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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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104話 特訓1

 戦場には沢山の人魚、半魚人の死体が転がっていた。

 そんな中、銀狼が切り分け氷結させていたタコ足とイカ足を大量にゲットした。

 そのままでは俺の影に入らなかったので、皆で手分けしてそれなりの大きさにカットしてから影収納に収めて行く。

 これが結構な量になった為、作業はかなりの時間を要してしまった。

 そこで、今日は昨日野営した場所に戻って一晩明かすことにしたのだ。


 昨日向かった時には敗走兵の如き足取りだった事に比べれば今日はまだ足が軽い。

 灰虎を喪った悲しみは皆胸にしまい込んでなるべく明るい話題を振る。

「大量にイカ足とタコ足が手に入ったんだ。今日はシーフードカレーでいいかな?」

「お?いいな。あれだけの量だ。具沢山なカレーになるだろうな。」

『儂は肉が喰いたいぞ。』

「じゃあシーフードカレーとグリフォンの焼き肉にしようか。」

「おぉ。豪勢だな。」

「勝利の宴といきましょうか。」

 金獅子に銀狼、白狐は話に入ってきたが紫鬼と黄豹は暗い顔をしていた。

 紫鬼は想い人を、黄豹は姉のように慕っていた人を亡くしたのだ。仕方がないだろう。

 そんな中、蒼龍はどこか思案げな表情だ。

 それに気付いた銀狼が話を振る。

「どうした蒼龍?何か考え事か?」

「む?いやな、紫鬼が2つの王玉を同時起動させてその力を増したであろう?」

「あぁ。すげぇパワーアップだよな。」

「うむ。そうなると我が紅猿から引き継いだこの武神の加護を持つ紅色の王玉でも同じ事が出来ないかと思うてな。」

 そう言って右手の親指にはめたリングを見る蒼龍。

「紫鬼はあくまで加護神の力を同時起動させただけであって、加護を与えてくれてない神の王玉では難しいんじゃないか?」

 銀狼がもっともな事を言う。

「うむ。そもそも神の加護とは何かを考えておってな。」

「神の加護とは何か?」

「うむ。加護を受けたと言うのはこの王玉を託されたと言う事ではないか?」

「まぁ、確かにオレも戦神からの加護を受けた時にこのリングを貰ったけどさ。」

 そう言って銀狼も自身の左手の中指にはめたリングを見る。

「そうであろう?であるならばこの王玉を持つ事とそが加護を得たと言う事になるのではないか?」

「でも王玉を通じて加護を与えてくれた神の神通力を借りてるんだろ?」

 俺が疑問を挟む。

「だが紫鬼が行っているように神通力をどの王玉から受け取るかは自分で決められると言う事だろう?」

「なるほど。言われてみればそうだな。ワシは自分でどちらの王玉に神通力を流すかは自分で決めておるわ。」

 紫鬼が言う。

「その考えでいくと俺も橙犬の王玉を預かってるけど?」

 俺は左手の小指にはめたリングを見せた。

「うむ。試してみるのはありなのではないか?この先の魔将も強者であろう。となればこちらも戦力増強出来るならしておくべきだと思うてな。」

「む。面白そうな話であるな。なら夕食後にでも試してみるといい。幸い同時起動に慣れた紫鬼もいる。よい手本になるだろうて。」

 金獅子も言う。

 と言う事で夕食後に俺と蒼龍で紫鬼を見本に王玉の同時起動を試す事になった。


 夕食のシーフードカレーは自分で言うのもなんだが絶品だった。

 この世界は強者であるほど美味いってのは常識だったが、あのクラーケンは前に食べたクラーケンとは段違いに味が濃厚で、旨味に溢れていた。

 具材はタマネギと余っていた蟹の身と海老の身、そしてタコ足とイカ足をぶつ切りにしたものだけだったが、蟹の出汁も出ているカレールーとイカ足、タコ足が絶妙にマッチしていた。

 噛めば噛むほどにイカの味、タコの味が口内に広がるのだ。

 あまりの美味さに皆一言も発さずに無言で食べた。一皿目を食べ終わるとようやく、

「これは美味しいですね。タコの旨味がぎっしりですよ。流石クロさん料理上手ですね。」

「イカの味も絶妙だ。カレールーと合わさって何とも言えない旨味になってる。」

「ん。美味しい。」

「今まで食べたシーフードカレーの中で最高級じゃな。」

「うむ。美味い。」

「オレの切ったタコ足とイカ足がこんなに美味くなるとはな。黒猫の料理の腕もあるんだろうが、まず素材の足が旨味に溢れているな。」

「本当に美味しいですね。」

 と全員が高評価のうえ、緑鳥までもがおかわりする自体となった

 3食分のつもりで炊いて収納してあった米が空になってしまった。

 それ程に美味かったと言う事だ。

 桃犬なんか泣きながら食っていた。

「美味いっす。美味いっす。」

 とか言いながら。

 ワンリンチャンとシュウカイワンなんかは美味すぎて言葉にならないと言った様相だった。

 まぁ、人生の中でクラーケンの足を食べる機会ある人の方が少ないだろうし、その反応にも頷ける。

「ホント皆さんと旅に出てからの方が食は豊かになりましたよ。」

 と後からワンリンチャンが言っていた。

 確かに街にいた頃はホーンラビットやジャイアントボアを狩って食べていたと言っていたからそれより強者ばかりの食卓には衝撃も強いのだろう。

 惜しむべきはその体が海に沈んでしまった事だ。

 だが悔やんでも仕方ないのできっぱりと諦める。

 流石に潜って取りに行く訳にもいかないしな。

 そんなこんなで盛況なうちに夕食は終わり皆で片付けをした。

 いよいよお試しの時間だ。


 紫鬼から2つの王玉に半分ずつ神通力を注ぐ感覚を教わる俺とヨル、そして蒼龍。

「まずは意識を2つの王玉に向けるんじゃ。体のどの位置に王玉があるのか、感じる事が重要じゃ。」

「体のどの位置に、か。」

 俺は普段左耳のピアスに意識を向けている。

 蒼龍も同じく胸に下げだペンダントを意識しているはずだ。

 それに合わせて指にはめたリングに意識を持っていく感じ。

 両方を意識する。

 わからん。

 左手の小指にはめたリングを意識してしまうとピアスに意識が向かなくなる。

 左手のピアスを感じつつ、左手の小指に意識を向ける。

 やっぱりわからん。

 どっちかに意識を向けたらどっちかの意識が薄れる。

 紫鬼は普段から右腕のバングルに意識を向けたり、左足首のアンクレットに意識を向けたりと戦闘中でも切り替えが出来ていたからすぐに両方を意識する事が出来たのだろう。

 普段左手の小指になんて意識を向けたことがなかったからそっちを意識すると耳への意識が薄れてしまうのだ。


 蒼龍を見ても同じようで、リング、リングと呟いていた。

『苦戦しておるな。どれ、儂に変われ。』

 今日も器用に俺の肩に乗るヨルが言う。

 2本の尻尾がゆらゆらと揺れてバランスを取っている。

「何言ってるんだよ。ヨルに変わったら夜王化しちまうだろ?」

『お前らは同時起動を勘違いしておる。片方ずつに神通力を流してみれば良いのだ。何も同時に両方の王玉に流すだけが同時起動ではなかろう。』

 目から鱗だった。

 確かに紫鬼は同時に両方の王玉に神通力を流さないと剛鬼、斬鬼の切り替えが行われてしまっていたから同時起動に2つの王玉に神通力を流す事しか考えてなかった。

 そもそもが人から預かった形で入手した王玉が使えるか試すなら先に王化してからでも構わなかった。

「って事は俺が王化する時にリングを意識すればいいのか?」

 試しに左手の小指にはめたリングに意識を集中させて王化してみる。

「王化!夜王!」

 ヨルが俺の体の中に入り込むと左耳にしたピアスにはまる王玉から真っ黒な靄が噴出すると俺の体を覆い尽くす。

 その靄が体に吸収されるが如く晴れて行くとそこにはいつもの全身黒い王鎧に身を包んだ夜王が立っていた。

 俺は体の制御権を手放してヨルの視界から外の様子を確認する。

「ふむ。やはり普通に王化した時と変わらんな。そもそもクロは神通力とかよく分かっておらんだろう?」

 そう言われてみればその通りだ。俺はピアスに集中して、王化って叫んでるだけで、その後の神通力の流れみたいのは分かっていなかった。


「どれ。試してみるか。」

 そう言うとおもむろに左腕を突き出し、右手で左手首を掴むヨル。

「うむ。こうした方が集中出来るな。」

 今気付いたが、王化しても左手の小指に付けたリングはそのまま、王鎧に隠れることなく、その橙色の王玉は見える状態だった。

「では、いくぞ。王化、呪王!」

 ヨルが言った途端に橙色の王玉から橙色の煙が立ちのぼりヨルの体を覆い尽くす。

 そしてその煙は体に吸い込まれるように消えていくと、残ったのはいつもの全身黒の鎧ではなく、所々に橙色の線が入った王鎧に身を包んだヨルが立っていた。

 橙色の線は左手首から腕を巡り胸、腹に走り太股を通って両足首にまで至っている。

 と、次の瞬間に頭に猛烈な激痛が走ると魔術の基礎である魔素の魔力化から魔術行使の仕方、さらには複数の魔術を混合させる応用方法までもが頭の中を駆け巡った。

 魔導神の力によって魔術の神髄を覗く事が出来た。これなら魔術が使えるようになったかもしれない。


 こうして夜王・呪王形態が誕生したのであった。


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