私の汚部屋
☆
「初期設定終わったぞ。部屋の中に入るぞ」
兄さんが部屋のドアをノックしてきた。あれから十五分しか経ってないから、すぐに取り掛かってくれたのかも。
「OKだよ。こっちも準備万全だから」
「準備万全って……相変わらず、片付いてない部屋なんだが……VRゲームが出来る環境にはしたのか……」
兄さんが部屋の中に入ると微妙な顔をしてる。私は兄さんと違って、片付けが苦手の方だから、汚部屋が気になるんだろうね。VRゲームが出来る状態にしたんだから全然問題ないと思うんだけど?
「VRゲーム初心者だけど、ある程度の知識は兄さんから貰ってるからね。事前にトイレにも行ったし、水分補給もした。終わった時、すぐに水分補給と糖分が取れるように、ベッドの側に置いてもいるし」
フルダイブ型のVRゲームによる注意事項。
・VRゲームの中でトイレに行くのは難しく、下手すれば漏らす可能性があるので、ゲーム前に行く事。
・ゲーム内で水分を飲む行動はあるが、現実で行われるわけではないので、水分は先に取っておく事。終わった時にも、側に置いておいた方が安全。
・糖分も近くに置いておく。脳の負荷もあり、終わった時に糖分を欲する事が多い。
・ベッドに余計な物は置かない。基本、VRゲームは横になるから、無意識に動いてしまう時に危険だから。
・一人暮らしのプレイヤーは防犯に注意。窓やドアの鍵を確認。体に何秒以上触れられた時、強制ログアウトに設定も可能。
・VRヘッドギアの充電はこまめに。途中で切れると強制ログアウト。コンセント付けながらも可能だけど、寝相の悪さにより、口の中に入ったり、首に巻き付く危険性もあり。
等々(などなど)、兄さんが昔に言ってた言葉ね。私が千城院さんの事を話したみたいに、兄さんはゲームの事ばかりだったから、普通に記憶されちゃったんだよね。
「よく憶えてたな。ほら、ヘッドギアだ。装着すると自動的に動き始めるはずだ。最初に網膜、指紋、声紋の確認。それから【ユニユニ】のソフトを入れる感じだな。スマホに連動する事も可能だがら、繋げておいた方がいいぞ」
兄さんからVRヘッドギアを受け取り、早速装着してみる。すると、識別開始という機械音声と共に目の当たりが光り、ヘッドギアの耳部分に手が触れる事による指紋照合。声を出す事での声紋照合の指示が耳元に流れてきた。
「完了したみたい。後はソフトをヘッドギアの内部に嵌め込めばいいんだよね?」
ソフトを中に入れるのはヘッドギアの外側じゃなく、内側。外部からの衝撃があった場合を考慮してらしい。一度外して、【ユニユニ】をセット。
「それでもう一度装着だな。【ログイン】と一声掛ければ、【ユニユニ】の世界に入れるはずだ」
「了解。では、早速……」
「少し待て。注意点が三つ程ある。重要な事だぞ」
私は早々に【ユニユニ】を始めようとヘッドギアを再度装着するのを、兄さんに止められてしまった。
「まずはVR世界にログインするため、こっちの意識をシャットダウンさせるわけだが、その感覚が慣れない、無理な奴もいる。そのせいで、中に入っても動けない場合もあるらしい。そのため、開始して五分の間で声を出さなかったら、強制ログアウトというセーフティが掛かってるから安心しろ。最新のベッドギアならスムーズらしいんだが」
ブラックアウト。私が一度経験してるから、兄さんも心配してくれてるみたいだ。そこは心構えが出来るので助かるかも。
「二つ目。【ユニユニ】はVRMMO。最新の自律型AIを搭載してる。プレイヤー以外、NPCも殆ど人間と変わらない。学習するなり、自分の意思で行動してる。無闇に攻撃とかしないように」
「そんな事しないから!! 人を暴れん坊みたいに言わないでよ」
空手を習い出した小学生ぐらいの頃? そんな事をした記憶はあるけど、ずっと昔の話だから。今もそんな事してたらヤバいでしょ。
「そうか? それなら三つ目だ。甘い言葉には騙せるな。現実と一緒だな。プレイヤー全員が良い奴じゃない。悪い奴等は必ずいるからな。MMOに関しては初心者狩りが」
「……心配してくれるのは嬉しいけど、話が長い!! 昨日のうちにカレーを作ってあるから、兄さんのご飯はそれね」
「お、おい!! 最後まで話を」
兄さんには悪いけど、注意点が三つと言っておきながら、まだまだ続きそうだし、全部聞いてられないよ。
「【ログイン】!!」
今度は兄さんの言葉を無視して、ヘッドギアを装着し、VRの世界にログインした。