暴走
「ここ!!」
ウルフルの右拳に合わせて【受け流し】をすると、それに勢いがあったのか、ウルフルの体は半回転して、体勢を崩……したわけじゃなく、それを利用された。
半回転したように見せて、勢いを利用しての全回転。そこに尻尾による攻撃が私の横腹を薙ぐ。
【クイーン】戦でも尻尾を利用した攻撃はあった。それを警戒してなかったわけじゃない。ただ、獣毛が赤色に変わった事で尻尾の硬度が増していた事と、的以外の箇所のダメージがないという事で目を曇らせてしまった。
「しまっ!!」
横腹ともあって、尻尾の攻撃によるダメージはない。けど、私の体を宙に浮かせ、逆に体勢を崩されてしまう形に。
「まずは一撃を返させて貰うぜ!!」
ウルフルの言葉で腹を十字受けでガード。さっきのお返しとなれば、腹を狙ってくる……と思ってたのに、攻撃した箇所は左足。ウルフルは左足に爪を深々と突き刺した後、距離を取った。
「左足……」
血がドクドクと流れて、痛みが体中に走る。それは【ユニユニ】で受けたどのダメージよりも深く感じて……
「素手で攻撃してくる以上、足技も警戒するべきだろ? 機動力も奪えて、防御するための踏ん張りも効かない。どうした? 顔を下に向けてよ。この攻撃がそんなに痛かったか」
「あの狼、ちゃんとB級冒険者の実力があったんだ。言葉の駆け引きもあったみたいだし」
「うっ……あれは痛いですよ。すぐにでも回復を……させてくれますかね?」
「足を狙うのは……ちょっとヤバいかもしれない」
紅や三太、四壱の言葉は私の右耳から左耳へと通り過ぎていく。足の痛みが事故の記憶を呼び起こす。
「なんなら、もう一度同じ……ぶはっ!!」
「嫌な記憶を思い出したじゃないの!! 絶対に許さないから」
「しょ、正気か!? 痛めた左足で蹴りをしてくるなんて……血塗れになってるぞ」
私は回復もせず、足の痛みを無視して、ウルフルの顔面に上段蹴りを食らわせた。その威力に足から血が出るのもお構いなしに。ウルフルの顔に着いてる血は、私とウルフル両方だ。
「それがどうしたっての!! 動けば十分。ここでは回復する方法もあるんだから」
次は左足を軸にして、右足で尻部分を蹴り上げる。そこがウルフルの見えなかった的の部分。尻尾で隠されていたけど、横腹を攻撃された時に見えた。
「ぐっ!! 左足のダメージはちゃんとあるな。踏ん張りが弱くなった事が運の尽きだ」
ウルフルは蹴り上げられた勢いを利用して、縦回転をしての蹴りをくりだし、私の後頭部にある的を狙ってきた。私はそれをしゃがむ事で回避。
「反応はするだろうと思ったさ!!」
そこにウルフルは尻尾による追撃。後頭部ではなく、右肩に叩き付けてきた。尻尾はさっきみたいな硬さはなく、叩きつけた時にバネのような反動で、上への回避と繋げてきた。
「これで肩も壊れたはずだ。今度こそ、まともに動く事も……待て待て!! その足で俺様よりも高く跳ぶとかありえないだろ!? 狂人か!!」
私は右肩の痛みさえも無視して、ウルフルの後を追うようにジャンプ。奴のいる場所を通り越し、的なんか関係なく、両手をハンマーのように握りしめて、地面に叩き落とした。