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回る回るジャイアントスイング

 なんて、馬車がある方に振り返ってみると予想通り、ある意味では予想外の展開になってた。


「マンは【アーツ】が使えないはずなんだけど、見事な【ジャイアントスイング】すぎるでしょ。自力でやってるのかな?」


 馬車を襲ってたのは野盗五人。マンはその一人、野盗Bの両足を掴み、自身で回転しながら振り回してるんだけど。まるで台風のような勢いがある……というのは流石に言い過ぎかな?


「あっ!! 残りの一人が逃げ出した。あれを見たら、パニックになるのは当然かも」


 その回転のまま移動して、野盗C〜Eを次々と薙ぎ倒していくもんだから、残ってる野盗Fは恐怖でしかないだろうね。悲鳴を上げたのも野盗の方だったみたいだから。


 マンも回転しながらだと、逃げ出す相手に追い付くのは流石に無理……というか、マンもどれだけ回してるのよ。バターにでもなるつもりかな?


「逃がすつもりはない!! これでどうだ!!」


 マンは回し続けた野盗Bの両足を手放すと、ロケットのように飛んでいき、逃げ出した野盗Fに……


「じゃなくて、馬車の方に飛んでるから!!」


「えっ、えっ!? それはちょっと困ります!!」


 私が叫んだところで、馬車の乗り手が急いで馬に鞭を打つ。


 絶対、マンの手を離すタイミング間違ってるでしょ。あんな状態なら、目が回っててもおかしくないんだから。


 結局、野盗Fには逃げられ、野盗Bは飛んでる途中で消滅した。アイテム、素材を何一つ落としてない。逆に野盗だから何も持ってなかったのかも。その代わり……


「さっきので酒樽が一つ壊れました。急いで避けようとしたのが悪かったみたいです」


「貴方が悪いわけじゃないです!! 私が危ないと叫んでしまったからで」


 野盗Bは途中で消えたけど、馬車に衝突する可能性もあったんだから。被害は最小限に抑えられたわけで……


「ううっ……良い酒が。あのワインが良かっただけに、飲んでみたいと思っていたのに……」


 マンは膝を崩した状態になるほど凹んでるし……よっぽど、酒屋の酒が美味しかったかもしれない。私も千城院さんに渡せないのは悲しいけど……


「報酬が入った時に買えばいいんだから、そこまで凹まなくても」


「【アイン】の酒屋の良い酒は20万Gと結構な品ですからね。店長も奮発したなと思いましたが……残念です」


「20万G!? それは先に言ってよ!! そんなに高いんだったら、馬車から離れる事なんてしなかったのに」


 20万Gなんて良い酒どころの話じゃないでしょ。そんなお酒なら、千城院さんも喜ぶはずだったのに……


 私も乗り手の一言に精神的ダメージを受けて、マンと同じ状態なってしまった。


 十分後(ユニユニの時間)……


「よし!! 気持ちの切り替え終わり!! マンも先に進む……って、豪快に何を飲んでるの!?」


「壊れた酒樽に残った酒だが? 放置しても消えるらしい。飲まなければ勿体ないだろ?」


 確かにそう言われたら……それでマンの気持ちが晴れたら問題ないのか? 私自身、20万Gを失った事に放心状態だったしね。現実のバイトでそんなに稼ぐと思ったら、相当な物なんだから。


「あの……出発しても大丈夫ですか? 夜になると魔物も凶暴になるし、ゴブリンも出現しやすくなるんですよ」


 乗り手は私達が立ち直るのを待ってたみたいで、声を掛けてくれた。


「勿論、大丈夫なんだけど……」


 店長もそうだったけど、乗り手の人もゴブリンの名前を出すのは出現確定のフラグなんかじゃないの? きちんと野盗も登場したわけだしさ。


「ゴブリンは集団で襲ってくるんでしょ? さっきの野盗よりも多いなら、対策を考えた方がいいのかな?」


 といっても、【アーツ】は私の【ヒールLV1】しかないから……


「襲ってきたなら、殴る、蹴る、投げる。それで十分じゃないか?」


 私とマンにはそれしかないんだよね。


「投げるのは止めてよね。馬車の方に行きそうだし」

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