案内役の斉藤さん
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「へぇ〜……VRゲームの始まりは大体同じなんだ」
兄さんから聞いた事があったんけど、最初は辺り一面真っ白な世界に飛ばされるみたい。そこで【キャラメイク】?というのをするみたいで、それが終わってから【ユニユニ】世界の中に行くみたい。
「けど、腰が抜けたというか……アレだね。これも兄さんの言った通りかも。時間が経てば、元に戻りそうかな」
意識をシャットダウンしてたから、VR世界に飛び込む事による反動? 拒否反応かな? 慣れない人に起きるとか言ってたけど、私の場合は足が痺れた状態。事故の時を思い出してしまったのかも。とはいえ、徐々に弱くなってるから大丈夫だと思う。これも意識の問題だろうし。
「【キャラメイク】だよね? 一応、移動しないと駄目な感じなのかな? 妖精? とか女神? みたいなのがやってくれるんじゃないの?」
周囲を見回しても、白、白、白、オッサン……オッサン!?
「あの……大丈夫でしょ」
「な、何するんだよ!!」
私とオッサンの言葉が重なった。オッサンは私が動けない事に手を貸そうとしたみたいだけど、逆に私はオッサンに向けて、無意識で拳を出してしまった。
だって……仕方ないじゃない。ファンタジーなキャラが登場すると思ったら、オッサンが突然現れたんだから。バーコード頭、眼鏡の五十代ぐらいのオッサン。窓際部署にいそうな感じ? 無害そうではあるんだけど……
「ひっ!! す、スミマセン。怖がらせてしまったようで」
オッサンは腰が引けたみたいで、拳が当たらなくて済んだみたい。兄さんから〔無闇に攻撃するな』と注意されたばかりなのに……反省しないと。
「私の方こそ……ゴメンナサイ。イメージと違ってて、いきなりオッ……オジサンが登場するとは思わなくて」
「大丈夫ですよ。私、【ユニーク・ユニオン・オンライン】案内役の斉藤と申します」
斉藤さんはゆっくりと立ち上がり、社会人みたいに深々と頭を下げてきた。私も斉藤さんに驚いた事もあって、足の痺れも無くなり、起きる事が出来た。
「この姿は皆様を驚かせる。意外性、ユニークなところを見せるためだけですので。【ユニーク・ユニオン・オンライン】はちゃんとしたファンタジーの世界が広がっていますので、ご安心ください」
「サプライズ的なやつだったんだ」
確かに驚いたし、ユニークではあったと思うけど、勝負するところはそこじゃない気がするんだけど……
「私以外に田中、山田、伊藤、トムやマイケル等、様々な面々がいますが、交代した方が良いでしょうか?」
案内役は覚えやすい聞き慣れた名前が多いのかな? 私に迷惑を掛けたと思っての交代なら別に構わないんだけど……本当に人間みたいじゃない?
「そこは大丈夫。時間も勿体ないし、斉藤さんのままで」
「……承りました。では、【キャラメイク】を始めましょう」
ちょっとの間があったのは気のせいかな? いつの間にか斉藤の前にデスクが登場したからなのかも。斉藤がそこに座ってから、【キャラメイク】が始まるみたいね。
「まずは【ユニーク・ユニオン・オンライン】における名前を決めて貰います。目の前にキーボードが出現するはずです。タッチパネルは【MENU】画面にも必要となりますので」
斉藤の言った通り、私の目の前に半透明のキーボードが出現した。名前なんて口にした方が早い気がするけど、こんな場面が続くなら、慣れていくしかないかな。
名前……下手に変えて、千城院さんに分かってもらえないのは悲しい気がする。ここは素直に宮森……いや、そこは名前で呼んでもらいたいでしょ!!
「一葉……【カズハ】だね」
「カズハ様のですね。次は性別なのですが」
性別? 動きやすいように髪は短いし、身軽にするため!! 胸も全然……そんなにないから、男の子に間違えられる事はあるけどさ。
「選ぶ事が可能です。続いて、種族を選んだ後、姿を決めていく事になります」
「なるほどね。VRゲームだと性別も変更出来るんだ。どっちか分からないから、聞いてきたんだと思ったよ」
「…………では、お選びください」
……返答がないのは、男女どちらか分からなかったんだね。そこは怒っても仕方ないか。
・【男性】
・【女性】
・【ゴリラ】
「ゴリラ!? ゴリラにも性別はあるんだけど!!」
ツッコむところが違う。この選択肢もユニークさを出すためなわけ? それとも……
「もしかして……殴ろうとしたの怒ってたりします?」
私が暴力を振ろうとしたから、ゴリラみたいだと思われたって事?
「滅相もないです。これはおちゃめ機能でして」
五十代のオッサンがおちゃめ機能って……笑顔を向けてるから、怒ってると思うのは私の勘違いかな? 斉藤さんは人間じゃなくて、AIなわけだしね。
「それなら良いんだけど……性別は【女性】のままで」
これもタッチパネル式で、【女性】の選択肢に手を当てた。流石に千城院さんと会うのに【ゴリラ】はないでしょ。