お詫びの品
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「はぁ……嬉しかったのは分かるけど、その話を聞くのは何度だよ。朝から同じ話ばかりしてるんだから」
大学の昼休み前。日課である千城院さんを見るため、四壱と一緒に食堂に向かう最中。
今日は朝から四壱と一緒に行動してる。というのも、【ユニユニ】の話を誰かに聞いて欲しくて……兄さんにも話すけど、まだ帰ってきてなかったから。
「話を聞く限り、僕もやってみたい気持ちにはなったけど……ゲーム初心者だからって、一葉が全然相手にならなかった敵とかいるんだからさ……けど、今はちょっとね」
「はいはい……弓道部の事もあるけど、兄さんが【ユニユニ】をやってないからでしょ」
四壱は兄さん第一主義だから、兄さんが【ユニユニ】を始めた場合、弓道部よりも優先するはず……それは流石にね。
「だね。一葉が歯が立たない相手を、彼女が追い払ったのは凄いと思うわ」
彼女というのは勿論、千城院さんの事だから。【ユニユニ】の名前は千ね。一人でじゃなく、マンも一緒だったけど、ここは千城院さんの活躍にしたいから……
「助けて貰っただけじゃなくて、逆に助ける事も出来たから。感謝のアイテムもくれたんだから」
【ナイトメア】の攻撃を受けた時、千城院さんの姿を見て、気を失わずに済んだし、【ヒール】を千城院さんに使う事も出来たから。
「けど、それは本人からじゃなく……マンだっけ? 彼を経由してなんだよね? 【ユニユニ】内じゃなく、こっちで声を掛けてくれた方が嬉しいんじゃないの?」
「……痛いところを突いてくるんだから。そっちの方が当然嬉しいんだけど、今回はマンの方が活躍したから仕方ないかな。【フレンド】にもなったみたいだし……」
「いやいや……納得してる顔じゃないからね」
その場にいられなかった私の力不足。そこはきちんと受け入れないと……って、やっぱり悔しい物は悔しいから!!
「私はこれから強くなるんだから。守ってもらう側じゃなくて、守る側にならないと。今日は金曜日だから、やり込む事も出来るわけだし」
明日、明後日は土日だから一日中【ユニユニ】を出来る。今日の夜からでも…
「今日、明日、明後日とバイトがある日じゃなかった? ゲームに夢中になるのも良いけど、そこはドタキャンしたら駄目でしょ」
「そういえば……すっかり忘れてた」
バイトの入る数を減らすつもりだったけど、それは次のシフトからじゃないと無理な話だった。流石にサボるわけにもいかないし……
「今日は【ユニユニ】は無理かな。土日は……いつもの時間にかなるのか」
食堂に着いたので、いつもの定位置に鞄を置いといて、昼御飯を買いに行く。いつもは購買でパンを買う事が多いんだけど
「ちょっと……そこのアンタ。カズハって名前だったかね? こっちに来ておくれ」
「……えっ? 私がいない間に何かしたわけ?」
どういうわけか、食堂のオバちゃんに手招きされて、呼び出されたんだけど? 四壱もそれにビックリしてるみたいだし………
オバチャンが私の名前を知ってるのは……あの時、紅がカズハと私を呼んだから!? その事で食堂に迷惑をかけたのかも……
「ゴメンナサイ。昨日の事ですよね? 変に注目を集めたみたいで」
「それは全然気にしないでいいよ。それとは別件だから。アンタが何かを食べる前に、これを渡さないと駄目なのよ。迷惑をかけたお詫びの品だとさ」
「お詫びの品?」
食堂のオバちゃんは牛丼を私に渡してきた。
「誰かと間違ってるんじゃ……」
「間違ってないよ。いつもの時間、いつもの定位置に座ってる子だよね。アンタの顔は覚えているから」
そこまで言われると間違ってはないんだろうけど、私に迷惑をかけた相手なんて……いたとすれば、紅……じゃなくて、百瀬さんぐらい? けど、そんな事をする奴ではないと思うんだけど……
「一体誰からなんですか?」
私が聞くよりも先に、四壱が食堂のオバちゃんに尋ねた。
「それは口止めされていてね。悪い子なんかじゃ全然ないから。ちゃんと貰っておくれよ」
食堂のオバちゃんが知ってる人物なんだから、食堂の常連だよね? 教員がそんな事するわけないし、必然的に学生になると思うんだけど……
「牛丼……」
私は牛丼を引き取り、定位置の席に座って、少し考えてみる。
牛丼で最近思い出すのは……マンの姿なんだけど、流石にマンが大学内にいるなんて事は……
「あっ……」
いつもより早く、千城院さんが食堂に姿を現した。その時間差があった事で、意外にも取り巻きが誰もいない。すぐに千城院さんは取り囲まれてしまうんだけど、その一瞬、千城院さんが私の方に顔を向けたような……
「まさか……だよね?」
牛丼を私にくれた相手が千城院さん……なんて、勘違いしてもいいのかな? そう思えるだけで、この牛丼がいつもの百倍美味くなるから。
「次からも【ユニユニ】を頑張る気持ちになるわ」




