そのネタはすでに死んでいる
「お、置いて行かないでください」
「あっ……忘れてたわ。というか、何で三太の方がボロボロになってるのよ」
息も切れ切れに三太がようやくマンと紅に追いついてきた。獣人と勝負をしたのはマンと紅なのに、何故か三太の方が髪や服装がもみくちゃになった状態。もしかして、僧侶でも獣人と戦闘出来る方法を見つけたとか?
「これは……師匠と姐さんが勝利した後、獣人の方々が二人に話し掛けようと集まってきて……それに巻き込まれただけです」
二人は熊人と鶏人の獣人に勝利したみたい。マンに限っては負ける事はないと思ってたけど、新たに勝負を挑もうとしてきた獣人を、マンと紅は上手くあしらったけど、三太はそうもいかなかったらしい。というか、三太自身は観客の一人に過ぎなかったから、渋滞に巻き込まれた感じ?
「師匠? 姐さん? ああっ!! カズハが言ってた、マンに弟子入りした人だ!! 辞めなかった事に一安心したんじゃない? 姐さんというのは……」
「言っておくけど、私じゃなくて、紅の事だからね」
マンが師匠だから、私も別の呼び名が良いなんて言わないから。
「ちょっ!! これには理由があって……教える方にも威厳が必要でしょ?」
紅は姐さん呼びを気に入ってたのに、四壱に知られるのは恥ずかしかったみたいで、必死で言い訳を言葉にしてるし……
「あ、あの……イケメンの彼は一体……姐さんの彼氏ですか? もしかして、僕とのパートナー解消!?」
三太は四壱を紅の彼氏と勘違いしたみたい。マンも紅と四壱が仲良くなったと思ったぐらいだし、紅の態度が……
「四壱に負けず劣らず、私もイケメンだと」
「そのネタはあの時で終わってるから、余計な事を言わなくていいから」
マンは四壱に対抗して、三太にイケメンとか、格好良いと言われたそうだったけど、【救出作戦】のクエスト時の展開で十分。
「ち、違うからね!! 【フレンド】にはなったけど、ライバル的存在よ。今回のイベントでカズハ、筋肉ペアだけじゃなく、四壱とも勝負するつもりよ」
紅は即座に否定。紅もこんなところで三太とパートナー解消になったら、イベントをソロで参加する事になってしまうからね。
「そういう事。僕のパートナーはすでに決まってるから、安心しなよ」
四壱もパートナーがいる事を知り、四壱と紅の顔を交互に見て、三太はホッとした顔になった。今更なんだけど、三太にも今回の勝負の事をちゃんと伝えておくべきだったかも。
「時間も勿体ないし、ギルドへ向かいながら、今回の勝負について軽く説明してあげる。僕達が今から向かう場所は、あの宮殿。実はあそこが獣人の国のギルド本部だから」
「「えっ!?」」
私と紅は思わず、驚きの声が出てしまったじゃないの。
「あそこは獣人の国の王様がいるところでしょ? 宮殿の一部をギルドに提供してる感じなの?」
関所の臨時ギルドでも、机やクエスト提示用の掲示板はあったのにも関わらず、それが見渡す限り、一切ないんだよね。受付が並んでる姿もないから。それでも、あの宮殿がギルド本部とは思えないでしょ。
「そう思うのも無理はないよね。僕も最初はそう思ったから。あの宮殿は獣人達が作ったわけじゃなく、敵側らしいわ。それをギルドが再利用してるみたい。この状況を見て、分かると思うんだけど、獣人達はそこまで建物を必要としてないんだよね」
四壱も自分も間違ったからと、ウンウンと頷いてる。それを知ったのは兄さんからの情報なのか、NPCに聞いたのか。
「それなら、獣人の国に王様はいないわけ? 国がある以上、流石にそれは……」
「獣人の国の王様? あそこにいるのが王様だと聞いたけど……話し掛けてはいないかな?」
紅の質問に、四壱は獣人王の居場所を指指した。その先にいたのは百獣の王ライオンの姿をした獣人。その獣人は必死に筋トレをしてるんだけど……
「あれは……ライオンマスク!! 本物が……」
「いるわけないでしょ。ある意味、本物ではあるけど」
マンはクイーンに破られたライオンマスクを思い出したみたいだけど、あれはアニメキャラだから。あっちの方がリアルにライオン顔だし……
「ライオンマスク? 違う違う!! 獣人の王様はライオンの方じゃなくて、その先にいる亀の爺さんの方」
ライオンの獣人の先……甲羅を背負った禿げた爺さんがいるけど、あれがそうなの!! 防御力をあっても、見るからに弱そう……
「力よりも知恵があるんじゃないのかな? 【魚人軍襲来】も王様が亀だった事があるかもしれないしね」
確かに!! 獣人なのに亀!? と思ったけど、今回のイベントを考えると、水陸両用の亀は納得出来るかも。