ゲーム料理もございます
「……という事は、千城院さんはこの場にいないわけね。昨日みたいにお兄様が千城院グループの代表として来てる感じ?」
今回も千城院さんのお兄様が審査員としている可能性はゼロじゃないし……お兄様がマンだったら、遅刻してくる理由も分かるわけで……
「……これ。貸してあげるから。見てみなさいよ」
百瀬が渡してきたのは双眼鏡。私と違って、遠くからでも見れるように準備万全で来てるし!!
「……分かった。千城院さんのお兄様がゲームのコスプレでもしてるわけ? それだったら全然……」
観客達から少し離れ、台になりそうな場所を見つけて、そこから双眼鏡を覗き込んでみた。
司会進行のレフリーが最初に目が入って、そこから横に移動。ゲームソングともあって、審査員の中にも何らかのコスプレをしてくれてるみたいなんだけど……そこにお兄様の姿はなし。見た目が違うから分からないとかじゃなくて、本当にいない。
千城院さんもそうだけど、お兄様も独特な雰囲気、オーラを出してたというか……それが審査員のメンバーからは全然感じられない。
「お兄様もいないの? というか、今回は千城院グループの人が来てないわけ?」
「……来てる。一番奥に座ってる女性がそう……千様や兄貴と全然違うでしょ」
「一番奥……本当に彼女が千城院グループ……というか、千城院さんの姉妹? 全然違うんだけど!!」
ステージの端にコスプレ審査員達がいる中、スーツ姿の女性がいた。年は……私や百瀬と同じ……あっても一、二歳の年の差ぐらい? 千城院さんの姉か妹になると思うんだけど……
雰囲気が全然違う。オーラが微塵もない……というか、のほほんとした感じ? それに千城院さんとお兄様は銀髪なんだけど、彼女は黒髪。そういえば、千城院グループはトップ、千城院さんのお父さんは黒髪だ。多分、千城院さんとお兄様は母親似なのかも……じゃなくて!!
「本当に彼女が? 全然、千城院さん達と雰囲気が」
「間違いないわよ。開始時に挨拶してたから」
私が彼女が千城院さんの姉妹と疑ってると、ステージの歌が終わり、レフリーの司会進行が早い時間ながらも、午前の部を終了を告げてる。
そして、千城院?の彼女がステージの真ん中まで歩いてきた。
「このイベントの開始前にも挨拶しましたが、今回、千城院グループを代表として来ました千城院千明と申します」
「……本当だ」
名前を口にして、ようやく千城院グループだと分かった。言葉を発したり、佇まいとかの雰囲気が普通の人と全く変わらないから。
「今回、午前の部を短くしたのは、皆様に屋台の料理も楽しんで欲しいと思ったからです。ゲームソングイベントという事もありますし、私もゲームを嗜んでる者として、思った事があります。ゲームの中に登場する料理を食べてみたいと。その願いを叶えるべき、ほんの一部ではありますが、ゲーム会社の了解を得て、屋台でその料理を販売しています。そこで食事を楽しんで貰えたら幸いです。勿論、私も屋台の料理を全部食べるつもりですよ」
千城院千明は笑顔でそう言って、頭を下げた。その言葉に観客達は多大な声援を上げた後、屋台の方に走っていく。
観客達はゲームソングが目当てで、屋台にそこまで興味がなかったのかも。屋台にあるのは定番のたこ焼き、焼きそば、りんご飴、ベビーカステラと思ってたかもしれないし。マンだったら……それでも飛びつくと思うけど。
「凄っ……彼女がこれを発案したのなら、千城院グループとして納得するかも」
ゲームソングだけでなく、食べ物にも目を向けるのは良いと思う。
「兄さんにライソして、何が欲しいのか聞こうかな」