お兄様はやってません
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「おっ……千影の友達のカズハさんじゃないか。通学の途中かな?」
「……えっ!? 千城院さんのお兄さ……ん?」
大学までの道を歩いてると、私の名前を呼ぶ声が。周りを見てみると、私の知り合いの姿はないと思いきや、横にくる車が止まり、車窓が開くと千城院さんのお兄様の顔が……思わず、お兄様と普通に言いそうになったし。
大学の方面から来た感じだから、千城院さんを大学へ送った帰り道なのかも。
「私の名前を何で……お兄さんも【ユニユニ】をやってるんですか?」
千城院さんは当然として、お姉様の方も【ユニユニ】をしてる気がする。名字じゃなくて、名前を知ってる辺りがね。【ユニユニ】内の名前で呼んでる可能性もあるわけだし。
当初、お兄様がマンなのでは? と疑った事もあったけど、私とマンは同じ年齢らしいから、お兄様の可能性は無くなったんだよね。
「【ユニユニ】を? 妹達は楽しんでくれてるが、私はやる事は出来ないかな。三人の話を聞いてるだけで満足してるよ。君の名前をちゃんと知ったのは、そこからかな。そういえば、千明が君と会った事を教えてくれたよ。千影には内緒らしいけどね」
バイト先で千城院さんとお姉様が来たし、私がそこで働いてるのは、お姉様の方にはバレてしまったから。バイト先の事をお姉様は千城院さんに内緒にしてくれてるらしい。
それを教えて、もう一度来店してくれたら……という気持ちもないわけではないけど……
それに千城院さんのお姉様の名前は千明みたい。お姉様もやっぱり【ユニユニ】をやってるみたい。そこで私を知ったとなると、何処かで私と会ったか、【魚人軍襲来】で私と阿修羅の戦闘を観戦した?
それだけで私と判断出来るって事は、千城院さんも私や百瀬が紅って事に気付いてるかも。
私達から話し掛ければ……いや、あの取り巻きがいる中に飛び込んで、【ユニユニ】の話をするのは……やっぱり、千城院さんのパーティーに加入して、まずは【ユニユニ】の中で話す事が良いはず。
そのためにも千城院さんに【月の石】を渡すために【エルフの国】へ行かないと……
「どうしました? 何か考え事でも?」
「いや……何でもないです。千明さん? に会ったのはそうですね。【ユニユニ】で会ったのか分からないのが、申し訳ないです」
千城院さんと仲良くするための事を考えてたとは流石に言えないから。
「……そうかそうか。この先にでも、会う機会は何度もあるんじゃないかな? その姿を見て、ビックリするかもしれないけどね」
「……ビックリですか?」
何かフラグが立った感じなのかな? お姉様の場合、【ユニユニ】での姿は違ってるわけね。マンやタコナスみたいなのを見てるから、余程の事じゃないと驚く事はないと思うけど……
「そこは楽しみにしておいてよ。それと……これを渡しておくよ。本当は千影に渡すように言おうかなと悩んだけど、丁度良かった」
「えっと……これは?」
行列が出来る程有名な店のクッキーの箱!? それを渡されるような事を何かしたつもりは全然ないんだけど……
「ちょっとしたお礼だよ。妹達に対するものではないんだけどね。私からしたら嬉しい事があったから。友達と一緒にどうぞ」
千城院さん達とは別で? しかも、お兄様が喜ぶような事をした記憶は全然ないから、余計に何か気になるんだけど……
「それでは……また会う時があれば」
「……今から仕事なんですか?」
「久し振りにデートをする事になったんだ」
最後にお兄様は彼女とのノロケを言って、車を走らせて行った。お兄様みたいな格好良い人に恋人がいないわけないか。




