死骸にもモザイクは必要です
☆
「さてと……別行動になったし、のんびりとゴミ拾いをしようかな」
【蛍の森】に入ってから、勝負という事もあって、私、マン、紅は別ルートで先へ進む事になったわけなんだけど……
「マンは良いとして、紅の方は大丈夫かな? 地味に心配になるわ」
紅が方向音痴に対して、本人に聞く事は出来なかったんだよね? 【MAP】があるから、流石に戻って来れないわけはないと思うんだけど……
「最悪、【転移の翼】を使えばいいだけか。あっちの方は定時の連絡以外、無闇に使って欲しくはないんだけど……」
紅が遭難、迷子になった時の対策として、渋々【フレンド】になったわけよ。そうすれば、【メール】での連絡が可能になるし。名目は【ゴミ拾い】終了時の連絡だから、紅も文句は言わなかったからね。
「森の中だし、夜という事もあって、結構暗いんだよね。同じ道を通った感覚にもなりそうだし」
【蛍の森】は木々が生い茂っていて、月明かりが通るのも少ない。そうなると場所を間違えやすいし、足元も危険。魔物に気付くのが遅れる事もあるかも。
「こういう時に松明とか懐中電灯みたいなアイテムが必要かも。【ハイソン】に道具屋があれば、見るのもありだったかな」
そもそも、周囲が見えにくくなる夜に【ゴミ拾い】をするのがおかしな話になるんだけどさ。
一時間経過……
「本当にろくな物がないんだけど!! 村人達が必要としてる蔦は手に入れたの良いとして、一番マシなのが錆びたナイフだし」
【ゴミ拾い】は順調ではあるんだけど、拾ったのは【ポーションの空き瓶】【腐ったパック牛乳】【ドッキリマンシール】【錆びたナイフ】【パンくず】。
【蛍の森】で手に入る素材、虫や骨なんか一切見てない。というか、魔物と一度も遭遇してないから。村人達が言ってた冒険者が素材とかを取り尽くしたとか?
「おっ!! あれは……クワガタ!? 高値で売れたり、受付嬢の評価も良かったりするでしょ」
半ば諦めてたけど、少し離れた場所にある大木にクワガタの姿が……丁度、月明かりが僅かながらに照らしている箇所だったから、私の目に映ってくれた。
「虫網とかないけど、素手で掴めたりするのかな。草叢を通り抜けないと駄目だけど、その音ぐらいは気にしないでよね」
大木に向かうまでに生い茂った草叢を掻き分けていかないと駄目で、その音のせいでクワガタが飛んで行ったら最悪。ここはゆっくりと進んで……
「ぎゃあああ!! 」
私の叫び声で、クワガタは何処へ飛んで行ってしまった。けど、それも仕方がないから。
「これは酷いでしょ。マンにモザイクが掛かった時みたいに、これもそうして欲しかったんだけど……紅だったら、卒倒したか、この場から逃げ去りそうだし」
草叢のせいで見えてなかった。大木の根元には角の生えた兎の死骸があった。それも半分喰われた後にのようなグロい状態。それに加えて、無数のコバエが周囲に飛んでるからね。こんなの見たら、誰でも叫んでしまうでしょ。
「……一応、この姿は魔物だよね? 私達以外の冒険者が倒した……わけでもないはず。【蛍の森】に住む生物……でもない気がするんだけど……」
というのも、角の生えた兎は人の子供ぐらいの大きさがある。馬車の馬は普通だったし、それを考えると魔物だと思えてくる。ただ……
「魔物が倒された場合、消滅するはずだよね、その後に素材を落とす形なわけで……この死骸が素材扱いになるわけ?」
【蛍の森】で手に入る素材に骨があるわけで……これも該当するのなら……厭々(いやいや)ながら、手で触れてみる。




