忘れてる事がある
「本当だ。城門が閉まった状態だわ」
跳ね橋は下がった状態だけど、城の中に入るための門は閉ざされた状態。【フォース】の街も下層や中層は普通だったけど、上層は冒険者の姿が全然なかった。貴族みたいなNPCがコソコソと噂話をしてる感じなのは……いつも通りだったわ。
「裏口から入る許可は貰っていますので」
兵士や給仕達が出入りする扉から、モモと私は城の中へ。門番の兵士達は私が城の中に入るのを止めないのも、そういう事ね。
「マン様よりも先に王への謁見をします。他の冒険者様達も待っているはずですから」
「それで全然構わないから。さっさと依頼を聞きに行くべきでしょ」
他の冒険者に恨みを買うわけにもいかないから、マンには悪いけど、牢屋の中でゆっくり休んでいて欲しい。
城内はヒューイが誘拐された事に騒然となってるかと思いきや、最初に入った時と変わりがない。違うがあるとしたら、冒険者が列を作ってないぐらい。その並んでた列の先に用事があるわけなんだけど……
「ヒューイが拐われたのに、全然騒ぎになってないんだね」
「主が城を抜け出すのは日常茶飯事で、迷惑をかけてばかりですからね。いつもの事だと周囲は思ってるんです。街の住民達も一緒ですね。無理に運ばれた様子ではなかったみたいですから」
ヒューイは【闘技場】みたいに、城でも色んな人達に迷惑をかけてて、【カリスマ】持ちでも人望がないのか……好き勝手してそうだしね。
「玉座の間に入ります。王から畏まる事はなく、普段と同じで構わないそうです」
「それは助かるかも」
王の前でどんな風にすればいいか全然分からなかったから。跪かないと駄目だとか、どこまで近付いていいのか、色々とね。
モモは玉座の間の扉を開き、前へと進んでいく。そして、一定の距離で立ち止まり、膝をついた。私もそこまでは進んでも問題ない感じなのかも。
「冒険者カズハよ。よくぞ来てくれた。モモから話は聞いていると思うが、我の馬鹿息子のヒューイが拐われたそうだ」
ヒューイ王は私がモモの横に並ぶと同時に声を掛けてきた。王の姿はヒューイに似ていて、というか逆か。ヒューイが年を取ったら、こんな姿になると分かるぐらい。
「近頃、【フォース】周辺に怪しい魔物が出没すると共に、街では人々が拐われる事件が起きていたのだ。その調査をギルドに頼もうとした矢先に、ヒューイが拐われるとは……それも自身でついて行った節もあるとか」
誘拐が多数起きてるなら、ヒューイを狙ったわけじゃないんだ? そこは王族だからとか、理由がないと逆に恥ずかしいんじゃ……しかも、ヒューイはマンから助けて貰ったと勘違いしてるかもしれないわけで……
「あの……何で私なんですか? 彼を助けるのに私以上に優秀な冒険者がいると思いますよ」
一応、断る事が出来るかの確認ね。ここでヒューイを助けに行った暁には、更に好感度が増す可能性もあるから。
「ヒューイは冒険者嫌いでな。冒険者であれば、誰でも良いわけでもないのだ。お主には心を開いていると、モモから話を聞いたのだ」
そういった理由だと思ったけど……心を開いてるどころか、プロポーズされてるからね。
「勿論、それなりの報酬を出す。他国へ行くための許可書もそうだが、ヒューイ救出に必要な道具を揃えるためにも、5000Gを提供しようではないか」
5000G!! 最初の頃はお金は必要ないと思ってたけど、【転移の翼】もそうだし、この先の冒険の事を考えても、お金は大切だと実感したから。
それに……マンばかりが色々と食べてるけど、私も食べてみたい物がないわけでもないし……
「……分かりました。けど、私がヒューイを助けた場合、彼がこれ以上関わるのを禁止にして貰えたら」
王からの命令だったら、ヒューイも断る事は出来ないでしょ。マンとヒューイの勝負もあやふやになってるだろうから。
「よかろう!! ヒューイを助けた時には、カズハに近付かないよう伝えておく」
よし!! これで私がヒューイを助けたとしても、何も問題なく、旅を続ける事が出来る。
「それと我の依頼ではあるが、今回限りはギルドからのクエストとしての受注となる。ギルドはヒューイの拐われた場所を見つけたらしいのでな。5000Gもギルドから受け取って欲しい」
ヒューイが拐われた場所がダンジョンであるなら、C級に昇級するための条件の一つ【クエストによる洞窟や遺跡等のダンジョンの一つを走破】に該当するかも。
それと一緒に【D級の討伐クエストを五つクリア】も出来たら御の字なんだけど……
「まずはギルドに向かえばいいんですね。それでは早速」
ギルドから依頼を受注して、ヒューイ救出の準備を……って、何かを忘れてるような……
「あの……マン様を牢屋から出さなくてもいいんですか? 彼の力が必要になるかと思うのですが……」
「わ、忘れてたわけじゃないから!! 勿論、ギルドに行くよりも先に、マンを牢屋から出すから」