表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死の約束

作者: 待鳥月見

 移動教室の合間のちょっとした会話だった。

「怖い花言葉ってあるでしょ?」

「ああ、それならキスツス・アルビドゥスの花なんてどう?」

「なにそれ、噛みそう。どういう花言葉?」

「私は明日死ぬだろう」

 白那(しろな)はそう言って、にこっと笑った。一目で細いとわかる繊細な黒髪が、肩口で綺麗に切りそろえられて、天使の輪ができている。私と同じ髪型と恰好なのに、彼女だけ輝いているみたい。この空間で彼女の存在だけ浮かびあがってみえる。彼女が纏うのはいつだって特別感。

「こわあ」

「でも、この花言葉ってどこから来たんだろうね? 死地に赴く兵士が、恋人にこういう花を贈ったのかな? なんだか映画のワンシーンみたい」

 白那はそういう知的なことをさらりと言ってのける少女だった。白那と出会ったのは、今年の春、高校にあがってからのことなので、彼女の知識の背景がどのようになっているのかを私は知らない。

 彼女の知っていることは全部知りたい。

 私はその日学校から帰ってきて、夜に父親のパソコンを借りて、その花を調べてみた。和名ではゴジアオイというらしい。正午に咲いて、すぐに萎れるから。ウェブに掲載されているその花の写真は、だいたいがポルトガルで撮影したもので、日本では珍しい花のようだ。

 白那とのやり取りを綴っているノートに、花の名前をメモした。


 ノートには他に、殺害のアイディアもメモしてあった。

 高校卒業までに、白那をこの手で殺すつもりだった。あんな天使みたいな子、きっと死体になったら、とってもかわいい。私は死んだ体というものが好きだった。むかしから蝶や鳥の死骸に惹かれた。きっと、死んでくれたら人間だって愛せる。

 なんとかしてキスツス・アルビドゥスの花を用意しようと考えた。その花に埋もれて仮死状態になった白那は、さぞやうつくしいだろう。「私は明日死ぬだろう」の花言葉の余韻。二人だけしか知らない会話をキーにしているところもポイントが高い。

 わくわくしながら眠りについた。


「ねえ、キスツス・アルビドゥス、取り寄せたの。うちに見に来る?」

 白那はそう言って、私を自宅へと誘った。テスト期間なので午前中だけで学校が終わる日のことだった。

 白那の自宅はマンションで、室内は綺麗に片づけられており、ベランダには防風幕と表現すべきものが設置され、さまざまな植物が置いてあった。

「お父さんがね、いろんな植物を調べる仕事をしているの」

 目当ての花はちょうど咲いていた。小さな紫色の花だ。

 静かに鑑賞しようとしゃがみこんだ私の前で、白那はその花を手折った。

「え?」

「この花は、小夜に似合う」

 白那は極上の笑顔を浮かべながら、私の髪の毛にその花を挿した。

 もう一輪手折り、白那は今度は自分の髪に挿す。

「じつは小夜の隠してたノート、見ちゃったんだよね。小夜が私のこと想ってくれたことが嬉しい。でも私はわがままだから、ひとりでは逝けない。いっしょに逝こう?」

 異常ともいえる思考を持つ私を嫌悪や軽蔑するのではなく、白那は理解してくれた。そのとき、私の胸に訪れた幸福感は、十六年の人生で味わったことのないものだった。

「うん、白那といっしょに、永遠になりたい」


 暗いマンションの部屋で、私たちは抱擁した。


 私は明日、死ぬだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ