ヒューイは何も出来ません
「えっ!? 何か言った? こっちはもう終わったんだけど」
「……はっ!? そんな馬鹿な……お前は僧侶じゃなかったのか。武器も持っていないではないか!!」
ヒューイが後ろを向いたのを皮切りに、速攻でゴブリンの撃破に向かった。それも負けたとはいえ、【ナイトメア】戦の影響もあって、力や速度が上がってるのもあるのかも。
「圧倒的!! こんな展開を誰が予想したでしょうか!! まさか、レッド様が素手でゴブリンを瞬殺するなんて」
受付嬢も興奮した感じでアナウンスをしてる。モニターで見てる観客が荒れてる声も一緒に聞こえてきたのは、ざまあみろだね。
「続いての試合はどうしますか? 私としては見てみたいと思うのですが……」
「勿論、継続だ!! 余は何も出来ないからな。レッドもそれで構わないはずだ」
「継続!! 試合継続です!!」
私が答える前に、ヒューイが継続する事を決めたんだけど!! メインは私のはずでしょ。パートナーがそれを決めてどうするのよ……
実際、ヒューイは何もする暇はなかったわけで、他の冒険者と組んだ時、本当は何かしたような事を言ってたし、それを探るのもありかも? その証拠を見つけて、【闘技場】を出禁にすれば……闘技者として登録してなかったわけだしね。
「それでは二回戦……はじめ!!」
アナウンスが切れるのと一緒に、私とヒューイの声もあちら側に届かなくなったと思う。それと同時に最初とは別方向の柵が開かれた。
「うわ……虫系なの。芋虫やミミズよりかはマシだけど……」
二試合目の相手は巨大なアリが一匹。私よりも二倍は大きさがある。気持ち悪さはあるけど、芋虫やミミズに比べてたら大丈夫ではある。
「虫系が苦手なのか。なら、余の命令に従えばいい!! って、おい!! 余の声が聞こえてないのか!?」
「えっ? 虫は見た目が苦手なだけで、倒せないわけじゃないから。というか、命令に従う理由もないし」
ゴブリン戦同様、ヒューイが何かをする前に巨大アリを撃破。巨大アリの倍以上ある高さは、壁を使っての三角跳びで補い、そこからの回転蹴りで頭を蹴り飛ばした。三角跳びは初めての挑戦だったけど、【ユニユニ】という事もあって、案外出来るみたい。
「そういう事ではない!! 余の【カリスマ】で虜にされてないという事だ。装備も効果を高めるはずが……」
【カリスマ】はスキルの事を言ってるわけ? それとも赤レッドの姿をしてるから、スーパーヒーローになった気持ちになってるとか? そんな効果もあったはずだけど……
「二回戦も突破!! 蝶のように舞い、蜂のように刺す。そのような動きで、レッド様は巨大アリを撃破しました!! 勿論、次の試合は」
二試合目が終わって、再びアナウンスの声が。それも若干嬉しそうなのは、ヒューイのいつもの試合とは違う展開になってるからなのかも。
「継続に決まってる!! 今度こそだ。レッドは余の力に平伏すだろう」
いやいや……私を平伏すようにするんじゃなくて、魔物を倒すのが本来の目的だから。
「三試合目決定です!! 次の試合はヒューイ様の活躍が見れるそうです」
受付嬢はヒューイを煽るような台詞を言った後、アナウンスを切った。それは第三試合の開始の合図でもあって、三つ目の柵が上へ引き上げられていく。