斉藤さん、職務怠慢ですよ!!
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「はぁ……あれは一体何だったのよ。マンがした行動は笑うところでしょ? カズハもそう思わない?」
私達は【転移の翼】を使って、無事に【ハイソン】の村に到着。紅はギルドから離れたところで愚痴を溢した。
「紅の気持ちも分からなくはないけど、私の場合、マンだったら、天井を突き抜けていかないんだ……と思ったんだよね」
「そっち!? それが出来たら、マンがヤバすぎだからね!!」
マンが【転移の翼】を使用に失敗して、墜落。その時のギルドにいた冒険者達の反応は、紅みたいに笑うでもなく、哀れみや失笑されるわけでもなく、
「分かり見」
「一度は通る道だ」
「ゲーム通なら体験しないわけがない」
マンの行動に納得してるよう、ウンウンと頷くばかりだったからね。受付嬢も「注意しても、五人に一人はやるんですよ」と言ってたからね。
「それは冗談として、VRゲームじゃないんだけど、そういうネタがあったから」
子供の時、兄さんがやってたゲームでその場面を見た事があった気がする。マンの場合……ネタは関係なかったみたいだけどね。念のため、マンに【ヒール】を使ったんだけど、恥ずかしそうに顔を赤くしてたから。
「そんな理由があったわけね。早速だけど、勝負するために【蛍の森】へ行くために……マンの姿がないけど、別の場所に飛ばされた……って事はないわよね?」
マンは【転移の翼】を使用するのに失敗して、新しいのを受付嬢から貰ってたはず。
「【転移の翼】を使った時、空高く飛んで、歓喜の叫びをしてた姿を見たけど……着地した場所が少しズレただけじゃないの?」
【転移の翼】は空高くに魔法陣が出現して、それを通り抜けると、指定された場所の上空に移動した事になる。馬車の護衛の時は【ハイソン】まで半日かかったけど、【転移の翼】だとほんの数分で移動出来たのは本当に凄いと思う。
「それにしても……前回来た時よりも家がまともになってるような気がするんだけど」
【ハイソン】に前回来た時は大体がボロ小屋に近い建物ばかりだったはずなんだけど、全部とはいえないけど、それが修繕されているのが分かる。
「私はここに来た事がないから、何とも言えないんだけど……あっ!! マンがいた!!」
紅がマンを【ハイソン】の中で発見したけど、何故かNPCに囲まれてるんだけど……何かしでかしたわけ?
「ちょっと……村の人達に何かしたの? 着地に失敗して、何かを壊したのなら、一緒に謝るけど」
着地場所が違って、建物に突っ込んだ可能性もあるわけだし……って、そんな音はしてなかったわ。その前に【ハイソン】の村の人達に声を掛けられたって、マンが言ってた。装備を渡されそうになったとか……
「違う違う。彼は私達の家の修繕に協力してくれたんだよ」
「木を運んでくれたり、壁が動かないように抑えてくれてたりしてさ」
「感謝の言葉も足りないぐらいだから」
恐れられるどころか、マンは【ハイソン】の村の住人に慕われてるんだけど!!
「いつの間にそんな事をしてたの?」
「【ハイソン】に着いて、カズハが【ログアウト】した後だな。村人が困ってる姿が見えたから、何となくだ。そのお陰で【建築LV1】のスキルが手に入ったわけだが」
「凄く偉いじゃないの!! なかなか出来る事じゃないでしょ。でも……行動次第で成長すると案内役に説明された気がするわね。欲しい【スキル】なのかは別として、戦闘以外でも問題ないわけだ」
「習得方法は様々なんて事が説明されてた気がするけど……」
あの時、斉藤さんの説明が長いと怒ってしまったんだよね。それが無ければ、もう少し詳しく【スキル】の説明があったのかも……
「今回知れただけ、良しとするか。私としては戦闘系の【スキル】以外は別に必要ないと思うけど」
私の場合、千城院さんも同じパーティーになった時に必要となりそうなのは手に入れたいところ。勿論、戦闘系の【スキル】は、ないよりもあった方が良いに決まってるわけで……
「成長か……ホブゴブリンや紅と戦闘したけど、【アーツ】や【スキル】は増えてないんだよね」
PKと戦闘した時には【回避+】と【カウンター】のスキルを手に入れたんだけど、それ以降の戦闘で新たな【スキル】や【アーツ】はなく、LVも上がってないんだけど……
「何言ってるのよ!! パラメータは数値化されてないんだから、そっちの何かしらが強化されてるかもしれないでしょ。私はカズハと戦闘した後、速さが上がった気がするし」
「そういえば、成長率があるんだから、そっちの方をすっかり忘れてた……じゃなくて!! そんな話なんて聞いてないんだけど」
パラメータがあるのは当然なわけで、それを見る方法がなく、数値化されない。自身の体感で感じ取るしかないらしいんだけど……これは斉藤さんの職務怠慢じゃないでしょ!!




