きトンファーを突き入れた。
硬い頭蓋に阻まれて脳までダメージを通す事が出来ない。
が、眉間に突き刺さった刃は痛打だったようでさらに身を捩る青色のドラゴン。
「ギャァァァオ!」
今度は我武者羅に左右の腕を振り回して牽制する。
そんな青色のドラゴンの顎下の逆鱗の位置を確認した破王は遠距離攻撃を仕掛ける。
「飛剣・鎌鼬!飛剣・鎌鼬!飛剣・鎌鼬!」
しかし暴れる青色のドラゴンには上手く当たらず竜鱗に阻まれてダメージを与えることは出来ない。
「やっぱり遠くから狙うのは難しいですね。」
破王は呟き、青色のドラゴンが腕を振り回す先へと駆けていく。
不死王は再度青色のドラゴンの背に昇り顔面に向けて駆け上がる。
振り回される腕を掻い潜り青色のドラゴンの首元に辿り着いた破王は抜刀の構えを取る。
「はぁぁぁあ!抜刀術・飛光一閃!」
首元に振り抜かれた超高速の刃はその硬い竜鱗を破砕し、肉まで切り裂いた。
しかしまだ浅い。
「抜刀術・閃光二閃!」
抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り抜く。
「抜刀術・発光三閃!」
さらに白刃・白百合を振り抜いた破王。都合6回同じ箇所を切り裂いた為、大きく出血する青色のドラゴン。
目を潰された為に我武者羅に腕を振るう事しか出来ない。
そんな青色のドラゴンの頭部に辿り着いた不死王は、その頭部に向けて刃付きトンファーを叩き付ける。
1回、2回、3回。やがて鱗が剥がれ落ち肉が見えた先にもトンファーを叩き付ける。
ガギンッと硬質なもの同士が当たる音がする。肉を超え頭蓋にまで到達したのだ。
しかし青色のドラゴンも流石にやられっぱなしだはない。
首を大きく動かして頭部にいる不死王を投げ飛ばすと見えないながらも飛ばした不死王に向けて顎で迫る。トンファーを構えたまま自身が回る事で牙を打ち顎に捕まることを避けた不死王。
破王は首元をいまだ執拗に斬りつけ、首の切断を試みるが、これを嫌がった爪擊により3、4m弾き飛ばされた。
「やはり逆鱗を狙うべきですね。黄豹。もう一度首を昇って頭部への攻撃をお願いできますか?頭部に気がいっている間に私が逆鱗を突きます。」
「ん。わかった。」
青色のドラゴンの背に乗り再度頭を目指して昇って行く不死王。
流石に3度目ともなれば体を捩り上がらせまいとする青色のドラゴン。
それを阻止するように傷付けた首元に刀を突き入れる破王。
首元よ方が脅威とみた青色のドラゴンは爪擊を繰り出し破王の攻撃を阻止する。
と、ここで頭部に辿り着いた不死王。再び頭蓋にまで達した傷跡に向けてトンファーを振り下ろす。
また首を振り不死王を落とさんとする青色のドラゴン。
その一瞬をついて逆鱗へと白刃・白百合を突き入れた破王。
逆鱗を突かれた青色のドラゴンも地に伏せ、その息の根を止めたのであった。
こうして俺達は立派なドラゴン肉を3体分手に入れたのだった。




