低レベルな争いです
「ちょっと!!」
私の怒った声に、彼女よりもブラックの方が先に気付き、頭を下げてきた。
「申し訳ない!! 紅がぶつかったのに謝りもせず」
「何? 少しぶつかっただけでしょ。それぐらいで謝る必要あるの?」
それとは逆に紅と呼ばれる女性の方が図々しい態度というか、ブラックが謝った事に文句を言ってるんだけど……
「こういう場所でも礼儀は必要だぞ。彼女の名前は紅。私と同じパーティー……ではなく、娘なんだよ。最近、始めたばかりでね。一緒にプレイするのが嬉しくて」
「余計な事は言わなくていいんだから!! それで千様の仲間になれなかったら最悪だし」
ブラックは最近【ユニユニ】を始めた娘のために、【アイン】に来たわけね。子煩悩というべきか……周囲が少しザワついてるけど、そこは無視しておこう。
紅の姿は紅色の短髪に褐色の肌。身長は私と同じぐらい? 本来の姿なのかは分からないけど、髪と肌は多分変えてるわね。服装は緑のマント、白のTシャツ、青のデニムパンツ。腰の両側の短剣だけが強そうに見えるのは、ブラックから貰ったんでしょうよ。
職業は……ズバリ、【盗賊】で間違いない!!
「二人の関係性はどうでもいいし、彼女が私にぶつかった事に怒ってるわけじゃないから。ただ……」
「ぶつかった事に怒ってないんだったら、一体何なの?」
いや……ぶつかった事に怒ってないわけじゃないけど、それ以上に許せない事があるのよ
「千……のパーティーに入るのは貴女じゃなく、私だから。素直にブラックのパーティーに入ればいいでしょ」
そう……紅は私が狙ってる千城院さんのパーティーの枠を奪おうとする泥棒猫ってわけ!! それは絶対に阻止しないと!!
「私が千様のパーティーに入るのよ。というか、アンタは千様の一体何? 友達……って、わけじゃないでしょ?」
「紅……そんな事を言うものではないよ」
うっ……痛いところを突いてくる。あの時のお礼を言うのもあるけど、友達になるのが目的でもあるから。
「千……を様呼びしてる時点で、お互い様でしょ。ファンなだけで、千……と関係がある?」
「「…………」」
自分で言ってて悲しくなるけど、そこは紅も図星みたいね。
「二人共、千の知り合いじゃないのか」
「紹介して貰えないか、頼むところだったぞ」
なんて、他の冒険者達の声が聴こえてきたけど、そこはこっちがお願いしたいところでもあるんだから!!
「なら、アンタはその服装からして【支援職】の【僧侶】でしょ。冒険者の何級なわけ?」
「……もうすぐD級に上がるところだけど」
「という事はE級じゃない!! 千様のパーティーに入るとか、よくそんな事が言えたわね。私は今回のクエストをクリアすれば、C級の資格を得るテストを受けれるんだから」
「それは貴女が私よりも【ユニユニ】を始めたのが早かっただけでしょ。それにブラックが手伝った可能性もあるんだから」
こっちはマンが一緒にいたわけだけど、それはそれ。
「私は武器を渡しただけで、パーティーを一時的に組むのは今日が初めて。【フレンド】が出来ないとソロで」
「ブラックは話に割り込んでこないで!!」
ブラックの言葉に、紅が怒ったのも分かる気がする。紅に怒られて、ブラックはシュンとしたなってるけど、【フレンド】が出来ないを話したのは流石に内緒にしといてあげないと……
「ブラックも大変なんだな」
「EからC級になるまでは大して変わらないけど」
「二人が決めるんじゃなくて、千が選ぶだろ?」
「子供の争いか?」
ブラックを見るために集まってたプレイヤーやNPC達は、正論を言いながら、続々とこの場から離れていく。
「「…………」」
多数の正論に私と紅は再度硬直したんだけど、ここまで来たら、引くわけにもいかない。それは紅も同じだったみたいで……
「こうなったら、どちらが千様のパーティーに相応しいか、勝負よ!! 勿論、逃げ出さないわよね」
「当然ね……けど、普段はPKは禁止されてるんでしょ? 勝負とか出来るわけ?」
紅と勝負するのは良いんだけど、これでPKの仲間入りするようだったら、千城院さんに顔向け出来ないというか……綺麗な体の方がいいでしょ?




