顎門
「四壱は距離を取って。目視されたら当たらない。死角からの攻撃、もしくは罠を使う事も考えておかないと駄目かも」
阿修羅の反応をみると、四壱の弓でも簡単に当てる事は難しい。なら、私が阿修羅の死角を作り出すしかない。
「私と紅がその死角を作るから」
阿修羅はスピードに緩急をつけて、四壱の弓を警戒してる。最初に狙うとしたら、遠距離攻撃を持つ四壱。私と紅は四壱を守らないと。四壱の弓があるだけで、阿修羅がそちらにも警戒を続ける事が必須になるんだから。
「紅もいいよね。多分、阿修羅の動きは本気じゃないと思うけど」
阿修羅のスピードは緩急があっても、私や紅よりも遅い。けど、それは本気を出してないだけだと思う。
「分かってるわよ。そういう感じなのは【クイーン】戦で身に沁みてるから」
紅は【ダブル】を発動。【ダブル】と共に阿修羅へ攻撃を仕掛けるわけではなく、分身の方だけを向かわせる。
「予想外の攻撃を警戒する必要があるからね。これもイベント扱いになってたら、復活させれるのはパートナーだけだし」
前回、紅は【クイーン】の尻尾の攻撃で倒されてる。だからこそ、今回は【ダブル】を防御として使う事にしたんだと思う。左右対称じゃなく、本体と別の動きが可能になったから出来る作戦。
「そうだね。7と三太がどれだけ早く来てくれるか。それだけで全然変わってくるから」
マンが来る事はないとして、兄さんと三太は可能性はある。特に三太の補助、【神聖魔法】があるかで、戦闘の優劣が変わってくるはず。それに紅や四壱が倒れても、一度は復活させる事も出来る。
「……ちょっと。マジで言ってるの」
紅の言葉は私に対してじゃなく、阿修羅の行動が異常だったから。
阿修羅との距離が縮まるにつれて、姿がハッキリと見えてくる。阿修羅は目の部分だけくり抜かれた白の仮面で素顔を隠し、服装は古代エジプト風と言えばいいのか、身軽な格好。両腕に黒の腕輪をつけて、足は裸足の状態。
阿修羅は【ダブル】の双剣による攻撃を回避じゃなく、腕で全てを捌き、防御もしてる。それは身に着けてる腕輪が盾の役割を担っているんだろう。それも攻撃してる【ダブル】の方が後退を強いられてる。
「……あの体捌きは」
それだけじゃなく、阿修羅の防御が私達の……空手の受けに似ているのは気のせい? 基礎が空手の動きのような感じがする。
【ダブル】の攻撃は尽く弾き返され、最後には【受け流し】をされた事で態勢を崩され、阿修羅の蹴りによって消滅した。
「何よ……あれは。まるで喰われたみたいに凶暴じゃないの。阿修羅が持つ【アーツ】の一つなわけ。それを簡単に見せるなんて……」
阿修羅が見せたのは、空中で両足を鰐が大口で噛み千切るかのように【ダブル】の首部分を挟み込むような上下段からの同時蹴り。
「顎門だ……」
「【顎門】? それは阿修羅が使った【アーツ】の名前なの? 何でそれをカズハが知ってるわけ?」
「【アーツ】の名前じゃなくて、現実で使われた技だから。畏怖も込めて付けられた名前が【顎門】」
【顎門】は空手の試合で何人もの選手を病院送りにした技。それを使う人物を私は知ってる。