実力の差
私も阿修羅同様に構えを取り、徐々に距離を詰めていく。私達の構えは最後に試合した時と同じなのは、十星なら気付くはず。
そして、互いの攻撃の射程範囲に入った時、戦闘が開始された。私と阿修羅の背の高さは、阿修羅に軍配が上がり=攻撃範囲の広さにも繋がる。
阿修羅にとっては挨拶変わりの連撃。あの試合の時の入り方と同じ。初見だったら、その挨拶で倒れていたかもしれない。
【陽炎】。十星亜朱が得意とする足技。最初はローキック。初動が早い事もあって、それを防御するのは難しい。けど、それは牽制であり、本命じゃない。同じ動作、目の誘導で下の攻撃だと幻を見せた直後のハイキック。
それに合わせるように軽く前蹴りをして、距離を離す。【受け流し】をするにしても、それを利用されて反撃された事があるから警戒しておかないと。
更に言うなら、阿修羅は本気を出してる様子はないのにも関わらず、前回よりも蹴りのスピードが増してるのが分かる。簡単に【受け流し】をする事は出来ない。
阿修羅は前蹴りをバックステップで躱し、すぐに前へ出てくる。そして、顔面への貫手……これは空手の試合じゃないから反則でもなく、目潰しを狙ってきてる。
目潰しという行動に、普通は一瞬でも体が硬直してもおかしくないけど、その貫手の打つ速さがいつもの突きよりも遅い。
貫手自体が罠で、【受け流し】をするのを待っているのか、回避に合わせての攻撃を選択しようとしてるのか。勿論、貫手が本命なのもありえる。瞬時の判断が重要になってくる。
私が選んだのは受け……といっても、空手にはない頭突きで対抗。私の行動に阿修羅は貫手を掌底の形にして、突き飛ばす。
「……ふぅ……はぁ……はぁ……」
この一連の行動はほんの数十秒。それだけで息を切らす程に体力と気力の減りが半端ない。それに比べて、阿修羅の方は余裕があるのか、今度は私から攻撃を仕掛けるのを待つかのように構え直した。
勝てない……敗北が私の頭に過ぎった。【ナイトメア】や【クイーン】の圧倒的な力に恐怖したわけでもなく、純粋に実力に差がある事が分かった。
阿修羅はまだ【アーツ】を使用してないとかじゃなく、私が空手を離れた後も【ユニユニ】で修業をしていたとすれば、努力の差。千城院さんにうつつを抜かしてた私と比べるべきはないのかも。
けど、阿修羅が簡単に私を倒そうとしないのは、遊んでいる感じじゃないし、舐めてる感じもない。
なら、私は四壱や紅の力を借りず、少しでも阿修羅に対して一矢報いたい。
私は息を整えて、この後にあるイベントの事など考えず、阿修羅との戦闘にだけ集中……
「……ちっ。折角の楽しい時間に邪魔なんだよ」
阿修羅が口を開いた。その声は十星亜朱と同じだった。
そして、矢が私の横を通り過ぎる。これは放つ事が出来るのは四壱しかいない。圧倒的に不利……四壱も私と阿修羅の実力差を判断したとしても、ここで手助けをするほど、私の事を分かってないはずが……