カズハVSウルフル
「聞こえたぞ!! 貴様達の方が俺様の事を舐め過ぎだ。ベアードを倒した男がいたとしても、仲間が女と優男ばかり。しかも、その半分が前衛職でもない。痛い目をみないと分からないのなら」
私達の声が聞こえたみたいで、獣人の集団の中から銀色をした狼の獣人がこっちにやってきた。そいつもパンツ一枚……じゃなくて、破けたジーパンを履いてるだけで、上半身は裸だ。
「ウルフルか。此奴もベアードと同等の力を持っておる。獣人は血気盛んな奴が多くてのぅ……ベアードを倒した男以外、一人でウルフルを倒すのであれば、あそこにいる全員が相手になっても構わんぞ」
「大見得を切ったところで、俺様に挑戦しようとする奴はいないだろ。何なら、そこの全員を相手にしてもいいぐらいだ」
亀王もそうだけど、狼人のウルフルも挑発してくる。それにベアード以外の獣人達からも笑い声が聞こえてくるし。
「私一人で十分だから。紅も四壱も別に構わないよね? それと……コイツを倒したからって、戦闘演習には参加出来ないというのはなしだから」
「仕方ないわね。こんな時じゃないと僧侶相手に一対一とかしてくれなさそうだし」
「僕も構わないよ。久しぶりにカズハの試合を見てみたいしね」
紅と四壱もウルフルの相手を譲ってくれた。しかも、相手がB級の実力者なんだから、楽しみでしかない。
「はぁ……僧侶なだけじゃなく、女が相手か? せめて、男を出せよ。弓使いの優男でも、僧侶よりかはマシだろ?」
ウルフルは溜め息を吐いて、やれやれと両手を上げた。
「負けるのが怖くて、そんな事言ってるわけ? 僧侶とだと甘くみないで、全力で来なさいよ。舐めプしたのを理由にされたくないし」
私は半身で構える。戦闘は真面目に。挑発したとはいえ、相手は格上だと思っておかないと。
「武器もなしに舐めてるのか? と言いたいが、構えが様になってるじゃねえか。それだけだろうが」
ウルフルも少し離れてからの戦闘態勢。それは両手を手に着け、本来の獣の姿。威嚇する姿に? いや、獲物を狩るための構えになってる。
「少し待つのじゃ。この勝負は【戦闘演習】と同じルールを適用しないと駄目じゃな。。体に五つの的を表示する。その全部に攻撃を先に当てた方が勝ちじゃ。殺す事は出来なくなっておるから安心するんじゃな。【戦闘演習】はこの勝負の結果次第で多少ルールは変更するかもしれんぞ」
亀王がそう言うと、ウルフルの体に的が浮かび上がってきた。見える箇所で言うなら、顔と右手。他三つは腹や背中、足なのかも。
私の体にも的が表示され、腹と左足、右肩にある。ウルフルの的の場所が一致するわけでもないみたい。
「死ぬ事がないなら、ダメージはどうなるわけ? 的以外の体に攻撃が当たる事もあるよね?」
戦闘に集中するため、私じゃなく、紅が代わりに聞いてくれた。
「的以外に当たる攻撃は無効じゃ。ダメージは入らん。的に当たれば……死にはせんが、ダメージによる棄権もありとしとくぞ」
的は当たればダメージあり。死にはしないけど、痛みによる動きの低下はありそう。的に攻撃を受けるだけ、不利になっていく寸法ね。
「ルールは分かったじゃろ? それでは『はじめ!!』の声が開始の合図じゃ。戦闘範囲は……必要ないか。それでは……『はじめ!!』」