麻婆丼
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「はぁ……疲れた。今日が本番じゃなくて良かった。というか、日曜もギリギリの時間じゃないの。七月からは金曜日だけにしたけど……」
七月前半のバイトは金曜日だけ。【ユニユニ】のためにバイト自体を辞めるのもありだと思ったけど、流石に兄さんも新しい仕事を始めたばかりだし、迷惑を掛けるわけにはいかないからね。
「【ログイン】前にご飯は食べておかないと。バイトが飲食店なら賄いを食べるなり、持ち帰るのもいいんだけど……」
私のバイト先は小さな雑貨屋。主に品出しや荷物運びが仕事で、レジはあまりやってない。荷物運びでも、そこまで足の負担もないから大丈夫。
「あっ……麻婆丼がラップされてる!! ラッキー」
兄さんからライソで『先にログインしてるぞ』と入ってた。ブラック会社じゃないから、普通に家に帰れてるみたい。いや……今は家にいる方が多いのかもしれないけど……
「って、兄さんが準備した? それとも……流石に四壱もこの時間だと自分の家にいるよね」
四壱には前科があるから。兄さんのために晩御飯を作りに来た可能性もある。あわよくば、兄さんが【ユニユニ】をしている間に……危険時には起きるように設定してるから大丈夫だと思うけど……
「……いないね。今はゆっくりご飯を食べとこ。アキンドーとカナリアの防衛戦は終わってるはずだし」
今の時間は二十一時を過ぎたところ。【魚人軍襲来】は防衛場所を六時間守るわけなんだけど、それは【ユニユニ】の時間であって、こっちでは二時間。現実の一時間は【ユニユニ】の三時間になるから。
「兄さんと四壱はアキンドー達の戦闘を見てるはず。マンは……どうなんだろう?」
紅は三太をしごくつもりでいたから、マンもそれに参加してるか、食べ物巡りでもしてるような気もする。
「先に【ログイン】場所が何処になるかなんだよね。ヒューマ国なのは確かなんだけど……兄さん達と合流出来るのはイベント時だけになるかも」
【魚人軍襲来】が始まると、イベント参加時以外は獣人の国に入れなくなる。行った事もない国に移動させられるのは……だったら、私やマン達はヒューマ国内。兄さんと四壱はエルフの国の方になるはず。
「兄さんとは【フレンド】になってないけど……状況は【ユニユニ】じゃなくても話せるから」
【ユニユニ】を一緒にやってるメンバーが家族だったり、友人だったりするのは強みかも。
「【天使の微笑み】も情報料として貰ったから、イベント開始までの間に、ヒューマ国にある教会でも回ろうかな。【神聖魔法】の数を増やす事に越した事はないはずだし」
一応、私も僧侶だからね。三太が早くに死亡する可能性もあるから、回復や補助の魔法を覚えるなり、強化しないと。今回もそうだけど、先々を考えると……千城院さんのパーティーに入るためには必須でしょ。
三十分後……
「ご飯も食べたし、シャワーは……【ユニユニ】が終わってからにして……さっさと【ログイン】……する前に」
歯を磨いておかないと。麻婆丼を食べた口臭が【ユニユニ】に反映されたら嫌だから。ないとは思うけど、念のためにね。