我々は美しい
薔薇!? 体も見えなくなって、二本の足が花枝になってるんだろうけど、その姿は毒花……というか、只の魔物しか見えない。足が薔薇の色じゃなく、汚い斑模様だから。
「……汚い花じゃない?」
シーン……となったところで、紅は小さな声で四壱に言ったんだけど、その声がタコナスの耳にも届いたみたい。
「我に対して汚いだと!? 美しい者同士なら分かる……誰だ? ……人間か!? 可憐な彼女は……変装の道具だったわけか」
私達は結局【魚人スーツ】を脱いだ。タコナスが驚くのも無理はないかも。
「やはり、種族関係なく、美しさが分かるのは数少ないようだ。武藤なら、あの姿がどれほどなのか分かっているからな」
「……芸術ではあるかな」
一応、武藤さんもあのポーズのタコナスを写真で収めてた。本当に仲良くなったみたい。
「であろう? お前達が人間であるなら、ヒトデナシ達の相手をしてる中に人魚がいるわけか。それも次は人間に変身して。あの中では……優れた体を持った彼か。筋肉には光る物があったからな」
タコナスは声は聞こえなくても、結界から外を見る事が出来たらしく、私達以外の中にいる人魚が誰なのか判断した。筋肉となったら、マンだと思うんだけど……
「全然違うから!! よりによって、筋肉なんて……目が節穴じゃないの?」
紅はマンが選ばれた事に不満らしい。四壱やカナリア、海の方が人魚っぽいし、ましてや、マンは男だからね。タコナスも歌声を聴いたはずなんだけど……
「なんだと!! 美しさが分からぬ醜き者よ。お前には何を言っても分かるまい」
いや……あの【魚人スーツ】を可愛いと思った紅が一番タコナスと好みが近いと思うんだけど……
「仕方がない。お前達を倒して、我が出向くしかないか。あの姿も我が奪わねばならぬ」
あの姿……というのは、私の【魚人スーツ】? 欲しいなら、全然あげても構わないけど? ……なんて、言えるわけもないか。
「三対一……それもヒトデナシやイカンを倒した者だな。であれば、この状態ではキツイか。ふん!!」
タコナスは両腕を組み、目を閉じた。力を溜めてると思ったけど、タコナスの体がブレて見え始めて……
「ちょっと……マジ!? 幻……ではないよね。それは……キモすぎでしょ」
紅はタコナスの姿を見て、嫌悪……というか、驚きを隠せてない。それは私や四壱もそう……
「我は美しい」
タコナスは二人に分裂した。人間の足が二本生え、腰にタコの足が二つ。それは鞭のようにしなりを見せた。
「我は美しい」
タコナスは二人ではなく、三人に。人間の足が二本生え、腰の部分にタコの足が二つ。それは膨張して、筋肉の盾に。
「我は美しい」
左右に分裂して、真ん中に立つのもタコナス。腰のタコ足は槍のように鋭く、突きを見せる。
「我々は美しい」
タコナス三人はそれぞれ別のポーズをするんだけど、腰の下にモザイクが掛かってるのは、人間の形をしてるからだと思うんだけど、マン以外でこんな姿になるのは……本当に止めて欲しいんだけど……




