偽りの筋肉である
「……お待たせしました」
三太は着替え終えて、茂みから出てきた。その姿はいつもと違ってて……
「その姿……筋肉にそっくりでしょ? 何か怪しい薬でも飲んだわけ?」
「変身……といえば、変身かな?」
「あれは違う。偽りの筋肉だな」
三太はマンには劣るけど、筋肉モリモリの姿に変身してた。といっても、本当の筋肉じゃなくて、空気で膨らんでる感じ。肌色に見えたのは、その筋肉部分じゃないかな。水着というより、筋肉スーツ?
「師匠の言う通りです。これは空気で膨らんでるだけで……しかも、誰も笑わない辺りがちょっと……」
三太の姿に笑いが起きて、紅あたりがツッコミを入れてくれたら、少しは救いがあったかもしれないけど、それが全然なく、三太がスベった形になってるから。ある意味、【魚人スーツ】の方が良かったまである。
「本来、スーツが膨らみ、浮くようになってるそうだ。泳げない人用の水着だな。まぁ……すまない。どうにかマシな写真になるようにする」
武藤さんも三太の水着姿に謝るぐらいだし。
「流石にその姿の三太と一緒に撮るのはゴメンなんだけど……」
「ですよね。僕もそこは姐さんに迷惑をかけたくないです」
紅は撮影が始まる前に拒否。流石に三太もそこは重々承知してるみたい。
「大丈夫だ!! モデルのために格好良いポーズを考えてきたのだろ? それを見せる時だ」
「えっと……それは」
マンは励ますように応援するけど、変なプレッシャーにもなって、追い打ちをかけてるから。
「……この撮影が終わったら、三太に協力して欲しい事がある。それは三太にしか出来ない事。時間も重要になってる。これはマンだげじゃなく、ランキング一位の千が必要としてる」
四壱は三太にやる気を出させるため、千城院さんの名前だけじゃなく、三太にしか出来ない事を強調した。
「師匠と……ランキング一位の千!? 師匠は千と知り合いなんですか?」
「【フレンド】にはなってるぞ。頼まれ事もしてるのも確かだな」
「そんな人と知り合いだなんて……流石師匠だ。師匠に迷惑をかけないためにも……この水着を恥ずかしがってる場合じゃない」
「いいね。そのやる気。モチベが低いと良い写真は取れないから。すぐにでも撮影に入るか。他メンバーみたいに一緒に映る相手は欲しいところなんだが」
武藤さんは私達の話を聞いてたから、すぐにでも三太の撮影に入ろうとしたけど、妥協はしてくれないらしい。
「……ここは千様のために紅が涙を飲むしかないんじゃないの?」
「うっ!! けど、千様がその写真を見る可能性もあるんだから。それは流石に……カズハは主役だから良いかもしれないけどさ」
千城院さんの名前を出してみたけど、紅は渋い顔。その写真を千城院さんに見られる事を考えると、嫌なのは分かる。それもどんな写真かによるから……
「ん? それは何のアピール? 武藤さんが僕の事を奪ったりはしないよ」
タクシーは三太の側に寄り、武藤さんと三太の顔を交互に見て、私、私!!とばかりに自身の胸を叩いてる。
「もしかしてだけど……自分が三太のパートナーであると言いたいんじゃないの?」
正直、私的には紅よりも三太のパートナー感があるのはタクシーになってきてるんだよね。セット扱いになってるというか……
「なるほど!! それは良いかもしれない。魔物と一緒に撮影も貴重だぞ。この魔物に水着は付ける事は可能だろうか?」
魔物のファッションを楽しめるなら、【魔物使い】は人気職業になるし、【ユニユニ】の宣伝になるかも。
ただ……モデルが三太がメインじゃなくて、タクシーになる気も……




