宣戦布告
「阿修羅がこんな時間に来るなんて……イベント前のウォーミングアップでもするつもり?」
紅がそんな事を言ってると、阿修羅が私達の存在に気付き、こちらの方に歩いてくる。
「律儀に挨拶をしてくる……なんて思う?」
「そんなわけ!! 阿修羅は一番のPKなんだから。ウォーミングアップ相手に選ばれるのは私達でしょ」
紅がブラックから聞いた話。阿修羅は冒険者を大勢倒してるPK。しかも、特殊な【スキル】のせいか、PKにペナルティはない。もしくは、ペナルティを気にしてないだったよね。
「……だろうね。敵意……殺気がこっちに向けられてるから。一人一人じゃなく、僕達全員を相手にするつもり? こっちから攻撃するのは」
先制攻撃を仕掛けようにも、阿修羅の【スキル】が発動しないと、四壱にペナルティが科せられたらヤバい。この後に【魚人軍襲来】があるんだから。
「ちょっと待って……阿修羅の【スキル】が発動したかも。【宣戦布告】……本当に戦闘を仕掛けるつもりみたいね」
「私のところにも来たわよ」
「勿論、僕のところにもだ。パーティーじゃなくても、複数相手にする事が可能みたいだけど」
スキル【宣戦布告】をされた場合、私達に拒否権はなく、阿修羅を敵として認識して、攻撃を仕掛ける事が可能になったみたい。
しかも、この効果が消滅するのは自分か相手のどちらかが死亡するか、【宣戦布告】した相手がそれを解除するかどうか。
「本当に仕掛けてくるとかさ……アキンドーの仕業じゃないでしょうね」
紅はアキンドーを疑ってるけど、私達が先にこの場所へ来てる事は知らないはず。といっても、阿修羅が先に来て、待ち伏せしてる可能性もあったわけなんだけど……
阿修羅は【宣戦布告】しながらも、ゆっくりと距離を詰めてくる。まるで、私達から先制攻撃をしてこいとばかりに。
「阿修羅はランキング三位の格上。マンと同等か、それ以上の実力だとして……本気で行くしかないよね。先の事は考えずに……僕の一矢で実力を見る」
この戦闘での死亡が【魚人軍襲来】のリタイア扱いになる可能性はゼロじゃない。それは阿修羅も同じ。互いに戦力を削る事になるんだけど、そこを気にしてなんかいられないから。
四壱は阿修羅に向けて、矢を放った。一矢のように見えて、速射による三連射。全てが同じ角度、同じスピードだから、三本の矢を同時に受け止めるのは無理に近いと思う。
阿修羅は態勢を低くし、円を描くかのように走り出した。四壱の攻撃に対して、阿修羅が選んだのは回避行動。低姿勢にする事で、矢を当てるのを難しくさせた。
「本当に戦闘慣れしてる。僕の矢が的確なだけに、矢を放つ位置を読んでるかも」
四壱は構わずに矢を放つけど、当たる場所が分かってるかのように、目の前で移動するルートを変えてくる。勿論、私達の距離は縮まっていく。