VRゲームがやりたいんです!!
☆
「兄さん!! 頼みたい事があるんだけど!!」
「……我が妹よ。兄は徹夜明けで、今帰ってきたばかりなんだ。少し休んだ後に……」
ゲームや漫画、フィギュアに囲まれていて、それが綺麗に整理整頓されているのが兄さんの部屋だ。そんな中、兄さんは微動だにせず、うつ伏せ状態で、スーツのままベッドに倒れてた。
「すぐに済むから。私にVRのヘッドギアを譲ってくれない? 仕事で全然出来てないんでしょ」
兄さんがそんな状態なのはいつもの事。申し訳ないけど、少しでも時間を無駄にしたくないんだよね。
「……一葉がゲームだと。どういった風の吹き回しだ? 小学校以来じゃないか?」
私の名前は宮森一葉、M大の大学二年生。好きな事は空手……だったんだけど、とある事故で断念。ゲームはからっきしだから、兄さんが驚くのも無理はないかな。
「このゲームをやりたいの。【ユニーク・ユニオン・オンライン】って名前で」
「人気急上昇中の【ユニユニ】だと!! 仕事がなければ、俺もやってみたいと思った作品だぞ。今だと入手困難になっていてもおかしくないんだが、どういった経緯で……」
【ユニーク・ユニオン・オンライン】の名前を言っただけで、兄さんはベッドから飛び起きるなんて、そんなに凄いゲームなんだ?
兄さんの名前は宮森七夜。元ゲーマーで、今はブラック企業の社畜として働いている。休みの日はゲームじゃなく、睡眠を優先していて、ゲームは封印状態。それでも、いつでも復帰出来るようにゲーム情報は調べてるみたい。
「【ユニユニ】? の事は詳しく知らないんだけど、千城院さんがやってるはずだから」
「……ああ。一葉の話で何度も出てくる……高校時代から憧れてる女性だよな? 大学も同じだったのは奇跡だと言ってたか」
「そうそう!! もっと良い大学に行けるはずなのに、あれは運命だと思ったよ」
千城院千影。彼女は千城院グループという大企業のお嬢様。文武両道、才色兼備。高校でファンクラブが出来る程の美人。大学でも、一年ながらもミスM大に選出されたぐらいだから。性格も良く、男女問わず人気があるわけで……
そんな彼女に一度助けられた事があって、そこからファン……といっても、ファンクラブに入ってたわけじゃないし……
「となれば、俺が知らぬ間に千城院と仲良くなれたんだな。それは喜ばしい限り……何故、顔を背ける? まさか……」
「まだ全然話せてない。これをきっかけにして、ゲームの中からでも」
千城院さんとはまともに話した事が一度もない。取り巻きみたいに近付く事もやってないから。助けて貰った事があっても、高嶺の花である彼女にとっては私もモブに過ぎないわけ。会話するにしても、千城院さんが好きな話で取っ掛かりが欲しいからね。
「なら、どうやって千城院が【ユニユニ】をやってるのを知ったんだ? 盗み聞きでもしたのか?」
「失礼な。バイトの帰りに、コンビニで千城院さんを見掛けたの。雑誌コーナーでジッとしてたんだけど、何も買わずに出ていったから、何を見てたのか気になったの」
「千城院が一人だったなら、そこで話し掛ければ良かったんじゃないか?」
「話の腰を折らないの!! そこで千城院さんが見てたのが、兄さんが毎月購入してる雑誌で……それ!!」
「【Vラボ】か? 帰りに買ってきて、まだ読めてないんだが……【ユニユニ】の特集をしてるみたいだな」
兄さんは【Vラボ】をペラペラと捲っていく。
【Vラボ】は月刊誌で、兄さんが毎月購入してるVRゲーム専門雑誌。兄さんが言うように、今月号は【ユニユニ】の特集がメインになってるわけ。
「他にはプロレスとかバイクの雑誌が近くにあって、その中だとコレかなって……VRゲームをするイメージでもなかったんだけど、中身を見てみたのよ。そしたら!!」
「【ユニユニ】の中で、千城院に似てるプレイヤーがインタビューを受けてるな。βテスト版のイベントで一位になったパーティーの報酬か。ん? もしかして……これなのか!?」
「私が言おうと思ったのに!! そうだよ。髪や瞳の色は違うけど、彼女は千城院さんに間違いない。アバター名も【千】らしいし、実体をそこまで弄ってないって、コメントで書いてあるんだから」
私は千城院ファンクラブから買ったプロマイドを確認する。御守り代わりとして、財布の中に入ってる。兄さんもプロマイドを見た事があるから、千城院さんの顔を知ってるわけ。
「【Vラボ】も雑誌に載った記念に買おうと悩んだのかも」
「【千】というプレイヤーが別人という可能性も……いや、一葉がそれでいいのであれば。まずはVラボの【ユニユニ】特集を詳しく読んでからでも遅くはないと思うんだが」
「それはプレイした後でも読めるでしょ? 大学の講義中でもいいわけだし。VRゲームを体に覚えさせないと」
私は長い説明書を読むよりも、体で覚える方が得意だから。
「はぁ……分かった。一葉は部屋に戻ってろ。まずはヘッドギアを初期設定にしないと駄目だから。それが終わったら、VRゲームのやり方を教えてやるから」
「分かった。すぐにだよ。途中で寝るのはなしだから!!」
これでVRヘッドギアをGET。兄さんが準備してる間に、こっちも色々と用意しておかないと!!