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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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101話 再戦

 翌日、朝食を食べた後、帝国軍兵士の魔術師達が合流した。

 その中には勇者パーティーの1人、ドリストルの姿もあった。

「なにさ。あたし達魔術師を集めてやりたい事ってのは。バルバドス将軍からは何も聞いてないんですけど。」

 その問いに答えたのは蒼龍だ。

「うむ。我の技に水を霧散させる水霧(すいむ)と言うものがあってな。試してみよう。」

 そう言うと蒼龍は浅瀬に溜まる海水に向かって右手を突き出して技を発動させる。

「水霧!」

 すると一面の海水が瞬間的に霧となった。

 海水ゆえにしばらくすると海から水が流れ手きたが、これなら人魚達の体の周りを保護する水膜は解けそうだった。

「この通り、水が霧とする技なのだがな。これを人魚達へとかける。だからお主達魔術師にはその後すぐに火炎の魔術で人魚達を狙って欲しいのだ。」

 振り返ってドリストル始め魔術師全員に向けて蒼龍が言う。

「なるほどね。昨日は水の防御膜のせいであたしの魔術の効きが悪かったけど、そう言う事なら今日は存分にあたしの魔術を披露してあげましょう。」

「我の技は前方200m程度には威力を発揮出来る。そこになるべく広範囲に魔術を当てていって欲しい。」

「ならファイアボールじゃなくてファイアショットの方がいいわね。術者達、聞いた通りだからファイアショットが使える人員と使えない人員が交互になるように陣形を組んでちょうだい。」

 ドリストルが魔術師達へと指示を出す。

「それでいつ出発するの?」

「うむ。少し待ってくれ。仲間達にも確認してくる。」

 そう言うと蒼龍は俺達の元へと帰ってきた。


「あの女子(おなご)はあまり得意ではない分類だな。我が強すぎる感がある。」

 蒼龍は戻るなり弱音を吐く。

「頼むぞ。蒼龍。魔術師達はお前さんに任せるからな。」

「うむ。わかってはいるのだが苦手意識だけはどうにもならん。」

 金獅子に言われるが余程ドリストルが苦手らしい。

「それはそれとして、いつ出発する?こちらは魔術師達への説明は終わったが。」

「あぁ。そちらも準備は出来た。紫鬼には魔将対応に注力して貰う為に最初は王化せずにヨルと一緒に緑鳥達の護衛に付いて貰う事にした。」

「と言うことはまずは金獅子、銀狼、白狐、黄豹に我の5人で人魚達を陸地へと引っ張ってくる事になるな。」

「あ。いや。人魚達を陸地に誘き寄せる段階ではヨルにも前線に出て貰う。敵が惹きつけられてから緑鳥達の護衛にまわっても貰う。」

「それにバルバドスに特例兵士の2人、勇者パーティーにも惹きつけ役を頼んである。」

 俺は金獅子の発言に補足する。

「そうか。それならどうにかなりそうだな。」

「あぁ。だが今作戦はお前さんの技が肝になるからな。出来る限り先に魔術師連中と合流して、技の準備に取りかかってくれ。」

「うむ。心得た。」

 と言う事でいざ出発となったのだった。


 作戦の概要はこうだ。

 ヨル達6人とバルバドス達でまず人魚達を海岸線から誘き出す。

 ある程度海から距離が取れたら、具体的にはクラーケンの攻撃範囲から逃れたら、蒼龍の技を使って一気に人魚達の水の防御膜を無くして、そこに火炎魔術の絨毯爆撃を仕掛ける。

 この爆撃である程度人魚達数を減らせたらヨルを除く5人で再度海岸線まで行きクラーケンの相手をする。

 ある程度攻撃したら海岸線から離れてみて、クラーケンが追ってくるようならそこで迎え撃つ。

 もし海から出ないとすれば緑鳥の予想が正しいかもしれないから銀狼が足を切り飛ばしながら凍らせて行く。

 それでも回復するようなら一気に5人でかかって1体ずつ無力化していく。

 最後に紫鬼が絶鬼形態になって魔将の相手をすると。

 早くともクラーケン1体を無力化するまでは紫鬼には出ないように言い聞かせている。

 また灰虎の遺体を見て我を忘れて突っ込む事がないように、と。

 紫鬼は

「努力する。」

 とだけ答えた。

 万が一突っ込んで行きそうになったらヨルが止める事にした。


 俺達はバルバドス達と合流して、前線に出る者達で纏まって戦場へと向かった。

 今回は魔術師以外の帝国軍兵士達にはある程度数が減ってからの人魚達の相手を頼む事になる。

 まぁ、その辺りはバルバドスの指揮に従って貰えばいい。

 そろそろ海岸線が見えてくる頃だ。

 離れ小島も目視出来るようになってきた。

 そして俺達の目には昨日魔将が貼り付いていた離れ小島の岩山に吊すように括り付けられた灰虎の亡骸を目撃する事となった。

 走りだそうとする紫鬼を金獅子と白狐が制する。

 岩山の前には堂々たる立ち姿で八足の八戸が立っていた。

 相変わらず肌は黒光りし、長髪は水に濡れ肌に貼り付いていた。


「あら。2、3日は空けてくるかと思ったけど、翌日に来るとはね。よほどこの子が気にかかる感じかしら?」

 そう言うと四叉の槍で灰虎の遺体を突く。

「安心なさい。死体をもてあそぶ趣味はないわ。昨日殺した時のまま、他の子達がちょっかい出さないようにアタシの獲物って分かるように岩に貼り付けておいたから。」

 そう言うと八足のうちの1本で水面を叩く。

 するとクラーケン2体と人魚達がわらわらと海から出てきた。

 あの水面を叩いたのが敵襲を知らせる合図だったようだ。

「皆、準備はいいか?」

 金獅子の掛け声に俺達はうなずき王化を始める。

「王化!獣王!」

 金獅子が王化し、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させる兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となる。

「王化!牙王!」

 銀狼が王化し、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象った兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となる。

「王化!龍王!」

 蒼龍が王化し、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施された兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となる。

「王化!不死王!」

 黄豹が王化し、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせる兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となる。

「王化!破王!」

 白狐が王化し、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させる兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となる。

「王化!聖王!」

 緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせる兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となる。

 最後に俺も王化する。

「任せたぞ。相棒!」

『おう。任せておけ。』

「王化!夜王!!」

 ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。

 その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。

 俺は体の制御権を手放した。

 ヨルはいつもの黒刃・右月と黒刃・左月を影収納から取り出した。

 予定通り紫鬼だけは王化せずに温存する。

「準備万端よ。」

 バルバドス達も気合いの咆哮を上げる。

「よし、行くぞ!」

 金獅子の合図で皆、走り出す。

 緑鳥達と紫鬼は待機だ。

 その間にも魔術師達が陣形を整える。

 こうして再戦が始まった。


 今日は敵にあの半魚人のサハギンも混ざっている。

 時間がかかってしまった為に防備を整えられてしまったようだ。

 だが所詮はDランク。ヨル達、王化した連中には一撃で沈められている。

 サハギン程度なら帝国軍兵士達でも相手が出来るだろう。

 槍相手だけでなく、長剣持ちが加わった事でやりにくさも出たが作戦通りに進める。

 ヨル達は人魚達と交戦しながらジリジリと後退を始める。

 時々クラーケンの巨大な足による振り下ろしが迫ってくるが皆危なげなく避けている。

 今もヨルにマーマンとマーメイドが三叉の槍と二叉の槍を突き出して来たが、両手に持った黒刃・右月と黒刃・左月で受け流しつつ、近くにいたマーマンの首を狙って黒刃・左月を振るいつつも、すぐに少し後退して距離を取っている。

 クラーケンの攻撃範囲から逃れるまであと5m程度。

 クラーケンの攻撃範囲を見極めた紫鬼の指示により、魔術師達も寄ってくる。

 一足先にクラーケンの攻撃範囲から逃れた蒼龍が技の準備に入る。

 金獅子に白狐、銀狼に黄豹も攻勢に出られる時は前に出つつも、ゆっくりと後退を続ける。

 あと3m、2m、1m。今だ。

「はぁぁぁぁぁあ!水霧!」

 蒼龍が両手を突き出して技を発動させる。

 すると人魚達体の周りを覆っていた水の防御膜が一斉に霧散した。

 その瞬間を狙って魔術師達が魔術を発動させる。

「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の火球となりて打倒し給え!ファイアショット!!」

 魔術師ドリストルの詠唱によりその手にした短杖の先に魔法陣が描かれ、直径3cm程度の小さな火球が数十個生み出され、人魚達へと向かう。

 1つ1つの火球は小さいものの、数十の火球は複数の人魚達に当たりその身を焼き始める。

「「「ギャー!」」」

「「「ウワァー!」」」

「「「ウギャー」」」

 人魚達の断末魔が辺りに響く。


 その様子を黙って見ていた八足の八戸が慌てて言う。

「なんですって?!あんなに一気に私の可愛い部下達が焼き魚に!」

 四叉の槍を水面に打ち付け魔法を発動させる。

「そんな火炙りだなんて、許さないわよ!」

 そう言う八足の八戸の周りに数十の水球が浮かぶ。

 1つ1つは10cm程度だが、その数は膨大だ。

「ウォーターショット!」

 その数十の水球が水弾となって飛んでいく。

 八足の八戸から魔術師達までの距離は数十mあるがそんな事お構いなしに水弾は魔術師達へと迫った。

「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の火球となりて打倒し給え!ファイアショット!!」

 ドリストルの短杖の先に魔法陣が描かれ、直径3cm程度の小さな火球が数十個生まれ水弾へとぶつかる。

 しかし、水弾の方が大きく勢いもあった為、その多くは魔術師達へとぶつかり、その身を投げ飛ばれる魔術師達が数名。

 まだ絨毯爆撃に支障が出るほどではない。

 金獅子に銀狼、白狐に黄豹は魔術師達が撃ち漏らした個体へと向かい無力化していく。

 ヨルは紫鬼と合流して、緑鳥達の護衛に回った。

「はぁぁぁぁぁあ!水霧!水霧!」

 迫り来る人魚達の水膜を霧散させる為に、蒼龍は前線に立ち技を連続で発動させている。

 辺りには魚と人肉が焼けるなんとも言い難い匂いが漂う。


 そんな攻防を30分も続けただろうか。

 次第に迫り来る人魚達の勢いが落ち始めた。

 数が減ったのだ。

 サハギンも入れるとすでに2000体以上は倒しているだろう。

 その間もクラーケン達は浅瀬に昇って来ることなく、届きもしない足の振り下げを継続していた。

 あまり知能は高くないのかもしれない。

 そろそろ人魚達の相手は帝国軍兵士達に任せてクラーケンへの対応を行う頃だろうか。

 ちなみに八足の八戸の小島のから動く事はなく、時折思いだしたかのようにウォーターショットを放ってくるだけだ。

 よほどあの小島からは離れたくないらしい。

「よし、ますはタコのクラーケンから潰すぞ!」

 金獅子の雄叫びを聞いて銀狼が走り出す。

 目指すは小島の右手に顔を出すタコのクラーケン。

 これを潰せればいよいよ紫鬼の出番だ。

 俺はヨルの視界を通して周りの状況把握に努めた。


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