潔く……はない
「ふぅ……こっちは全然面白くないから。【ダブル】の説明はしたけど、初見で全て避け切るとかありえないでしょ。C級のPKを倒した事もあったのに」
紅の【ダブル】の効果が切れようで、残像が消えてしまった。【ダブル】以上の攻撃手段がないからなのか、紅は溜め息を吐くと同時に、戦意が消えた気がするんだけど?
「全部避けたわけじゃないんだけど……残像の方の衝撃は、紅自身の攻撃より弱い事が最初の蹴りの風圧で分かったから。紅の攻撃は回避を優先して、残像の方は防御を徹したからね」
紅は残像の攻撃も同じ威力だと言ってたけど、実際は違った。本人が受けた事がないわけだし、本当は分かってなかったのかも。他にも流れるような行動でも、そこに入るまでの予備動作があり、何処から攻撃が来るのか予想がついた面もある。
「仕方ないわね。【模擬戦】は私の負け……完敗だわ。攻撃だけじゃなく、防御も凄いとは思わなかったし。あの感じだと、【ダブル】の時でも反撃出来たりしたわけ?」
紅が素直に負けを認めるなんて……もう少し攻撃を見てみたかったんだけど……ここは私も質問にちゃんと答えておかないと。
「出来たと思う。一番やりやすかったのは最初の蹴り上げかな?」
例えば、無防備だった背中には双剣が守ってたと言ってたけど、横腹はガラ空きだったわけ。【ダブル】があったとしても、横に避けての蹴りは可能だった。
更に言えば、蹴り上げを【受け流し】すれば、紅の態勢を崩した状態に。あの連撃も最初の蹴り上げで止める事が出来たと思う。
「【スキル】に【受け流し】っていう防御があって、それで態勢を崩せたんじゃないかな? 私自身、空手をやってたから、そういうのが得意だった事もあるんだけど……」
戦闘が終われば、紅への敵愾心の気持ちも薄まって、感想を言い合う形になってる。
「そういう事ね。私がダンスしてたのと似たような感じか……」
紅の方はダンスをやってたから、あの柔軟さとトリッキーな攻撃があったわけね。私は水と表現したけど、リズムもちゃんとあった気がする。それが予備動作に繋がってるのかもしれないけど……
「なんて、納得するわけないでしょ!! 空手をやってたとしても、あの動きはヤバすぎでしょ。しかも、始めたばかりのE級とかありえないから」
「出来るんだから仕方ないでしょ。ちゃんと努力したからで、受付嬢もチートはないと言ってたよね」
「くっ!! どれだけ空手バカだったのよ」
紅は潔く負けを認めて、意気投合する……流れかと思ったけど、チートを疑ってるんだけど!! これは長年空手をやっていて、漫画みたいな特訓をした結果でもあるんだから。
「まぁ……紅は負けを認めたんだから、千……のパーティーを諦めるという事で良いのよね? 私の方が強かったんだから」
そういう勝負だったんだから、紅が千城院さんのパーティーを諦めるのは当然でしょ。
「そんなわけないでしょ!! 今回は負けただけで、勝負は一回だけだとは誰も言ってないから。受付嬢も勝負の方法は色々あると言ってた事を忘れたの?」
「確かに言ってたけど……」
受付嬢が勝負を【模擬戦】と決めてくれただけで、他にも方法があるとも確かに言ってた。
「カズハが負けたとして、私と同じ事を言ってたと思うけどね」
そこは否定出来ないけど、いつの間にか、カズハと名前で呼ぶようになってるんだけど……
「それは否定しないけど……そんな事言ったら、終わりがないでしょ!!」
「なら、カズハが千様のパーティーを諦めたら、そこで終了になるけど?」
私と紅の言い争いは【模擬戦】の時間が終わるまで続くのだった……