【漆黒の翼】の名は厨ニっぽい?
「……誰?」
冒険者ギルドの中にいるプレイヤーやNPC達を掻き分けて進んでみると、受付嬢の前に黒ずくめの装備をした貫禄がありそうな四十代のオッサン? がいた。姿は変更出来るから、本当にオッサンなのかは分からないけど……
それもオッサンが百八十センチぐらいだとして、それよりも大きい竜を従えているのが目立ってるのかも。
「知らないのか? 【漆黒の翼】のリーダー、ブラックだよ。ソロだけでなく、パーティーのランキングで両方共に二位に位置してる冒険者だぞ。しかも、職業【竜騎士】はブラックだけだな」
「【漆黒の翼】のリーダーね……」
私の呟きに、近くにいたプレイヤーが勝手に説明してくれたのは良いとして、【漆黒の翼】なんて厨ニっぽい名前じゃない? 昔の兄さんなら好んで付けそうだけどさ。
千城院さん……千以外のプレイヤーの事は全くといっていい程、興味が……知らないから、そんな風に言われてもどうしようもないんだけど。職業だって、【竜騎士】よりも、マンの【漢】の方がインパクトあるから。
「はぁ……無駄足だったか。さっさとクエストに戻ろうかな」
千を捜してみるけど、見事にいない。千は【漆黒の翼】とは別パーティーなんだから当然なんだけとさ。今の私みたいにソロで行動する事もあると思ったんだけど、時間の無駄だったみたい。
「……あれ? カズハ様じゃないですか。本日はマン様と一緒ではないみたいですが、クエストの報告に来たのですか?」
さっさと冒険者ギルドから出て行こうとしたのに、受付嬢が私の姿に気付いてしまったみたい。私というより、マンのパーティーとして覚えていたかもしれないけど……
「いや……そこはマンと一緒の時に報告するから。その人と話してたんでしょ? 邪魔するつもりはないから」
受付嬢はブラックと話してたはずなのに、渋いオッサン声で話し掛けてくるから……周囲だけじゃなく、ブラックも私の方に視線を向けてくる。ランキング二位なら、千城院さんのライバル的存在だよね。仲良くするつもりは……
「いえいえ……丁度、ブラック様とマン様の話をしていたところでしたから。マン様は冒険者の方達の中ではちょっとした有名人だったんですね」
それは良い意味での有名人ではないんだろうけど。
「君が筋肉……マンと一緒にパーティーを組んでいるプレイヤーかな?」
「……そうだけど、貴方はマンの知り合い? マンに仲が良い相手がいた感じはなかったと思うけど」
多分、ブラックはマンの名前を受付嬢から聞いた気がする。名前を知らなかったから、筋肉ダルマとか呼んでたんじゃないの? それとも、現実の方での知り合いなら、少しは興味があるかも……
「ネットの書き込みは事実だったわけだな。表舞台に来てくれるなんて……いや、すまない。奴とは仲が良かったわけじゃなく、私が何度も挑んで、負け続けていただけだ。【ユニユニ】が開始して間もない頃、魔物と勘違いして警告される事もあった。一度も勝てず、先に進む事を選んだわけだが」
マンは【ユニユニ】が開始した当初からいるみたい。あの強さなんだから納得出来るし、ブラックに勝ち続けたのも凄い事かもしれないんだけど……
「そこに興味はないから。先を急ぐんで」
長話に付き合うつもりはないし、最後には『今では私の方がマンよりも強くなった』と、どうでもいい事を言いそうでしょ?
その言葉に人混みが私を通すため、二つに割れたんだけど……
「もう少し話を……」
ブラックが私を引き止めようした時、冒険者ギルドの扉が強く開いて、冒険者の女がドシドシとこっちにやって来て、私にぶつかりながらも謝る事なく、ブラックの前に。
「いつまで待たせるのよ。長話もそれまでにして、さっさとクエストを始めるんだから。いち早く昇級して、千様みたいになって、パーティーにいれてもらうんだから」
彼女はランキング二位のブラック相手に怒ってるみたいだけど、そんな事よりも……聞き捨てならない事を言ったよね?




