百瀬はご立腹です
カナリアが歌い終わり、頭を下げた。【カナリア】を作ったゲーム会社に感謝の言葉と一緒に【ユニユニ】の宣伝も。これは【ユニユニ】の運営に頼まれた?
彼女が宣伝するという事は、千城院さんが千として登場しない気がするんだけど……観客達からは溢れんばかりの応援の声が上がってるし、同じイベントで何度も宣伝するの鬱陶しいと思われるかもしれない。
「けど……千城院さんがこの場にいて、私もやってるとか言うのはあり? いや……なしかな」
私や百瀬は構わないけど、同じ大学の子達がこの場にいて、千城院さんが【ユニユニ】をやってると伝えたら、イメージが壊れる可能性があるかも。
多分だけど、千としてプレイする姿を見たら、その価値観は変わるかもしれないけどさ。
「カナリアの歌も良かったけど、千様を出しなさいよ!【ユニユニ】と言ったら、彼女は外せないはずなのに」
カナリアの次に登場したのは千城院さん……千ではなく、ステージの上に男性歌手が登場。格闘ゲーム【路上戦士のテーマソングを歌い始めた。
千の登場がないと判断したファンが愚痴を言いながら、この場を離れようとこちらに下がってくるんだけど……さっきの『カナリア!!』と叫んだ声と同じに聞こえたし。
あっ!! と思わず声が出そうになったのを、手で抑え込んだ。だって、百瀬の姿が見えたから。あの声を出してたのは百瀬で、仲間だと思われたくないというか……こんな人混みの中で百瀬を見つけるとか、そんな偶然ある!?
「ん……あっ!! やっぱり、宮森も来てたのね。一瞬、目を逸らそうとしてなかった?」
私が言葉を詰まらせたのを百瀬は見逃さず、そこにいるのがバレてしまった。歌も始まってるのに気付くのは凄いけどさ。
「気のせい気のせい。丁度来たばかりというか、カナリアが大型モニターに登場した時は驚いた。千城院さんは出演しなかったみたいだけど」
そう言いながら、この場から離脱。観客達の邪魔になるだろうし、人目から離れないと気持ちもあるから。
「本当にそれね!! 千様が【魚人軍襲来】を休む理由がこれだと思ってたのに、登場したのはカナリアでしょ。それも防衛戦を観戦してからだったら、先に千様にオファーを出すべきだよね」
百瀬は千城院さんの代わり……じゃないけど、カナリアが登場した事にご立腹。ファンとして気持ちは分かるけど、変な意味で千城院さんが注目されるのは駄目だから。
「カナリアは歌が上手いのは事実だったから、依頼されたのは仕方ないでしょ。千城院は歌に登場してなくても……審査員とかで参加してないの? 百瀬は知ってる?」
百瀬は朝早くから来場してるっぽいし、私よりも大分前の方にいたはず。ステージの審査員が見えてもおかしくないよね?
「はぁ……それだったら、私が早めに帰ろうとすると思うわけ? ちょっとでも歌う可能性があるなら、私は居残るからね」