道端で寝転がるのも悪くない
「ようやく出発したわけなんだけど……本当にファンタジーの世界なんだ。大自然感が凄いわ」
【アイン】の街を出ると、一面に草原が広がっていて、見える範囲にも他のプレイヤー達が魔物と戦闘をしてる姿が確認出来るし、私達みたいに馬車を護衛して、別の場所に向かうプレイヤーの姿も。
【嘆きの森】もそうだったけど、自然の再現度が凄い。空にある雲もちゃんと動いてるし、風で草木が揺れてたりもするんだから。
そんな中、マンが全裸の状態じゃなくて、本当に良かったんだけど……
「ヒューマ国の王様が王都に続く道を舗装してくれたお陰で、街々の移動がしやすくなったんですよ。以前は馬車の移動すら困難だったんですから」
酒樽を運ぶ馬車の乗り手が教えてくれる。ヒューマ国の王都もすぐに行く事になると思うけど。
その言葉で【MAP】に王都の場所が追加されたみたい。勿論、【ハイソン】も同じで???の場所と入れ替わってる。
「とはいえ、魔物出現まではどうしようもなく、他に移動する時は貴方達みたいな冒険者……ギルドに依頼する事になってるんですよ。依頼なしでも、冒険者達が魔物と戦ってる場面はありますけどね」
それは自身を強化するためだろうね。【アーツ】を覚えたり、強化するには戦闘をしないと駄目だろうから。
「言っておくが、戦闘に乱入するのは無理だぞ。手助けしようと、一度試そうとしたが……近付く事も出来なかったからね」
マン自身の経験談。確かにパーティーを組んでおきながら、他の冒険者が戦闘に乱入してきたら、どうなるのかとは思ったけど……
「冒険者にもルールがあるみたいですよ。クエストは当然として、通常の戦闘でも他の冒険者が乱入する事は出来ないみたいです。例外があるとすれば」
・プレイヤー全員参加型の大型クエストやイベント
・PK可能区域
・通常戦闘において救難道具を使用。受け取ったパーティーのみが参加可能
・プレイヤーではなく、NPCが戦闘している場合
「なるほどね……【嘆きの森】は悪党やマンが戦闘に参加してきたから。私達が今行ってるクエストは、戦闘が起きたら、誰の助けもなしって事だ」
PK達に襲われた時は本当に面倒だったから。勝手に乱入してきて、手柄を奪われるのをなしにした形かも。
「そういう事です。まぁ……今も冒険者達が魔物達を狩ってるみたいなので、無事に全部の酒樽を運べるかもしれませんね」
「それはそれで困るんだけど……」
【荷物運びの護衛】と一緒にもう二つのクエストを達成させるつもりだから、魔物が私達に襲ってきて欲しいところなんだよね。
「ん? あれは……人が倒れてる!?」
舗装された道から離れた場所に誰かが倒れてる。NPCなのか、プレイヤーなのかも分からない。戦闘……はしてないみたい。プレイヤーが倒された場合、最後に寄った街に戻されるはずなんだけど……
「私も一度やった事がある。ああいう場所で寝転がるのも案外悪くない。開放的になるというのか、体が回復している感じがするぞ」
「へぇ〜そういうもの……なわけないじゃん!! 魔物に襲われるだろうし、周りの視線が凄いでしょ」
「そこは全然気にならなかったが……誰からも襲われる事はなかったぞ」
体力が自然回復するのは【ユニユニ】の中だと普通の事だよね? 以前に一度やった事があるのも、パンツを履いてない状態だからでしょ。開放的過ぎて、他のプレイヤー達もビックリするだろうし、距離を取ろうと思うから。
「はぁ……マンは別として、倒れてるのは冒険者じゃないよね? NPCなら助けてあげるべきかもしれないけど……」
他のプレイヤー達は倒れてる人を無視して、通り過ぎて行く。私達にしかその人物が見えてないような……そうだとしたら、罠っぽい気がしないでもないんだよね。
「荷物運びの途中とはいえ、倒れてる人を無視するわけにもいかないでしょ。声を掛けても問題ないですよ」
馬車の乗り手も倒れてる人が見えてるようで、声を掛けても大丈夫だと言ってくれてる。
「そう言うのであれば、声を掛けるけど……私一人で行くから、マンは馬車から離れないでよ」
「了解した。腹を空かしてるようであれば、【BOX】の中に先程のハンバーガーを買い置きしてある。それを渡しても構わないぞ」
「どれだけ買ってるのよ……多分、それは必要ないと思うけど、敵だと判断したら、☓印を両手で掲げるから警戒してね」
周囲を確認しても、誰かが隠れる場所はなさそうなんだけど、念には念を。酒屋の店長も野盗には気をつけろと言ってたわけだしね。それに……倒れてるのが野盗じゃなかった場合でも、【NPC十人に話し掛ける】を消化出来るわけだから。