ぬいぐるみの使い道
☆
「うわ〜……出店もこんなにあるとか、お祭り騒ぎでしょ。冒険者も露店で店を出してるし」
【ユニユニ】にログインしてみると、【アイン】の街にある噴水前じゃなくて、【フォース】の街に入ってすぐの門前から始まった。【ログイン】時は最後に訪れた街からになってるから。例外があるとすれば、【サバイバル】のスキルや【ベッド】のアイテムを使用時ね。
【ログイン】したら、すぐにマンから【メール】が届いた。【闘技場】前にいるらしくて、今はそこに向かってる最中。
【闘技場】は城下町とで区画が分かれてるみたいで、案内の看板が目の前にあった。賑わいの声が聴こえてくるのは【闘技場】の方で、冒険者だけじゃなく、NPCもそっちに足を運んでるから。
「たこ焼き、焼きそば、リンゴ飴もある。グロ系は……見なかった事にして、マンが一度も食べた事がないとか言ってそうだわ。冒険者が他の屋台より物を安く売ってるのは頭が良いかも。結構な値段するもんね」
私が【ログイン】する間に、マンは全屋台をハシゴしてもおかしくない気がしてきた。クレープも我慢出来ず、走り去って行くぐらいだったから。
職業【商人】の屋台は【フレンド】やパーティーの中に生産職がいて、それを元手に売ってるのかも。これもコラボ化とか、現実の商品化の一歩になるわけだし。
「あっ……」
「あっ……」
屋台で買い物をしてる紅と目が合った。【フレンド】で【ログイン】してるのは知ってたけど、同じ場所にいるなんて……
「こ、これは違うから!! 可愛いからじゃなくて、即死魔法の身代わりになってくれるアイテムなだけなんだから」
紅が買ったのは大きな熊のクマのぬいぐるみ。それを抱きしめながら否定されても……
「……似合ってないとか言わないけど、即死の身代わりは可哀想というか」
「そんな事するはず……可愛いから買ったのよ!! 少し慰めて欲しかったの!!」
「そこまで言う事はないから。紅はここで何を……って、分かりきった質問だったわ」
私と紅がいるのは【闘技場】前の屋台。紅は【闘技場】に参加するため……その戦闘も終わった後なんだと思う。
「そうよ。B級に上がる時も【闘技場】で【ゴールド3】クラスで勝利しないと駄目なんだけど、失敗したわけ」
「なるほどね。【闘技場】の試合で負けたから、いつもみたいに『勝負よ!!』と駆け寄ってきたりしなかったんだ」
紅のいつもと感じが違ったのはぬいぐるみの事もあるけど、【闘技場】の試合に負けたからでもあるわけね。
「そんな馬鹿みたいに何度も言わないわよ。……確かに負けた事は凹んだけど、それだけじゃないから。レベルの違いというか……アンタの相方のせいよ」
相方……というのはマンの事? マンが何かをやらかした……というより、無双した感じなのかも。その気持ちは分からなくもないし……
「マンは先に【闘技場】で試合をしたわけね。待ち合わせをしてるから、その話を聞かされるかも。それじゃ……」
マンを待たせてるわけだし、ここで紅とはお別れ……
「って、なんで付いてくるのよ!! 勝負はしないはずだよね?」
どういうわけか、紅も一緒について来るんだけど!!
「ここに来たという事はカズハも【闘技場】に参加するのよね? 今後のため、その試合を見させてもらうから」
紅は私との再戦のために、試合を見学するつもりみたい。
「それなら仕方ないかな。試合を見るのも勉強になるのは確かだし……私が紅だった場合もそうする」
間違った事じゃないからね。私も【闘技場】に参加するだけじゃなく、マンの試合を見たかったから。