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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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106話 進軍7

 丸1日訓練に勤しんだ俺達は翌日、南端の竜魔人族の領地に向けて足を向けた。

 まだ地面は浅瀬になっているのでゴム製のブーツ兼用の長ズボンで、そのゴム部分が胸辺りまであるような恰好となる防水着を着ている。

 浅瀬だからか出てくる魔物と言えばリザードマンとサハギンくらいなもんだ。

 リザードマンは相変わらず二股の銛やカットラスと言った装備を持っており、1群の中に必ず一際大きい2m程度の個体がいた。

 肩慣らし程度の相手であるが俺とヨル、それに蒼龍は2つ目の王玉を発動させ、積極的に強化体での戦闘に慣れるようにした。

 今は王化の合間の小休憩として、俺と蒼龍は緑鳥達の護衛をしている。

 そんなリザードマンとの戦闘において、黄豹が持つ釵の戦い方を見た。


 黄豹は1体のカットラスを持つリザードマンと対峙していた。

 リザードマンがカットラスを売り上げ、黄豹に襲いかかるも、釵の三つ叉の部分で刃を止め、そのまま捻って刃を固定するとグイッと手前に引く。

 すると刃を固定された為にどうにか外そうとしていたリザードマンが前面に引きつけられてたたらを踏む。

 そんなリザードマンの首筋にもう1本の釵を突き入れてその命を奪っていった。

 あの刃を掴み取るような使い方が釵の強みだと知った戦いだった。


 途中の珍しい光景と言えばヒッポカムポスと言う体の前半分は馬でたてがみは鱗状で前脚にヒレを持ち、後ろ半分が魚になっている魔物と、ケルピーと言うかてがみが海藻になっている馬の魔獣とが縄張り争いをしていた事だ。

 両方ともに馬でベースだが、ヒッポカムポスの方は後ろ脚が無い為に主に攻撃手段は水系統魔法に対して、ケルピーの方は後ろ脚での蹴りが主な攻撃手段だった。

 基本的にはもっと沖合に住まうはずの2種だが、何故か浅瀬に出てきていた。

 両方ともに4頭ずつで、1番体がでかいものだと3m程にもなる魔獣だ。

 最初距離が空いている時は魔法を使うヒッポカムポスの方が有利かと思われた戦いだったが、同じ水棲魔獣のケルピーにはあまり効かず、最終的には相手の懐に入って蹴り殺したケルピーの勝利となった。

 群れとしては1頭がウォーターランスに突き刺されて死亡した為、3頭だけになっている。

 そんなケルピー達に対して馬肉を求めた俺達が襲いかかる。

 ヒッポカムポスとの戦闘で疲弊し、一息ついていたケルピーたちはあっという間に俺達の手にかかり、1番体がでかい奴は白狐がその首を落として倒し、小型の2頭は蒼龍と銀狼に突き殺されて、馬肉として影収納に収まる事になった。

 昼食で早速ケルピーの馬肉を刺身で食べたが、みずみずしく、舌に蕩ける脂身と言い、とっても美味かった。


 そんなこんなで浅瀬を進み、乾いた土地を見つけては小休憩、宿泊を繰り返し、5日目には遠目に岸壁が見えてきた。

 案内役のシュウカイワンが言うにはその岸壁辺りまでが浅瀬になっているところになるらしい。

 このゴム長ともそろそろお別れのタイミングだ。まぁ帰りにも使うけど。

 そんなこんなで浅瀬を進む俺達の前に大物が現れた。

 ヒュドラだ。

 あの有名な9つの頭を持つ水トカゲだが、そのサイズがヤバかった。

 全長にして約10m程にもなる巨体は遠目にもはっきりと見えた。

 面倒な事に俺達が進む方向のど真ん中で体を丸めて休んでいるようだ。

 こうも遮蔽物がない、だだっ広い浅瀬では隠れて進む事も出来ない。

 大きく迂回すれば戦わずに済みそうなものだが、血の気の多い我等が白狐が早々に戦闘態勢だ。

 金獅子に銀狼、蒼龍ですらやる気満々である。

 シュウカイワンが言うには9つの頭の真ん中が弱点だが、毒の息を吐き相手を近付けない性質があるらしい。

 ちなみに前に来た時は大きく迂回して戦闘は避けたらしい。

 まぁ、あれだけの巨体だ。うっかり出くわす事もないこんな開けた土地を行くには避けて通るのが1番だろう。

 それでも俺達は直進するんだが。


 毒の対策として俺達だけで接敵する事、皆王化する事、紫鬼は緑鳥の護衛をする事などを取り決めてからヒュドラに近付く。

 あと30mくらいにまで近付いた時にヒュドラが体を起こした。

 はやりデカイ。近くで見ると10mを超えているかもしれない。

 すると白狐が走りだした。

「一番槍は私ですよ。王化!破王!」

 白狐の右耳に付けたピアスから白い煙が立ちのぼり白狐を覆い隠す。

 と、次の瞬間には体に吸い込まれるように晴れていき、破王の王鎧を纏う白狐が現れる。

「白狐に続け!王化!獣王!」

 金獅子が王化し、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獣王の王鎧を身に着けた金獅子が現れる。

「王化!牙王!」

 銀狼が王化し、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると牙王の王鎧を身に着けた銀狼が現れる。

「王化!龍王!」

 蒼龍が王化し、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍王の王鎧を身に着けた蒼龍が現れる。

「王化!不死王!」

 黄豹が王化し、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると不死王の王鎧を身に着けた黄豹が現れる。

「王化!鬼王!剛鬼!」

 紫鬼が王化し、右腕のバングルにはまる王玉から赤色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると剛鬼形態の鬼王の王鎧を纏った紫鬼が現れる。

「王化!聖王!」

 緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると聖王の王鎧を身に着けた緑鳥が現れる。

 最後に俺も王化する。

「頼むぞ。相棒!」

『おう。』

「王化!夜王!!」

 ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。

 その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。

 俺は体の制御権を手放した。

 ヨルはいつもの黒刃・右月と黒刃・左月を影収納から取り出した。


 皆白狐を先頭にしてヒュドラの元に走る。

 残り3mくらいの所でヒュドラが先に動き出した。

 細身の女性のウエストほどもある首の上には小柄な人なら一飲みに出来そうなほど巨大な頭が乗っている。それが9つ。

 その9つの頭のうち、真ん中の頭が首を更に太くしてから毒の霧を吐いてきたのだ。

 1面が毒々しい色の霧に包まれる。

 前が見えなくなるほどの濃霧ではないが、軽く皆の姿がぼやける。

 毒の息を吐くのは真ん中の首だけらしい。

 弱点となる真ん中の首は霧を吐いたら後方に下がってしまい、残り8つの頭が俺達に向かって伸ばされる。

「抜刀術・飛光一閃!」

 白狐により高速で振り抜かれた刀により一閃はヒュドラの首のうち1本を斬り飛ばす。

 続く金獅子、銀狼によって更に2本の首が切り落とされた。

 残り6本。

 しかし、切り落としたはずの3本の首の切り口からボコボコと肉が膨れ上がる。

 これは知ってるぞ。再生持ちだ。

 1つの頭を蒼龍の槍が吹き飛ばし、1本の首を黄豹が切り落とす。

 ヨル斬りかかり、合わせて3つの頭が落ちた。

 その頃には先に落とした3つの頭が再生していた。

「王化!武王!」

 蒼龍が叫ぶと紅色の煙が発生し体を包み、吸い込まれるように消えていくと右腕に紅色の線が入った王鎧を纏い、その手に燃えるような紅色の槍を持った蒼龍が立っている。

 早速紅槍の炎属性が役に立つ。

 紅槍でヒュドラの頭を潰すと煙を上げて燃え上がり再生を阻害する。

「氷結狼々刃!」

 銀狼が左右から切りかかりその首を切断すると、その断面を凍らせ再生を阻止する。

 ヨルも呪王形態になって魔術剣を使うかと思ったのだが今回はやめておくらしい。

「首を落とすのは2人で十分だろうよ。」

 との事。


 毒の霧は想定通り王鎧を超えて皆に効果をもたらす事はないようで、特に動きに支障はない。

 銀狼と蒼龍が首の再生を阻害し、次々とその首の本数を減らす。

 毒の霧も部位再生も効果を失ったヒュドラにとっては残る手段は大きな口での噛み付きだけだ。

 攻撃直後の銀狼に向かって首が伸びるが、これを金獅子が斬って落とし、攻撃を妨害する。

 攻撃直後の蒼龍にも首が伸びるが、黄豹がこれを妨害する。

 金獅子と黄豹に斬られた部位は再生していくが、これをまた銀狼と蒼龍が攻撃して再生を阻害する。

 そうこうするうちに残る首は真ん中の1本だけとなった。

「抜刀術・飛光一閃!」

 白狐が鞘に戻した刀を高速で振り抜き、その一閃でヒュドラの真ん中の首を斬り飛ばす。

 戦闘時間にして30分もかからず倒してしまった。

 やはり再生阻害が出来た事が大きい。

 再生持ちは焼くか凍らすかで対処出来るから蒼龍、銀狼、それにヨルがいれば問題ないと言う事だ。


 戦闘後、ヒュドラの肉を食用として回収しようと思ったが毒の霧を吐くくらいだから毒の生成器官があるのだろうと気付く。

 専門家ではないのでその辺りがわからない。そもそも毒持ちの肉は汚染されていないのか、喰えるのかが微妙だと言う話になり、巨大な肉はそのまま置き去りにする事に決めた。

 その日は遠くに見えた岸壁まで歩き、やっと浅瀬地帯を抜ける事が出来た。

 皆でゴム長を脱いで岸壁近くの広場で宿泊とする。

 夕飯はケルピーの肉を焼いて食べたが、焼いてもなお、みずみずしさの残る不思議な食感だった。

 明日からはいよいよ竜魔人族の支配領域に入る。

 出てくる魔物も竜種が増えるだろう。

 蒼龍曰く、竜の肉はそのまま焼いただけでもかなり美味いらしい。


 そんな竜肉への想いを胸に、就寝するのであった。


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