斉藤さんはいませんでした
受付嬢は私と紅、ブラックを連れて、ギルドの地下へ。受付嬢がスイッチを押すと隠し通路が出現して、その先にある階段から行けるようになってる。
「へぇ〜……こんな風になってたのね。外で始めるわけじゃないんだ」
「外の建物が壊れたり、他の冒険者に被害を出すわけにもいきませんからね。ギルドでは【模擬戦】用の場所を用意してるんですよ」
【模擬戦】場所に着くまでの間、紅の質問に受付嬢が答えていく。
「ブラックが観戦を希望したのも、基本は【模擬戦】の戦闘は見せないものなんだ?」
観戦する事でも動きの勉強になるんだけど、自身が被害を受ける可能性もありそう。今回、ブラックが観戦出来るのも、強さが全然違うから?
「ブラック様が特別というわけではなく、観戦するのは可能ですよ。そのためには観戦料が必要なだけで、今回は支払いがブラック様でしたからね。これもギルド運営の資金になるわけです」
「本来は近くで見るのではなく、違うモニターからの観戦になるな。ランカーの【模擬戦】となると、観戦チケットが完売する時がある。その日ではない事も多いな」
ランカーになると、私や紅みたいにその日、その場で【模擬戦】はしないらしい。注目のカードを観戦するための予約は現実と同じみたいね。
「ブラック様程になると、観戦料は最低で50000Gはしますね。ちなみに、カズハ様と紅様の【模擬戦】は観戦料は200Gです」
【模擬戦】の料金の百分の一!? 牛丼やハンバーガーよりも安いんだけど……
「最初はそんな物でも、すぐに観戦料は上がっていく事になるけどね」
紅は自信満々にそんな事言うけど、【模擬戦】のお金も払えてないし、相手も必要でしょ。こっちは何度も勝負するつもりはないから。
「着きましたよ。この扉を抜けた先です」
白と黒の大きな扉があり厳重そうに鍵が掛かってる。それを受付嬢が触れる事で開く事が出来るみたい。その先にあったのは……
「キャラメイクした場所と同じ、真っ白な空間ね……って、何をキョロキョロしてるわけ? そんなに珍しくもないでしょ」
「もしかしたら、案内役がいるかなって……」
この場所に案内役の斉藤さんがいたら、一発は確実に殴ってやるつもりだったけど、私達以外誰もいなかったのは少し残念かも。
「ここが真っ白な空間なのは、【模擬戦】の場所を設定出来るからです。今回は私が選ばせて貰いますね」
受付嬢がそう言って、指を鳴らすと真っ白な空間は別の場所へと塗り替えられていく。
「コロシアム!! シンプルに闘技場にしました」
いつの間にか受付嬢とブラックは観客席の場所に移動している。近くには謎の5という数字と、十五分の時間がセットしてある。
「この5の数字はカズハ様と紅様の【模擬戦】をブラック様とは別で観戦してる人数です。時間は【模擬戦】終了時間。この時間を過ぎたら、タイムアップとなります。勿論、勝敗が決まれば、そこで終わりですからね。私のスタートと言葉で始まりますから、準備をお願いします」
「分かりました」
「OK!!」
私と紅は闘技場の中央に立ってる。互いにそこから少し距離を取り、戦闘の準備へ。
紅は職業が【双剣士】ともあって、両手に短剣を逆手持ち、リズムを刻む感じで体を揺らしてる。
「ちょっと……アンタも武器を持ちなさいよ」
「武器は売ったから、持ってない。スライム相手だと厳しいけど、素手で十分だから」
「へぇ〜……私はスライム以下だって事よね。そっちが舐めた態度を取るなら、こっちはアンタの最初の一撃を受けてやろうじゃない。それで武器が重要だって事を教えてあげるわ」
私は空手にある半身の構えで戦闘準備をしたわけなんだけど、私が武器を持たない事で舐めた態度と、紅は勘違いしたみたい。それに加えて、スライム以下の強さだとも……
「それでは……始め!!」
紅が勝手に勘違いして言い出した事なんだし、それを利用されてもらうから。
その結果……




